↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第一章 旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/117

第九話 少年の背中

 黒い魔剣の切っ先が、真っ直ぐカインへ向けられている。


「なぜ分かった?」


 男が低い声で問いかけた。


 カインは答えに詰まった。


 どう説明すればいいのか、自分でも分からなかった。


「…………。」


 男は口元を歪め、ゆっくりと距離を詰めた。


「お前のせいだ。」


「……。」


「完璧だった襲撃が失敗した。」


 黒い魔剣を握る手に力がこもる。


「仲間は捕まり、計画もすべて潰れた。」


 男――バルドの瞳に、怒りが宿った。


◇


 少し離れた場所では、護衛の兵士がクロエのいるテントへ駆け寄っていた。


「クロエ様!」


「はい!」


「すぐに逃げられるよう、外へ!」


 声を掛けられ、クロエは急いでテントを出た。


 周囲では、まだ兵士たちと盗賊の戦いが続いていた。クロエを守るように数人の兵士が周囲を固め、その少し離れた場所ではエリーもロッドを構えて警戒していた。


 クロエは、兵士たちの向こうにカインの姿を見つけた。


 黒い魔剣を持つ大柄な男と向かい合っている。


「カイン……。」


 小さく、その名を呼んだ。


 その時だった。


 バルドが魔剣を振り上げた。


「死ねーっ!!」


 爆発するような魔力が黒い刀身から溢れ、周囲の空気が震えた。


 次の瞬間、魔剣から放たれた巨大な火球が、一直線にカインへ襲いかかった。


「……っ!」


 クロエが息を呑む。


 熱風がカインの頬を焼いた。


「カイン!!」


 エリーの叫び声が響く。


(まずい……!)


 今まで受けたどんな攻撃よりも、明らかに威力が違う。


 横へ跳べば、避けられるかもしれない。


 だが、その先にはクロエとエリー、そして護衛の兵士たちがいる。


 自分が避ければ、炎はそのまま彼女たちへ向かう。


(……それは駄目だ。)


 カインは剣を握り直した。


 巨大な炎が目前に迫る。


 その瞬間、周囲の音が遠ざかった。


 炎の揺らめきがひどくゆっくりと見える。まるで時間そのものが引き延ばされたかのようだった。


 だが、それは一秒にも満たない刹那。


(どうする……?)


 受け止めることはできない。


 なら――。


(斬るしかない!)


 剣を強く握り締める。


 もう、余計なことは考えなかった。


 ただ、迫り来る炎へ向かって剣を振り抜いた。


 身体の奥から溢れたオーラが、吸い寄せられるように剣へと集まる。


 淡い蒼白い光が刀身を包み、その軌跡が夜の闇を切り裂いた。


 光を纏った刃が、迫り来る炎とぶつかる。


 ――轟音。


 巨大な火球が、真っ二つに裂けた。


 左右へ割れた炎が夜空を焦がし、凄まじい熱風が草原を吹き抜ける。


「な……。」


 バルドが目を見開いた。


 クロエも、周囲の兵士たちも、誰もが言葉を失っていた。


 エリーも思わず息を呑んだ。


 カインが無事だったことに安堵する一方で、その視線は淡い蒼白い光を纏った剣へと向けられていた。


(オーラ……。でも、あんな使い方、見たことない。)


 やがて、刀身を包んでいた蒼白い光が消えていった。


「今だ! 取り押さえろ!」


 兵士の声が響いた。


 我に返った兵士たちが、一斉に駆け出す。


「くそっ!」


 バルドもすぐに魔剣を構え直した。


 最初に斬りかかった兵士の剣を、黒い刃が弾き返す。


「ぐっ!」


 兵士が体勢を崩した。


 その横から、別の兵士が斬り込む。


「邪魔だ!」


 バルドが魔剣を薙ぎ払い、兵士たちは咄嗟に後ろへ跳んでその一撃をかわした。


 さらに二人が左右から迫る。


「おおおっ!」


 バルドは一人の剣を受け止め、その身体を力任せに押し返すと、続けてもう一人へ魔剣を振るった。


 兵士が剣で受け止め、激しい金属音が夜の草原に響く。


 その間にも、別の兵士たちがバルドを囲んでいった。


「ちっ……!」


 バルドは周囲を見回し、魔剣を握り直した。


 黒い刀身から、再び魔力が立ち昇る。


「させない!」


 カインが地面を蹴った。


 バルドが振り向く。


「なっ――」


 カインは一気に間合いを詰め、振り上げられようとした魔剣へ剣を叩きつけた。


 ――ガキィンッ!


 激しい金属音とともに、バルドの手から魔剣が弾き飛ばされた。


「今だ!」


 その隙を、兵士たちは逃さなかった。


 二人が左右からバルドの腕へ組みつく。


「離せっ!」


 バルドが一人を振りほどく。


 だが、すぐに別の兵士が背後から飛びかかり、さらに兵士たちが次々と加わった。


「ぐっ……!」


 バルドの膝が地面についた。


 それでも、バルドはなおも立ち上がろうとする。


「この……!」


 しかし、もはや振りほどくことはできなかった。


 数人の兵士が総がかりで、その身体を地面へ押さえ込む。


 兵士たちはバルドの両腕を拘束した。


 ようやく、戦いが終わった。


 張り詰めていた空気が、少しずつ緩んでいく。


 クロエは、その場から動けなかった。


 先ほど目にした光景が、まだ頭から離れない。


 自分たちへ迫っていた、巨大な炎。


 その前に立っていた、一人の少年。


 逃げることなく、真正面から剣を振り抜いた。


 少し離れた場所で、黒髪の少年が静かに剣を下ろした。


 クロエは、その姿をただ見つめていた。


 ――その背中から、目を離すことができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。