第66話 獣の足跡
「特に足跡が好きとかはありませんが……」
防衛を終えたプレイヤーたちが門の外に散った戦利品を拾いながら、村へ戻っていくのが見える。
「そうか。では、好きになりそうな足跡を見に行こう。ザン君は《紅狼ヴァルグ》という魔物を知ってるかい?」
その横でロヴェルは立ち止まり、北門から続く街道の先を見ていた。
「《赤砂峡谷の大荒原》に生息する大型の狼系MOBでね。大荒原では中ボスのような扱いで、レベル60前後の9人フルパーティーで一頭ずつ相手にするんだ」
「一頭を……フルパーティーですか」
「そうだ。その分、経験値も多いし、手に入る素材もかなりいい。定期的に狩りたいパーティーは多い」
フィールドでそのMOBを取り合っているということだろうか。
「《紅狼ヴァルグ》は大荒原の各地で確認されていてね。同時に現れる正確な数は分かっていないが、一頭しか存在しないタイプの中ボスではないんだ」
「では、何頭もいるんですか?」
「ああ。ただ、《赤砂峡谷の大荒原》はかなり広大でね。そもそも簡単には出会えない。それに討伐されても、時間が経つと同じ一帯で新しい個体が確認される」
ロヴェルがルガート村の外の街道へ目を向けた。
「それぞれがある程度決まった範囲を動き続けている。今のところ、個体ごとに行動域が分かれ、互いに大きく重ならないことまでは分かってきた」
「なんだか、縄張りみたいですね」
「そうなんだ。そう考えているプレイヤーもいるよ。私もその一人だ」
「その行動域の中でも、よく通る谷や立ち止まる場所はある程度まで掴めているんだ。だが、毎回同じ道を通るわけではないから、探している間に別の場所へ移動されることも多い」
「ロヴェルさんは狩り方だけじゃなくて、そういう動きも調べてるんですね」
「そうだね。私の場合はそっちのほうがメインだよ。ただ、このイベントが始まってから、その動きが崩れている」
「崩れている?」
「これまで確認されていた行動域を外れる個体が増えた。それに《紅狼ヴァルグ》は基本的に一頭で動くはずなんだが……」
ロヴェルが少し間を置く。
「雄と雌の二頭が一緒に行動しているようなんだ。どうやら、つがいらしい」
一頭でもフルパーティで戦う強敵が、二頭で同時に出現している。今回のイベントのイレギュラーが中ボスクラスにも適用されているということだろうか。
「先ほどクランの仲間が二頭でいる《紅狼ヴァルグ》を偶然見つけたらしい。さらに、その二頭が行動域を外れ、追跡記録のない谷へ入っていったとクランチャットで報告があったんだよ」
ロヴェルはそこで一度言葉を切り、こちらを見る。
「最後に見た場所まで行けば、足跡が残っているかもしれない」
「なるほど、それで足跡……だったんですね」
「ああ。私はその二頭が今までの行動域を外れて、いったいどこへ向かっているのかを調べたいんだ」
ロヴェルはにっこりと笑うと、こちらへ向き直った。
「そこで、獣好き同士としてお願いがあるんだが――」
「同士ではないです」
ロヴェルは俺の抗議には答えず、そのまま続ける。
「最後に確認された場所から、二頭の痕跡を一緒に追ってみないかい?」
「……それは俺を連れていく必要ありますか?」
「もちろんだよ。スカウトが二人いれば、片方が見落としたものをもう片方が見つけられる。それに……まだ追跡記録のない谷の先だ。そういうのが気になるタイプだろう?」
少し当たっているのが悔しいところだった。
「……それは……少しは気になりますが」
「では決まりだね」
「まだ最後まで言ってません」
「違うのかい?」
「……分かりましたよ。見るだけですよね?」
「そのつもりだよ」
「もし見つかった場合は?」
「もちろん様子を見てから、必要ならば逃げるよ」
返事だけは早かった。
そこでロヴェルからパーティー申請が届く。
承認すると目的地が共有され、パーティー欄へロヴェルのレベルと職業が表示された。
―――――
ロヴェル Lv60
《パスファインダー》
―――――
やはりロヴェルは〈ヒューム・スカウト〉の二次職だった。
短剣とショートボウを見た時点でどちらかだとは思っていたが、ロヴェルは《パスファインダー》の方だったらしい。
共有された場所は広げた地図の端に近い位置にあった。
「かなり遠いですね」
「《赤砂峡谷の大荒原》はビーストフォーク領域の端にある広域フィールドだからね」
「そんなところに俺みたいなレベルで行って大丈夫なんですか?」
「今回は戦闘ではなく観察だ。それにいざとなればこれを使う」
ロヴェルがインベントリから小さな白い石を取り出した。
「その色の帰還石……もしかして《即時帰還石》ですか?」
「そうだ。すごく高いが、地面へ投げて砕けば、周囲にいる同じパーティーのメンバーごと、最寄りの帰還可能な町へ待ち時間なしで転移できる」
「そんなものまで用意してるんですか?」
「基本的にはソロで探索に出るからね。安全策くらいは用意するよ」
危険を承知で、何の準備もせずに近づこうとしているわけではないらしい。
「そこまで準備しているなら、大丈夫そうですね」
「ああ。無理に近づくつもりはないよ」
「……それに、二頭がどこへ向かっているのか、俺も少し気になってきました」
ロヴェルが嬉しそうに笑った。
俺たちはルガート村の転移門へ向かい、《赤砂峡谷の大荒原》に最も近い町――《砂門都市カルダ》を目的地に選んだ。
転移門の光が消えた途端、乾いた風が赤い砂を運んでくる。
目の前には赤褐色の石壁に囲まれた見知らぬ都市が広がっていた。
【とある攻略サイトより】
■種族:ヒューム
【初期職】
├─【前衛見習い】
├─【中衛見習い】
│ ├─〈ヒューム・ローグ〉
│ │ ├─《ヴェイルアサシン》
│ │ └─《アキュラスティンガー》
│ │
│ ├─〈ヒューム・アーチャー〉
│ │ ├─《ホークアイアーチャー》
│ │ └─《アークシューター》
│ │
│ └─〈ヒューム・スカウト〉
│ ├─《パスファインダー》◀
│ └─《トレジャーシーカー》
│
└─【後衛見習い】
■《パスファインダー》
安全な進行経路や撤退路を見つけることに優れたスカウト職。
《探知》や罠の発見、簡易的な解除などの基本能力を伸ばしつつ、未知のフィールドやダンジョンで危険の少ない道を見極める。
危険を避けてパーティーが安全に進み、必要なときに撤退できるよう支える。
隠された報酬を探すことよりも、進行・撤退・探索経路の確保に優れている。
■《トレジャーシーカー》
人為的に隠された価値を見つけることに優れたスカウト職。
通常の宝箱や基本的な罠はほかのスカウト系でも扱えるが、《トレジャーシーカー》は隠し箱、鍵付き宝箱、罠の仕掛けられた報酬、隠し部屋などの発見など含めたダンジョン系の攻略により強い。
安全な道を見つける《パスファインダー》に対し、《トレジャーシーカー》は見落とされやすい報酬や仕掛けを探ることに優れている。




