第百一話 帰路
ほどなくして、森の入口から馬の蹄の音が近づいてきた。
騎士団が洞窟へ到着する。
その後ろには、クロエからの連絡を受けたアリアたちの乗る馬車も続いていた。
馬車が止まるや否や、扉が勢いよく開く。
「カイン!」
アリアは飛び降りるように地面へ降り立ち、倒れているカインのもとへ駆け寄った。
その後ろから、セシリアも慌てて駆け寄る。
「カインさん!」
クロエも二人を追うように馬車から飛び降り、そのままカインのもとへ駆け出した。
「カイン! 大丈夫なの!?」
ルーシーは静かに口を開く。
「安心するがよい。命に別状はない。」
三人はその言葉を聞き、ようやく安堵の息を漏らした。
◇
ソフィアの父は、騎士団へ今回の経緯を説明していた。
「娘を助けてくださったのは、あの方たちです。」
騎士たちを率いる男が深く頷く。
「盗賊どもを拘束しろ!」
「はっ!」
騎士たちは洞窟へ駆け込んでいく。
しばらくして、一人の少女を連れて戻ってきた。
「ソフィア!」
「お父様!」
二人は駆け寄り、強く抱きしめ合う。
「無事でよかった……本当に……。」
ソフィアも父の胸へ顔を埋めた。
「お父様……。」
堪えていた涙が溢れ出す。
◇
しばらくして、落ち着きを取り戻した二人はルーシーの前まで歩いてきた。
ソフィアの制服は泥で汚れていたが、大きな怪我は見当たらない。
「ルーシーさん。本当にありがとうございました。」
ルーシーは静かに尋ねた。
「怪我はないかの?」
「はい。おかげさまで。」
「ならばよい。」
ルーシーは優しく頷く。
「学友を助けるのは当然のことじゃ。」
そして、眠るカインへ視線を向けた。
「礼なら、そこに寝ておるカインへ言うがよい。」
ソフィアは眠るカインを見つめる。
「ありがとうございます……。」
小さく頭を下げた。
◇
セシリアはカインへ治癒魔法を施していた。
柔らかな光がカインの全身を包み込み、やがて静かに消えていく。
「傷は治りました。ですが……疲労が大きいようです。」
「まだ意識は戻りません。」
皆が心配そうにカインを見つめていた。
ソフィアも不安そうに尋ねる。
「カイン……大丈夫ですか?」
ルーシーは静かに答える。
「心配ない。じきに目を覚ますじゃろう。」
その一言に、皆の表情は少しだけ和らいだ。
◇
そこへ、リーナがアリアへ歩み寄る。
「アリアお嬢様。騎士団より、盗賊の拘束が完了したと報告がございました。」
アリアは頷く。
「私たちはもう少しだけ、カインの様子を見てから戻るわ。」
「ソフィアたちを連れて、先に戻ってもらって。」
「かしこまりました。」
リーナは騎士団へ伝えに向かう。
ソフィアの父は何度も何度も頭を下げた。
「本当にありがとうございました! この御恩は一生忘れません!」
騎士団は盗賊たちとソフィア親子を連れ、街へ帰っていった。
◇
静かな森。
月明かりが木々の間から差し込んでいる。
「う……。」
「うぅ……。」
カインが小さく身じろぎし、ゆっくりと目を開ける。
すると――
エリー。
アリア。
セシリア。
シルフィ。
そしてクロエ。
五人がじっと顔を覗き込んでいた。
少し離れた場所では、ルーシーが腕を組んで静かに立っている。
「……っ!」
「うわぁっ!」
カインは飛び起きた。
「び、びっくりした!」
アリアがほっとしたように微笑む。
「カイン。大丈夫?」
「……うん。ありがとう。」
クロエも安堵したように息を吐いた。
「よかった……。本当に、目を覚まさないかと思ったんだから。」
「ご、ごめん。」
エリーは腕を組む。
「もう! 本当に心配したんだから!」
「セシリアなんて、泣きながら治癒魔法をかけてたのよ。」
「えっ!?」
セシリアの顔がみるみる赤くなる。
「エ、エリーさん……そ、それは……。」
「で、でも……私、本当にカインさんが心配で……。」
そう言い終える頃には、また少しだけ目が潤んでいた。
シルフィが首を傾げる。
「あれ? エリーも泣いてたよね?」
「なっ! 泣いてなんかないわ!」
「埃が目に入っただけ!」
その一言に、皆の口元が緩む。
穏やかな笑い声が静かな森へ響いた。
◇
ルーシーが踵を返す。
「さっさと帰るぞ、カイン。」
「お主がいつまでも寝ておるから、すっかり遅くなったわ。」
「すみません、ルーシー師匠。」
ルーシーは夜空を見上げる。
月が森を静かに照らしていた。
「もうこんな時間じゃ。今日は街で出店でも巡ろうぞ。」
「夜の『しょっぴんぐ』とやらも、なかなか趣がありそうじゃ。」
少しだけ口元を緩める。
「カイン。妾は串焼きを所望する。」
カインも笑顔で頷いた。
「はい! ルーシー師匠!」
再び、森へ笑い声が響く。
長い一日を終えた一行は、穏やかな帰路についた。




