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七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第一章 旅立ち

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第十二話 不穏な影

「クロエお嬢様。」


 メイドが恭しく一礼した。


「こちらはいかがでしょうか。」


 扉が開き、濃紺の礼服に身を包んだカインが姿を現す。


 仕立ての良い礼服は、普段の装いとはまるで印象が違っていた。


「おぉ……。」


 クロエは感心したように頷く。


「かっこいい!」


 だが、そのまま腕を組み、小さく唸った。


「でも今日は違うかな。」


「え?」


「もっと柔らかい感じ!」


「かしこまりました。」


 二人のメイドは迷いなく一礼すると、カインを再び奥へ案内していく。


「ま、またですか!?」


 困惑した声が廊下へ消えていった。


「クロエお嬢様。」


 今度は別のメイドが恭しく一礼した。


「こちらはいかがでしょうか。」


 淡い桃色のドレスに身を包んだエリーが案内されてくる。


 長い赤髪がふわりと揺れ、いつもとは違う可憐な雰囲気をまとっていた。


「わぁ……。」


 クロエは思わず目を輝かせる。


「可愛い!」


 しかし、すぐに首を傾げた。


「でも今日は違うかな。」


 少し考え込む。


「もっと爽やかな感じ!」


「かしこまりました。」


「えぇぇ!?」


 エリーは再びメイドたちに連れて行かれ、その悲鳴が廊下へ響いていった。


 ――しばらくして。


「クロエお嬢様。こちらでございます。」


 二人のメイドが同時に扉を開いた。


 漆黒の礼服に身を包んだカイン。


 淡い空色のドレスをまとったエリー。


 空色のドレスは、鮮やかな赤髪をいっそう引き立てていた。


 二人は互いの姿を見た瞬間、思わず足を止める。


「エリー?」


 カインは目を見開いた。


 いつも見慣れているはずのエリー。


 それなのに。


 柔らかな空色のドレスをまとい、少し恥ずかしそうに立つその姿は、今日はまるで別人のように見えた。


 鮮やかな赤髪の下。


 ルビーのような瞳が、わずかに揺れている。


「カイン……。」


 エリーも思わず息を呑む。


 漆黒の礼服に身を包んだカイン。


 黒曜石のような瞳が、いつもよりどこか凛々しく見える。


 普段の穏やかな少年とは違う。


 少しだけ、大人びて見えた。


 二人の間に、少しだけ照れくさい沈黙が流れる。


 先に口を開いたのはカインだった。


「その……。」


 少し照れくさそうに頭をかく。


「ドレス、似合ってるよ。」


 一瞬きょとんとしたエリーの頬が、みるみる赤く染まった。


「……ありがとう。」


 恥ずかしそうに微笑む。


「カインも、その礼服……すごく似合ってる。」


「そ、そうかな。」


 二人は顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。


 そんな二人を見ていたクロエは、勢いよく立ち上がった。


「うん!」


「これ!」


 満足そうに何度も頷く。


「やっぱり私の目に狂いはなかった!」


「何がですか?」


 カインが首を傾げる。


 クロエは人差し指を唇に当て、いたずらっぽく笑った。


「秘密♪」


 エリーは思わず苦笑する。


「クロエお嬢様って、本当に自由な方ですね。」


「えへへ。」


 クロエは嬉しそうに笑うだけだった。


 その後、パーティー当日の流れや立ち居振る舞いについて簡単な説明を受ける。


 準備を終えた二人は、クロエに見送られながら玄関ホールへ向かった。


「二日後、楽しみにしてるね!」


 クロエは笑顔で大きく手を振る。


「はい。」


「よろしくお願いします。」


 二人は一礼し、侯爵邸を後にした。


 重厚な扉が静かに閉まる。


 クロエは閉じた扉をしばらく見つめると、満足そうに微笑んだ。


「……楽しみ。」


 そう呟き、軽やかな足取りで屋敷の奥へ戻っていった。


◇


 帰り道。


 湖畔を渡る爽やかな風が、二人の間を吹き抜ける。


「公爵家のパーティーか……。」


 エリーがぽつりと呟く。


「少し緊張するね。」


 カインも苦笑しながら頷いた。


「うん。でも、初めての指名依頼だし。ちゃんとやらないとな。」


「そうだね。」


 エリーが小さく笑う。


 二人は顔を見合わせ、もう一度笑った。


 青く輝く湖を横目に。


 二人はゆっくりと宿への道を歩き始めた。


◇


 薄暗い部屋。


 窓はなく。


 壁に掛けられた松明だけが、三人の男を照らしていた。


 その一人。


 赤い瞳をした男が、静かに口を開く。


「それで、揃ったのか?」


「ああ。」


 答えたのは、赤い髪の男だった。


「なんとかな。」


「そうか。」


 赤い瞳の男は、わずかに目を細める。


「では、あれはどうだ?」


「ああ?」


 赤い髪の男は面倒そうに答えた。


「とっくに北の遺跡へ運んでもらってる。」


 そう言って、部屋の隅へ視線を向ける。


 そこには。


 顔の半分を仮面で隠した男が立っていた。


 男は何も言わない。


 ただ。


 静かに二人を見つめている。


「しかしよぉ。」


 赤い髪の男が、苛立たしげに頭を掻く。


「あれを倒すのに、どれだけ苦労したと思ってやがる。俺が作った連中も、相当減ったんだぜ?」


「おかげで、また揃えるのに時間がかかっちまった。」


「問題ない。」


 赤い瞳の男は、淡々と答える。


「あれが再び目覚めれば、都市の一つなど容易く灰燼と化す。」


「だったら、最初から使えばいいだろうが。」


 赤い髪の男が鼻を鳴らす。


「いや。」


 赤い瞳の男は、静かに首を振った。


「まずは、人間同士で争ってもらう。」


 僅かな沈黙。


「そのための駒は、すでに揃っている。」


「けっ。」


 赤い髪の男は、つまらなそうに吐き捨てる。


「めんどくせぇな。相変わらず。」


 赤い瞳の男は答えない。


 ただ。


 暗闇の中で。


 静かに笑みを浮かべていた。

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