第百話 師弟
鉄をも穿つ渾身の突き。
その切っ先が、カインの胸へ迫る。
「カイン!!」
エリーの叫び声が森に響いた。
その瞬間、ルーシーの目が大きく見開かれる。
カインの全身を覆っていたオーラが消えている。
違う。
消えたのではない。
胸の一点へ。
カイザーの切っ先が迫る、その場所だけへ集束していた。
(……まさか、こやつ――!)
迫り来る切っ先を前に、カインの目が僅かに細くなる。
(かかった!)
切っ先が胸へ触れた瞬間。
――ガキィィィンッ!!
「なっ!?」
胸の一点へ集束したオーラが、突き込まれた剣先を強引に外へ弾く。
予想もしなかった衝撃にカイザーの手が開き、剣が高く宙を舞った。
カイザーは目を見開く。
(……何だ……。)
(……何が起きた?)
その一瞬、カインは胸へ集束させていたオーラを一気に右拳へ移す。
「おぉぉぉぉーーーっ!!」
カインは踏み込み、渾身の右拳をカイザーの顎へ叩き込んだ。
ゴォォォォンッ!!
鈍く重い衝撃音が森へ響き渡る。
カイザーの身体が大きく宙を舞い、そのまま地面へ激しく叩きつけられた。
土煙が舞い上がる。
誰も口を開かなかった。
風だけが森を吹き抜け、やがて土煙がゆっくりと晴れていく。
そこには、仰向けに倒れたカイザーがいた。
ピクリとも動かない。
(……か、勝った!?)
カインはゆっくりと歩き出す。
一歩。
また一歩。
全身は傷だらけで、左腕は力なく垂れ下がっている。
足取りも覚束ない。
それでもカインは、ルーシーのもとへ向かって歩いていく。
エリーも、シルフィも何も言わなかった。
ソフィアの父もまた、声を掛けることなく、その姿を見守っている。
誰もがただ、ボロボロになった少年が師匠のもとへ戻っていく姿を見つめていた。
ルーシーの前まで来ると、カインは静かに立ち止まった。
ルーシーも何も言わず、カインを見つめる。
「……まぁ。」
「及第点といったところじゃの。」
カインは小さく笑った。
「……すみません。」
その一言を残し、ふっと意識を手放した。
崩れ落ちる身体を、ルーシーは肩で受け止める。
そっと頭の後ろに手を回し、そのままカインを包み込むように抱き留めた。
森を吹き抜ける風が、二人の髪を静かに揺らす。
木々の葉が、さらさらと優しい音を奏でていた。
西の空に残っていた茜色は、少しずつ群青へ溶けていく。
ルーシーは眠るようなカインの横顔を見つめ、その頭を支える手にほんの少しだけ力を込めた。
「……あやまるでない。」
「お主は、よくやった。」
夜の気配を帯びた風が、二人の間を通り過ぎる。
ルーシーは僅かに目を細めた。
「さすが、妾の弟子じゃ……。」




