第百十六話 手紙
――三日前。
アルカディア神聖国。
王城。
レオンの執務室。
机の上には、今日も大量の書類が積み上げられていた。
レオンは一枚一枚、静かに目を通していく。
カインたちと別れてから、間もなく三か月。
その間も、レオンは教会を調べ続けていた。
公国襲撃時の不可解な動き。
黒装束の男たちが最後に叫んだ言葉。
そして、教会へ内偵に送り込んだ部下の死。
全てが、一つの疑念へ繋がっていた。
――コンコン。
「失礼いたします。」
一人の側近が部屋へ入ってくる。
「レオン様。こちらをご覧下さい。」
一通の書面が差し出された。
レオンは静かに目を通す。
その表情が、僅かに険しくなる。
「……これは。」
「内容は事実か?」
「はい。」
側近が頷く。
「騎士団へ武具を卸している商人が証言しました。」
「教会にも、騎士団と同じ武具を大量に卸したと。」
レオンが眉をひそめる。
「時期は?」
「トライデン公国がアンデッド兵の襲撃を受ける前です。」
「時期も一致しております。」
「……そうか。」
レオンは書面へ視線を落とす。
教会が騎士団と同じ武具を大量に購入した。
その後、同じ武具を身に着けたアンデッド兵がトライデン公国を襲撃した。
それだけで、全てを断定することはできない。
だが。
偶然と片付けるには、あまりにも出来すぎていた。
「それと……。」
側近が続ける。
「アルカディア教会自治領にて、不穏な動きがございます。」
レオンが顔を上げる。
「不穏な動き?」
「はい。何やら、大陸中から信者を集めているようです。」
「更に、例の商人は最近も大量の武具を教会へ卸したそうです。」
部屋に静寂が流れる。
「……そうか。」
レオンは机へ向かい、羊皮紙を広げる。
そして、二通の手紙を書き始めた。
一通は、自由都市リヴァルの冒険者ギルド本部宛。
もう一通は、トライデン公国のアリアーナ・エヴァンス宛だった。
書き終えると、二通の手紙を側近へ手渡す。
「こちらは、リヴァルの冒険者ギルド本部へ。」
「アルカディア神聖国からの特別クエストとして届けてくれ。」
「畏まりました。」
「そして、こちらはアリアーナ殿へ。」
側近は二通の手紙を受け取り、深く一礼した。
「必ず、お届けいたします。」
レオンはゆっくりと立ち上がる。
「私は、これより父上の元へ向かう。」
そう言うと、執務室を後にした。
◇
暫くして。
自由都市リヴァル。
冒険者ギルド本部。
最上階。
オーエンの私室。
ギルドマスターが、一通の書面を差し出した。
「アルカディア神聖国より、特別クエストです。」
オーエンは書面へ目を落とす。
「それで、どうするつもりだ?」
「Dランク以上の冒険者を対象に、希望者を募ります。」
「……分かった。」
ギルドマスターは一礼し、部屋を後にした。
静寂が戻る。
(これは、アルカディアの内政問題。)
(私自らが動く話ではない。)
その時だった。
部屋の隅に置かれた姿見に、淡い魔力が揺らめく。
やがて、鏡の中にウォッチャーの姿が映し出された。
オーエンは無言で見つめる。
ウォッチャーが静かに口を開いた。
「対価を受け取りに来た。」
「お前には、アルカディアへ行ってもらう。」
その言葉だけを残し、鏡の光は消えた。
再び、ただの姿見へ戻る。
オーエンは何も映さなくなった鏡を、静かに見つめていた。
◇
三日後。
夕方。
アリアの別邸。
アリアは、先ほど届いた一通の手紙を手にしていた。
差出人は、レオン。
アリアは静かに封を切る。
隣では、カインが不思議そうに尋ねた。
「アリア先輩。何て書いてあるの?」
アリアは手紙へ目を落としたまま、静かに読み進める。
「トライデン公国を襲撃したアンデッド兵に、アルカディア教会が関与していた可能性が高い。」
皆の表情が変わる。
「現在、アルカディア教会自治領には、大陸中から信者が集められている。」
「更に、教会が再び大量の武具を購入したことも確認された。」
アリアは、その先を読み上げる。
「準備が整い次第、アルカディア教会本部へ乗り込むことになる。」
部屋の空気が変わる。
「厳しい戦いになるだろう。」
一呼吸。
アリアの表情が僅かに曇る。
そして、最後の一文を静かに読み上げた。
「もし、私が戻らなかった時は。」
「妹を、頼む。」
その言葉に、セシリアの瞳が大きく揺れる。
「……お兄様。」
小さく声が漏れた。
誰一人として、言葉を掛けることができなかった。




