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七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第六章 学園

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第百五話 準決勝

 ダルトンが先に動いた。


 鋭く踏み込み、右から剣を斬り払う。


(左!)


 カインは身体を捻り、目の前を掠める剣先を躱した。


 だが、ダルトンの攻撃は終わらない。


 そのまま身体を回転させ、勢いを乗せた回転斬りを放つ。


 ――カンッ!


 カインは剣を合わせ、その一撃を受け止めた。


 互いに距離を取り、再び剣を構える。


(……ちゃんと見えてる。)


 アリアとの修行。


 そして、カイザーとの死闘。


 その全てが、確かに自分の身についている。


 以前とは違う。


 今なら、相手の動きを冷静に観察できる。


 ダルトンの剣は速い。


 それだけではない。


 一つの攻撃を躱されても、すぐに次の攻撃へ繋げてくる。


(……やっぱり、強い。)


 それでも、見失うことはなかった。


 壇上では、マイクが声を張り上げる。


「おーーっと!」


「立ち上がりから、ダルトン選手の積極的な攻撃です!」


「一方のカイン選手!」


「落ち着いて見切っています!」


 会場は大きな歓声に包まれた。


「ダルトン!」


「押し切れー!」


「カイン!」


「頑張ってー!」


 飛び交う声援の中、ダルトンが再び地を蹴る。


 鋭い踏み込みから放たれたのは、一直線の刺突。


 カインは寸前で身体を捻ると、そのまま後ろへ重心を流した。


 ほんの僅かに、体勢が崩れたように見える。


(もらった!)


 ダルトンの目が光り、大きく剣を振りかぶった。


 次の瞬間。


 カインは後ろへ乗せた重心を利用し、一気に身体を回転させる。


 鋭い回転斬り。


「っ!?」


 ――カァンッ!!


 ダルトンが咄嗟に剣を合わせる。


 強烈な一撃を受け、両足が地面を滑った。


「ぐっ……!」


 それでも倒れない。


 数歩押し込まれながらも踏み止まり、すぐさま剣を構え直す。


「おーーっと! ダルトン選手、受け止めたーーー!!」


 マイクの声に、闘技場から大きな歓声が上がる。


「さすがは昨年の準優勝者!」


「カイン選手の強烈な一撃を凌ぎました!!」


 ダルトンは大きく息を吐くと、再びカインを見据えた。


「今のは……危なかった。」


 剣を握り直す。


「だが、この程度で終われるか!」


 ダルトンが地を蹴った。


 先ほどよりも速い。


 右からの斬り払いを、カインが受け止める。


 ――カンッ!


 ダルトンはすぐさま剣を返し、反対側から斬り込んでくる。


 ――カンッ!


 さらに一歩踏み込み、連続して剣を振るう。


 右。


 左。


 そして、正面からの振り下ろし。


 ――カァンッ!!


 木剣が激しくぶつかり合い、カインは一歩後ろへ下がった。


(……速い。)


 だが、焦りはない。


 剣だけを見るのではない。


 肩。


 腕。


 足の運び。


 相手の身体全体を見る。


 ダルトンがさらに踏み込む。


 右肩が動いた。


(右!)


 カインが剣を合わせようとする。


 だが――。


 ダルトンの口元が僅かに緩んだ。


 振り出しかけた木剣が途中で止まり、そのまま軌道を変える。


「っ!?」


 下から跳ね上がる木剣。


 ――カァンッ!!


 カインは咄嗟に受け止めたものの、身体を大きく仰け反らされた。


「おーーっと! ダルトン選手! カイン選手の読みを外したーーー!!」


 歓声が爆発する。


 ダルトンは止まらない。


 一歩、さらに踏み込む。


「相手を見るのは、お前だけじゃない!」


 鋭い横薙ぎが迫る。


 カインは木剣を合わせた。


 ――ガンッ!!


 衝撃に押され、一歩後退する。


 さらにもう一撃。


 カインは受ける。


 また一歩、後ろへ。


 観客席から歓声が上がる。


「ダルトン!」


「押し切れー!」


 だが、アリアだけは静かに二人を見つめていた。


 カインは追い詰められている。


 そう見える。


 けれど――。


(……違う。)


 アリアの目が僅かに細くなった。


 カインは一度も体勢を崩していない。


 受けるたびに一歩ずつ下がりながら、ダルトンの踏み込みと剣の間合いを見ている。


 そして何より、少しずつダルトンの攻撃を誘導している。


 ダルトンが踏み込んだ。


 カインが木剣を横へ構える。


 防御。


 ダルトンには、そう見えた。


(そこだ!)


 ダルトンが木剣を大きく振り上げる。


 受けに回ったカインを、そのまま力で押し切る。


 渾身の振り下ろし。


 その瞬間。


「……上手い。」


 アリアが小さく呟いた。


 カインは受けなかった。


 木剣を構えたまま、僅かに身体を横へずらす。


 ――ブンッ!!


 ダルトンの木剣が、カインのすぐ横を通り過ぎた。


「なっ――!?」


 全力で振り下ろした剣は、すぐには戻せない。


 前へ流れた重心。


 伸び切った腕。


 そして、開いた脇腹。


 カインには、そのすべてが見えていた。


(ここだ!)


 一歩踏み込む。


 身体を捻り、その勢いを木剣へ乗せる。


 ――ドッ!!


「ぐっ……!」


 木剣がダルトンの脇腹を捉えた。


 身体が大きく傾く。


 それでもダルトンは踏み止まろうとした。


 だが、足に力が入らない。


「くそっ……。」


 低いうめき声とともに、ダルトンはその場へ膝をついた。


 もう一度立ち上がろうとする。


 しかし、その身体は動かなかった。


 一瞬、闘技場が静まり返る。


「決まったーーー!!」


 マイクの声が闘技場へ響き渡った。


「ダルトン選手、立ち上がれない!」


「戦闘継続不能!!」


「勝者!」


「カイン選手ーーー!!」


 次の瞬間、闘技場は割れんばかりの歓声に包まれた。


◇


 控え室。


 カインは静かに右手を見つめていた。


 予選。


 本選。


 そして準決勝。


 ここまでは驚くほど順調だった。


 あと一勝。


 決勝の相手は、クロフォード。


 クロフォードの準決勝も、カインは静かに見ていた。


 無駄のない踏み込み。


 正確な剣筋。


 流れるような連撃。


 カイザーのような変則的な剣ではない。


 基本を極めた、正統派の剣。


(……強い。)


(俺の剣とは、何かが違う。)


 カインはゆっくりと右手を握った。


 その時だった。


「カインさん。そろそろお時間です。」


 係の学生が静かに声を掛ける。


「はい。」


 カインは頷き、立ち上がった。


◇


 闘技場へ続く石造りの長い通路は、薄暗く静まり返っていた。


 聞こえるのは、自分の足音だけ。


 一歩。


 また一歩と、カインは歩みを進める。


 あと一勝。


 それで優勝が決まる。


 不思議と怖くはなかった。


 けれど、胸の奥にはこれまでとは違う緊張があった。


 カインは静かに息を吐く。


 その時、ルーシーの言葉が脳裏をよぎった。


『カインよ。』


『お主の剣は……。』


(……まだ、分からない。)


 その答えは、まだ見つからない。


 しかし、もう一つルーシーは言ってくれた。


『お主なら。』


『自ら辿り着けるであろう。』


 カインは静かに拳を握る。


(……なら。)


(絶対に、辿り着いてみせる。)


 一歩。


 また一歩と、歩みを進める。


 やがて前方から眩しい光が差し込み、遠く響いていた歓声も少しずつ大きくなっていく。


 カインは足を止めない。


 光が近づく。


 歓声が近づく。


 そして、暗い通路を抜けた。


 その先には、眩しい光に包まれた決勝の舞台がカインを待っていた。

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