第76話 共同討伐クエスト
ロヴェルたちと《紅狼ヴァルグ》の映像を振り返った日から、数日が経っていた。
俺はあの後、イベント中の拠点を《ルガート村》から《砂門都市カルダ》へ移していた。
カルダの街中は相変わらず新鮮で楽しい。
東門のすぐ近くには以前俺が乗ったものとは種類の違う大型の騎獣が待機していた。
街の通りを歩くNPCの中には小型の獣を荷運びに使っている者もいる。
ときおり建物の上を大きな影が横切り、見上げると飛行獣が岩壁の向こうへ消えていく。
街中だけでなく、周辺地域も歩いていて飽きない。
カルダの外に広がっているのはロヴェルに連れられて騎獣で駆け抜けた《赤砂峡谷の大荒原》だけではない。
俺のレベルでは街からあまり離れられなかったが、カルダ周辺だけでも岩山の間を通る細い旧道や今は水の流れていない古い水路、砂に半ば埋もれた古い建物など、少し進む方角を変えるだけで地形が大きく変わる。
この数日間、Yuruやミナトと一緒に《護衛支援》へ参加することもあった。
リヴィアとは時間が合わなかったため、CRO公式アプリで少しやり取りした。
一度見てもらいたいものがあると言われ、イベントが終わったらまた一緒に遊ぶ約束もした。
それ以外の時間は、ソロで進めやすい《探索支援》を中心に受け、カルダ周辺に残されたMOBの痕跡や行動の変化をひたすら調べていた。
普段とは違う場所に残されていた小型MOBの足跡。
岩陰に集められていた何かの骨。
何かに噛み砕かれたような壊れた盾。
そうした調査の中に、気になるものも混じっていた。
遺跡の外壁に残された大きく擦れた傷。
赤砂の下から現れた幅の広い足跡。
崩れた岩場に挟まっていた《由来不明の物体》。
それぞれ別の調査として見つけたものだが、調査を進めるうちに似たような痕跡がカルダ周辺の複数の場所で見つかるようになった。
◇◆◇◆◇
イベント終了まで残り二日となった頃、俺が《砂門都市カルダ》の大通りを歩いていると、視界の端に新規通知が届いた。
―――――
《共同討伐クエスト》
各地域から集められた調査や報告により、通常の生息域や巡回範囲を外れて活動する大型種の痕跡が確認されました。
以下の大型種を討伐し、各地域の安全を確保してください。
【Lv20帯:ヒューム領域】
対象:《苔鹿メレ》 Lv25
集合場所:《ベルカ村》東部広場
推奨レベル:Lv16~34
【Lv30帯:エルフ領域】
対象:《岩蟹ラドニ》 Lv35
集合場所:《梢の町エルウィン》南門前広場
推奨レベル:Lv26~44
【Lv40帯:ドワーフ領域】
対象:《風鳥アルファ》 Lv45
集合場所:《炉壁都市ドルン》西門前広場
推奨レベル:Lv36~54
【Lv50帯:ダークエルフ領域】
対象:《夜熊ヴァルゴン》 Lv55
集合場所:《夜月の町ノクサ》北門前広場
推奨レベル:Lv46~64
【Lv60帯:ビーストフォーク領域】
対象:《鎧蜥ドルガーレン》 Lv65
集合場所:《砂門都市カルダ》中央広場
推奨レベル:Lv56~70
共同討伐開始日時:イベント最終日の21時~
―――――
五つの種族領域で一件ずつ共同討伐が同時に行われるらしい。
通知を読み終えた直後、周囲にいたプレイヤーたちからも次々と声が上がった。
「五か所同時かよ!」
「最終日の夜か。どこに行く?」
「俺のレベルなら二つ選べるな」
今回のイベント開始から各地で進められてきた三種類の《支援》。
それぞれの地域から集められた情報が、最後に五件の共同討伐へ繋がったということなのだろう。
Lv60帯の集合場所は俺が今いる《砂門都市カルダ》の中央広場だった。
対象はカルダ周辺で確認された《鎧蜥ドルガーレン》という大型のMOBらしい。
通知にはまだ続きがあった。
―――――
【共同討伐の参加条件】
討伐対象より自身のレベルが10以上高い場合、その対象に与える攻撃ダメージは無効となります。
共同討伐への参加および参加報酬の取得はレベル差による制限を受けません。
現在受注している《掃討支援》《探索支援》《護衛支援》は共同討伐中も継続されます。
―――――
【共同討伐への参加方法】
討伐開始時刻までに、各共同討伐の集合場所へお越しください。
集合場所の指定範囲内にいるプレイヤーには〈参加待機中〉と表示されます。
討伐開始時刻になると、参加待機中のプレイヤーは個人、パーティ、連合単位で討伐フィールドへ自動転送されます。
なお、今回のイベントでは各討伐フィールドは100人以上で開始されます。
討伐開始後であっても、集合場所の指定範囲へ入ることで進行中の討伐フィールドへ自動で途中参加できます。
―――――
参加人数が多ければ、同じ討伐対象へ挑むインスタンスエリアが複数作られるのだろう。
あとはレベル制限。
Lv25の《苔鹿メレ》なら推奨レベルはLv16からとなっている。
推奨レベルより低くても攻撃自体は通るが、レベル差が大きいほど与えるダメージは減っていくということだ。
CROを始めたばかりの初期職でも共同討伐への参加はできるが、ある程度戦力になるにはレベルを上げる必要があるだろう。
一方で、Lv35以上のキャラクターが《苔鹿メレ》を攻撃しても、ダメージは与えられない。
高レベルのプレイヤーが低レベル帯の戦場へ向かい、そのまま代わりに倒すことはできない仕組みだ。
どの戦場でも、そのレベル帯を今遊んでいるプレイヤーたちが中心になって戦うことになる。
俺はパーティ募集一覧を開いてみた。
通知が出たばかりなのに、画面を更新するたびに新しい募集が追加されている。
Lv30帯からLv60帯まではすでに盾役、攻撃職、回復職を指定した募集が並び始めていた。
クラン単位で連合へ参加するメンバーを集めている募集もあった。
Lv20帯の募集も少なくない。
ただ、攻撃職は次々と埋まっていくが、盾役やヒーラー、バッファーを求める募集が残り続けていた。
ミナトから個別チャットが来ていた。
―――――
ミナト:おい、PT募集見たか?
ザン:うん。Lv20帯がかなり偏ってるみたいだ
ミナト:だな。昔作ったサブを出すやつも多いらしいぞ
ザン:普段はメインを使ってる人たちが、Lv20帯へサブを出すってこと?
ミナト:Lv20帯なら人も少ないし、サブでも活躍して報酬を狙いやすいって考えてるやつも多いんだろうな
ミナト:低レベル用の盾まで値上がりしてる
ザン:今から新しく育ててる人もいるってことかな
ミナト:イベント終了まで二日か
ミナト:推奨レベルの下限が16だから、育てかけのサブなら間に合うって計算だな
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今の自分のレベルと五件の討伐対象を見比べる。
――ドワーフ領域に現れた《風鳥アルファ》。
――ダークエルフ領域に現れた《夜熊ヴァルゴン》。
俺の場合はこのどちらを選んでも、戦力として共同討伐へ参加できる。
それでも、視線は一番下に表示されたLv60帯へ戻った。
《鎧蜥ドルガーレン》――Lv65。
攻撃自体は通るが、レベル差を考えればまともなダメージにはならない。
俺は《鎧蜥ドルガーレン》の項目を選んでみる。
調査中に遠方から捉えられたらしい姿と現在までに集まっている簡単な情報が表示された。
赤褐色の砂上を這うように進む、いかにも硬そうな装甲に覆われた超大型のトカゲ型MOB。
記録は遠距離からのもので、詳しい行動や状態については【調査中】となっている。
確認地点の一つは俺が《探索支援》で訪れた古い水路からそれほど離れていなかった。
カルダで調べてきた痕跡がどこへ繋がっているのか――自分の目で確かめてみたい気持ちもある。
《探索支援》の調査も進められるかもしれない。
ただ、問題はほとんど戦力にならない俺がLv60帯の戦場で何をできるのか分からないことだった。
見に行くだけならできるだろうが、そんなプレイヤーはいるのだろうか。
答えが出ないまま、必要な消耗品を補充するため、近くの露店が集まる区画へ向かった。
通りにはクエストの通知を見たプレイヤーたちが集まり、人通りは少し前までより明らかに増えていた。
その中に、見覚えのある細身のヒュームが立っていた。




