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第73話 三頭一組


 帰還石の白い光が消えると、俺たちは《砂門都市カルダ》の町中に立っていた。

 体の周囲に残っていた光が細かな粒となって消える。


 今回、俺たちが倒したMOBは一頭もいない。

 報酬となる素材も経験値も手に入らなかった。

 それでも、この探索で得たものは確かにあったと思う。


「結局、戦いになってしまったね。ザン君、すまなかった」


「いえ、全員で戻れましたし。それに……こういうことも含めて楽しかったですよ」


 俺たちは人通りの少ない石壁際へ移動する。


「さっきは名乗る余裕もなかったからな。クラン《Fangline》の熊坊だ。タンクをやってる」


 そう言って右手を出してきたため握手する。

 改めて見ると、熊の獣化率が高そうな見た目だった。


「同じく《Fangline》のひよりです。《トライブプリースト》というヒーラーです」


「私はNanaree。職はローグ系の《ツインスティンガー》だよ」


「ザンです。一次職のスカウトです」


 《Fangline》は大型イベントのランキングや公式掲示板で何度も見たことがある有名なクランだ。

 ビーストフォークのプレイヤーが多いことでもよく知られている。


「じゃあ、ザンって呼ぶぞ。よろしくな」


「ザンさん、よろしくお願いします」


「よろしくね」


「はい、よろしくお願いします」


「それにしても、一次職でよくあの場に残ってたな」


 熊坊が握った手を離しながら言った。


「ロヴェルさんを置いて、一人で逃げるわけにもいかなかったので」


「私としてはザン君だけでも逃げてほしかったんだがね」


「それは無理ですよ」


 熊坊が楽しそうに笑う。


「幼獣に矢を当てなかったのもよかった」


 Nanareeが言った。


「え?」


「最後の矢。幼獣じゃなくて、進もうとしていた場所へ撃ったでしょ」


「ロヴェルさんにも言われてたので。あのままロヴェルさんの方へ行かれると、帰還石を拾えないと思って」


「幼獣を攻撃したら、成獣二頭がどう動くか分からなかったからね。あれで十分だったよ」


「私たちも位置を合わせやすくなりました」


 ひよりも小さく頷く。


「直接戦えなくてもちゃんと役目を全うするのはいいぞ」


 熊坊が俺の肩を軽く叩いてにやりと笑った。


「で、ザン。おまえ、クランには入ってないのなら、うちに来ないか?」


「え?」


「さっきのが楽しかったって言うなら、向いてると思ってな」


 そこで熊坊が豪快に笑った。


「でも、俺はヒュームですし」


「何言ってんだ。こいつを見てみろ。マスターもヒュームだぞ」


「マスター?」


「この人、《Fangline》のクランマスターだよ」


 Nanareeがロヴェルの方を見て、何でもないことのように言った。


「え、ロヴェルさんってマスターだったんですか」


「そうだね。すまない、話す機会がなかったから」


「《Fangline》はこのマスターのせいもあって、ビーストフォークだらけだけど、別に種族を限定しているわけじゃないからな」


「そうだったんですね。でも、俺まだ……」


「あぁ、今決めなくていいよ。ザン君ならいつでも大歓迎だ。入りたくなったら言ってくれ」


 ロヴェルが笑って頷いた。


「ねえ、それでさっきの映像は残ってるの?」


 Nanareeがロヴェルへ話を振る。


「もちろん。最初から全部残しているよ」


「少し確認しておきたいところがあるんだよね」


「ナナさん、気が合うじゃないか。私もすぐに見たかったところだ」


「……気が合うとかではない」


 ロヴェルはそれには反応せず、撮影した映像を全員から見えるように表示した。

 最初の幼獣は逃げるリザードの後ろを真っすぐ追い、そのまま岩へぶつかっている。

 でも、雌が進路を塞ぐ動きを見た後は獲物の逃げる先へ回り込んだ。

 最後には俺たちが向かった細い道へも先回りしている。


「やっぱり。見た動きを別の相手にも使ってるみたいだね。《紅狼ヴァルグ》は戦いながらこちらの動きへ対応してくるけど、これはそれだけじゃないかもしれない」


「戦っている間に動きが変わったようには見えるね」


 さらに映像を進めると、雄と雌は俺たちを追い続けるより、幼獣の傍へ戻ることを優先していた。


「親も俺たちを追うより、幼獣の傍へ戻っていましたね」


「ああ。三頭で一つの群れとして動いていた」


「ちょっと。ここ、少し戻して」


 Nanareeが言うと、ロヴェルが映像を巻き戻した。

 熊坊が大盾を構え、三頭の前へ出た場面で止まる。


「熊さんが《ワイドアトラクト》を使ったあと、雄は熊さんへ向かってる。でも、雌はすぐには動いてない」


「幼獣を見ていますね」


 ひよりが雌の顔の向きを指した。

 幼獣が俺たちの方へ進もうとした直後、雌も身体の向きを変えている。


「俺に引きつけられたんじゃなく、幼獣についてきたってことか?」


「少なくとも、スキルレジストする程度には幼獣へ向かっている注意が強いと思う」


 映像が進む。

 今度はNanareeが雌の前へ入ると、雄が幼獣の反対側へ回り込んだ。


「一頭が前へ出たら、もう一頭が空いた側へ入ってる」


「俺たちと戦うためというより、やはり幼獣の周りを空けないようにしていたんですね」


「一見、三頭とも別々に動いてるようだったが、中心はずっと幼獣だったってことだな」


 熊坊が感心したように言う。


「厄介だな。普通に連携が取れてる。特に親二頭だな」


 Nanareeは映像の中の三頭をしばらく見ていた。


「じゃあ、今回のイベントによる異変で三頭一組のパーティ型MOBになったってこと?」


「俺はそれが一番あり得ると思うぞ」


 熊坊が映像の中の三頭を指した。


「雄と雌と幼獣で一組。イベント中だけ現れる特殊編成ってやつだろ」


 Nanareeが映像を少し戻す。


「幼獣の位置に合わせて、成獣二頭が左右を入れ替えてる。今回のイベントでこういう連携をするようにアップデートされたと考えれば自然だよね」


 イベントによって、それまでなかった編成や行動を持つMOBが現れること自体は珍しくない。

 三頭一組の特殊編成と考えれば、確かに分かりやすかった。


「でも……」


 そこで、ひよりが少し首を傾げた。


「雄と雌がつがいなのでしたら、普通に二頭の間に幼獣が生まれたのではないでしょうか?」

 

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 子を守る行動って発想になると思ったけど、別視点で進んでいてびっくりしました
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