第二十二話 未来予知
――数日前。
世界各地。
七人の守護者のもとへ、一通の書簡が届けられた。
差出人の名はない。
封蝋に刻まれた七つ星の紋章だけが、その送り主を物語っていた。
書かれていたのは、ただ一文。
『白き月が天を満たす夜、七つの鏡は再び一つとなる。』
それだけだった。
七星は誰一人として理由を尋ねない。
それがウォッチャーからの呼びかけであることを知っていた。
◇
満月の夜。
世界各地。
七人の前で、鏡面が静かに揺らいでいた。
鏡には己の姿は映らない。
静かな水面のように揺らぐ鏡面へ、一人、また一人と七星たちの姿が映し出されていく。
全員が揃うまでの束の間。
獣の耳を持つ大男が、鏡に映る面々を見渡した。
「こうして顔を合わせるのも久しぶりだな。」
エルフの男が静かに頷く。
「一年ぶりくらいか。そちらは変わりないか?」
「ああ。」
大男はそう答えたものの、先ほどまで浮かべていた笑みを僅かに消した。
「状況は変わらんな。また、集落が一つ消された。」
「……そうか。」
エルフの男の表情が曇る。
それ以上は何も尋ねなかった。
僅かな沈黙の後、エルフの男は鏡に映る他の者たちへ視線を向けた。
「他は何か変わったことはあるか?」
「こちらは、今のところ動きはない。」
白髪の男が静かに答える。
そして、東国風の装束を纏った女剣士へ視線を向けた。
「東はどうだ?」
「……こちらも変わりはない。」
女剣士は僅かに目を細める。
「今のところはな。」
久しぶりに顔を合わせた七星たちは、各地の動向について報告し合っていた。
そんな中、大男が鏡に映る面々を改めて見回した。
「しかし。」
首を傾げる。
「ウォッチャー以外は揃ってるようだが、呼び出しておいて最後かよ。」
「ふふっ。」
銀髪の女性が小さく笑った。
「そこは昔から変わらぬのう。」
大男が片眉を上げる。
「昔からって、お前さん、一体いくつなんだ?」
「女子に向かって歳を聞くものではないぞ。」
「ははは! 違いねぇ。」
大男の豪快な笑い声が響く。
先ほどまで僅かに張り詰めていた空気が緩んだ。
銀髪の女性も、どこか楽しそうに笑っている。
「しかし。」
それまで黙っていたオーエンが口を開いた。
「ウォッチャーが我ら全員を呼び出すとなれば、ただの近況報告ではないだろう。」
その言葉に、大男の笑い声が止まった。
エルフの男も静かに表情を引き締める。
誰も言葉を発しない。
そして。
その時だった。
鏡面が静かに揺らいだ。
空気が変わる。
鏡の中央へ、一つの影が浮かび上がる。
深いローブ。
その奥に顔は見えない。
男か女かも分からない。
ただ、その姿が現れただけで、静寂が訪れた。
《観測者》。
ウォッチャーは一同を見渡すと、静かに口を開いた。
「――幾夜も経たぬうちに。」
「神聖は神を疑い。」
「公国は友を疑う。」
「強者は公国に集う。」
「運命は交わり。」
「災厄は始まる。」
「そして、死せる竜もまた、運命の地を目指す。」
静寂が落ちる。
誰も、すぐには口を開かなかった。
先ほどまでの笑いは消え、七星たちはそれぞれ予言の意味を考えている。
東国風の装束を纏った女剣士も、僅かに目を細めていた。
やがて、最初に口を開いたのはオーエンだった。
「……そうか。」
それだけだった。
だが、その脳裏には、北の遺跡に現れたという巨大な竜影の目撃報告が浮かんでいた。
予言と無関係とは思えない。
白髪の男が静かに視線を向ける。
「心当たりがあるようだな。」
オーエンは小さく頷く。
「ギルドには、北の遺跡で巨大な竜影が目撃されたという報告が入っている。近く調査隊を出す予定だった。」
「竜影か。」
エルフの男が僅かに眉を寄せる。
「死せる竜というのと、何か関係があるのか?」
獣の耳を持つ大男が、ウォッチャーへ視線を向けた。
「…………。」
ウォッチャーは何も答えない。
銀髪の女性が小さく息を吐く。
「相変わらず分かりにくいのう。」
一瞬、沈黙が流れる。
「強者は公国に集う……か。」
オーエンが予言の一節を静かに繰り返す。
そして、僅かに考えた後。
「……調査は後だ。冒険者は、予定通りエヴァンスに集める。」
ウォッチャーは何も答えない。
ただ、静かに七星たちを見つめている。
再び、鏡の向こうに静寂が満ちた。




