第96話 袋と道
《ハムラット》がいなくなった隙に、巣穴の前に並んだ袋をもう一度見比べる。
どれも灰色っぽい厚手の布で作られているが、全く同じものではなかった。
大きさや縫い方が少しずつ違い、一つには縫い直した跡まで残っている。
一つだけ持ち上げて中を確認した。
何も入っていない。
底には乾いた土がこびりつき、傾けると細かな砂が少し落ちた。
「何入れてたんだろ」
元の場所へ戻したところで《探知》に反応が一つ増えた。
巣穴の中ではない。
少し離れた草地の向こうから、こちらへ近づいてくる。
「ん?」
待っていると低い草が揺れた。
現れたのは《ハムラット》だった。
頬は膨らんでいない。その代わり、口には灰色の袋をくわえている。
「……また?」
袋を地面へ引きずりながら、草の根に何度も引っかけてこちらへ進んでくる。
《ハムラット》は俺に気づいて一度止まったが、袋を放そうとはしなかった。
そのまま何度かくわえ直し、巣穴の入口まで運ぶと前脚まで使って中へ押し込み始める。
「今度は外から持ってきたのか……」
最初に見つけた袋は巣を掘った時に土と一緒に出てきた。
でも、今の袋は違う。
どこかにこれを拾ってきた場所がある。
俺は《ハムラット》が現れた方へ目を向けた。
草と低い木の向こうには丘が続いている。
王都歴史院で撮っておいた古い地図を開くと、今の地図から消えた道も同じ方へ伸びていた。
「……行ってみるか」
さっきの《ハムラット》の足跡までは追えなかった。
それでも現れた方向を外さないよう進み、低い木のまとまりを横から回り込む。
そこで足元の感触が変わった。
「ん……?」
周囲は緩く傾いているのに、そこだけ地面が平らだった。
草を分けると、土の中から形の整った石が少しだけ覗いている。
道に使われていたようにも見える。
そのまま少し先へ進むと、今度は細い木の先が土から突き出していた。
しゃがんで周りを払う。
「杭……?」
かなり傷んでいるが、自然に生えた木には見えなかった。
古い地図を開き、丘の形と現在地を見比べた。
地図ではこの辺りから道が二つの丘の間へ入っている。
顔を上げると、目の前にも低い土地が丘の間へ続いていた。
「こっちか」
さらに進む。
草に隠れて分かりにくいが、少し先にも平らな地面があり、その端にはもう一本古い杭が残っていた。
地面は周囲より固く、そのまま丘の奥へ細長く続いている。
「これが……例の道か」
――今の地図から消えていた道が本当に残っていた。
俺はそのまま道を辿った。
草に隠れて途切れても、少し先にはまた埋もれた石や踏み固められた地面が現れる。
ただ、歩きやすい道ではない。
木の根を越え、途中で道を塞いだ倒木を回り込む。
昔なら小型の荷馬車も通れそうな幅があったらしいが、今は端が削れて木や岩に押されて細くなっているところも多かった。
「結構続くな……」
かなり歩いただろうか。
気づけばずいぶん時間も経っていた。
振り返っても、最初に道を見つけた辺りはもう木々の向こうに隠れている。
その先を《ハムラット》が一匹、頬を膨らませたまま横切った。
今度は追わずに見送る。
何となく足元を見ると、小さな獣のものに混じって人が歩いたような跡も残っていた。
「……今でも通ってる人がいるのかもしれないな」
さらに進むと、道の片側が大きく削れていた。
残った地面には太い根が張り出し、その下は急な斜面になっている。
何気なく下を覗いたところで足が止まった。
「……袋?」
斜面の途中に灰色の布袋がいくつか引っかかっていた。
巣穴の前で見たものとよく似ている。
ここまでかなり離れている。
《ハムラット》が運んだのか、それとも元からここにあったのかは分からない。
下りて確かめるには斜面が急だったので、場所だけ覚えて先へ進んだ。
道はその先で丘の側面に沿って曲がり、少しずつ歩ける場所が狭くなっていく。
残った地面を選びながら進んでいると、前方の木々の間から急に光が強く差し込んできた。
「そろそろ抜けるか?」
低い枝を押し分け、その向こうへ出る。
「……うわ」
足が止まった。
ここまで何とか続いていた道が目の前でなくなっていた。
少し削れている程度ではない。
地面そのものが斜面ごと大きく崩れ落ち、下には土砂と石、それに何本もの倒木が重なっている。
向こう側には道の続きが見えていた。
でも、俺が立っている場所との間だけ道そのものが丸ごと消えている。
「……これ、どうやって向こう行くんだ?」




