第60話 世界樹の歌碑
シルヴェイル村に戻った俺たちは、世界樹の麓へ向かって歩いた。
村の中を流れる水路沿いには明かりが灯り、世界樹も淡い金色の光を返していた。
世界樹の麓に開いた空洞には、外から入り込んだ夜風がゆるやかに抜けていった。
「クエストでは歌碑に触れるように表示されています」
リヴィアが《世界樹の歌碑》の前へ立った。
俺はその少し後ろから見る。
歌碑に指先で触れた瞬間、表面に淡い光が走った。
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クエスト《まだ歌われない詩》を達成しました。
サブ職《吟遊詩人》を取得しました。
歌曲スキル《返し歌》を習得しました。
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「……吟遊詩人になれたみたいです」
「よかったですね。おめでとうございます」
「ザンさん。ここまで手伝っていただき、ありがとうございました」
リヴィアは深くお辞儀をした後、歌碑へ向き直った。
そのまま、表面を見つめて動かない。
「……どうかしました?」
「え、えっと……歌碑に刻まれているものが、読めるようになっていまして……」
「え? その記号みたいなやつですか?」
「はい。文字として読めます。それに初めて歌碑に触れたときは微かにしか聞こえなかった旋律がはっきりと聴こえます」
リヴィアは歌碑へ指を添えたまま、そこに刻まれた詩をゆっくりと読み上げた。
「《残る者は旅立つ若枝の名を歌い継ぐ》」
「《旅立つ者は始まりの森を胸に歌う》」
リヴィアは次の行へ目を移した。
「《たとえ、遠き地に新たな木陰を育てようとも》」
「《我らが一つの根より分かれたことを忘れぬように》」
最後の一行を読み上げたとき、歌碑を包んでいた光が世界樹の根へ吸い込まれるように消えていった。
その直後、俺たちの前に表示が浮かんだ。
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記録を取得しました。
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《世界樹の分枝歌》
種別:記録
レアリティ:エピック
効果:世界樹の歌碑に記録された歌詞と旋律を閲覧できる。
説明:世界樹のもとに残った者と若枝を携えて各地へ旅立った者たちが交わした歌。
遠く離れても、同じ根から分かれたことを忘れないために歌い継がれていた。
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表示されたレアリティを見て、リヴィアが小さく首を傾げた。
「エピックって……どのくらい珍しいんでしたっけ」
「かなり珍しいです。上から《ワールドユニーク》《ユニーク》《レジェンド》で、その次が《エピック》ですね」
「かなり上ですよね?」
「はい。ちなみにリヴィアさんの杖はレアリティどうなってますか?」
「私の杖……ですか?」
リヴィアは手に持っていた杖へ目を落とし、装備の詳細を開いた。
「……何も書かれていません」
「え……何も?」
「はい。レアリティの欄には横線だけです。その下の説明に《オーダーメイド》と書いてあります」
「……オーダーメイド?」
「この杖は私がCROを始めたときに最初に作ってもらった装備なんです。それからずっと、同じ方に手を入れて鍛えてもらいながら使っています」
「すごい、改良していってるんですね」
最初に作った武器を鍛え続けて使う――CROにはそんな装備もあるらしい。
「ザンさんの武器はどうなっていますか?」
「今使っているショートボウと短剣どちらともレアですね。レアの上がエピックです。でも、ドロップの話で言えば、レアでも出ればかなり嬉しいですからねえ」
「そう言われると、かなりすごいものを手に入れてしまったんでしょうか。この先何かに繋がるのかはまだ分かりませんが……」
今回の《世界樹の歌碑》は《第七補給隊名簿》へ繋がる手掛かりではなかった。
それでもここにも一つの記録が残されていた。
この《世界樹の分枝歌》がこの先何かへ繋がるのかはまだ分からない。
俺が記録の表示を閉じると、今度はリヴィアの前にだけ新しい光が浮かんだ。
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特殊達成条件《返し歌を歌声で届ける》を満たしました。
ルート固有報酬《継歌の種》を取得しました。
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「え、ルート固有報酬……?」
リヴィアがアイテムの詳細を開き、俺にも共有してくれた。
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《継歌の種》
種別:ルート固有アイテム
レアリティ:レジェンド
譲渡:不可
長く届かなかった歌を受け取り、その先へ歌声で繋いだ者に宿る小さな種。
まだ何も芽吹いていない。
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「……これ、レジェンドです」
「すごい、《エピック》よりさらに上ですね。《返し歌》を歌声で届けたことへの報酬のようです」
「私が歌ったから……ですか」
リヴィアは《継歌の種》の説明をもう一度読み返していた。
「説明ではまだ何も芽吹いていないみたいです」
「今すぐ使うアイテムではないのかもしれませんね」
「はい。大事に持っておきます」
リヴィアが詳細画面を閉じ、世界樹の内部を見上げた。
「このクエストは吟遊詩人になるためだけのものだと思っていました。……でも、この歌碑に刻まれた詩を読むための条件でもあったんですね」
リヴィアの視線が世界樹の歌碑を見ていた。
「吟遊詩人になってからも、新しい歌を見つけたり、歌い継いだりすることで、職業として成長していくのかもしれません」
「確かにそうかもしれませんね」
刻まれた文字は俺にはまだ古い記号にしか見えなかった。
それでも、この歌は最初からここにあった。
シルヴェイル村はサービス開始から多くのプレイヤーが旅立っていったエルフの始まりの村だ。
エルフを選んだ攻略組もその後を追ったプレイヤーたちも、この世界樹の下から先へ進んでいった。
《世界樹の歌碑》は隠されていたわけではない。
これまでに目を留め、触れてみた者もいたはずだ。
それでも、ここには吟遊詩人になった者にだけ読める歌が残されていたらしい。
リヴィアは歌碑に刻まれた四行の詩をもう一度目で追い、その最初の一行を静かに口にした。
「《残る者は旅立つ若枝の名を歌い継ぐ》」
残った者が遠くへ旅立った者の名を歌にして受け継いでいく。
かつて、世界樹の若枝を携えて旅立ったエルフたちだけではない。
攻略組もその後を追った多くのプレイヤーも、この始まりの村から世界の先へ進んでいった。
彼らが通り過ぎた後にも歌や記録が残されている。
そして、それを見つけた者からまた新しい続きが始まる。
多くの旅人が旅立った始まりの村で、長く眠っていた歌の続きが静かに動き始めていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第五章はリヴィアのサブ職クエストを追いながら、この作品で扱う「記録」の範囲を少し広げる章となりました。
攻略組や多くのプレイヤーが通り過ぎた場所にも、まだ読まれていない記録やその先の続きが残っているかもしれません。
ザンのログ探しもこの世界に残されたさまざまな記録へ触れながら、少しずつ広がっていく予定です。
第五章の本編はここで一区切りですが、このあとエピローグ的な話が二話続きます。
そして次の章ではいよいよあの子の……!
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それでは、引き続きよろしくお願いいたします。
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【CROのレアリティ】
《ワールドユニーク》全サーバーで1つのみ
↓
《ユニーク》各サーバーで1つレベル
↓
《レジェンド》普通にプレイしててみることはほぼない
↓
《エピック》ドロップしたら祭りレベル
↓
《レア》ドロップしたらかなり嬉しいレベル
↓
《アンコモン》まあまあ出るよね
↓
《コモン》よく出る
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