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第55話 歌の行方

―――――

クエスト《まだ歌われない詩》が更新されました。

―――――

《返し歌》の痕跡を追ってください。

―――――


「この部屋に《返し歌》の痕跡があるということですかね」


『調べてみます』


 俺たちはクエストが反応した一室を調べ始めた。

 壁際には壊れた棚と古い炉が残り、奥には客の荷物を置いていたらしい低い台が並んでいる。

 棚や引き出しを調べてみたが、歌につながるものは見つからなかった。


『何もありませんね』


「奥の台も見てみましょう」


 片側が傾いた台を二人で起こすと、壁側に隠れていた浅い引き出しが現れた。


「こんなところに……」


 引き出しの中には紐で結ばれた細長い布包みが入っていた。


―――――

 南へ向かう吟遊詩人へ

―――――


 紐を解くと、中から折り畳まれた紙が出てきた。

 紙は黄ばみ、端の一部は崩れている。

 表面には詩のような言葉が並び、その上には横へ連なる見慣れない記号が書き込まれていた。


『これは……この世界の楽譜のようなものだと思います。《世界樹の歌碑》に刻まれていた線や点と、どこか似ています』


「俺には記号の意味が分からないんですが、リヴィアさんは楽譜を読めるんですか?」


『リアルのものであれば一応読めます。でも、これはすぐには読めそうにありません。少し確かめてみますね』


 短い線や曲がった印。

 上下へずれながら続く点。

 俺には記号の集まりにしか見えなかったが、リヴィアは一つずつ位置や間隔を確かめていた。

 よく見ると、その譜面の端には歌詞や記号とは別の文章も残されていた。


――――――

 大雨で橋が流されてからすでに半月が経つ。

 待つ間に持病が悪化し、これ以上旅を続けられなくなった。

 明朝、北へ戻ることになった。

 この歌を宿の主人へ預ける。

 次にここから南へ向かう吟遊詩人へ、必ず託してほしい。

――――――


「川を渡れるようになるのを半月も待っていた……」


『それでも体調が戻らず、北へ引き返すしかなかったんですね』


 譜面は落とされたまま忘れられていたのではない。

 次の運び手へ渡すために保管されたまま、この宿を訪れる者が徐々にいなくなっていったのだろう。

 その直後、リヴィアの前に淡い表示が浮かんだ。


―――――

クエスト《まだ歌われない詩》が更新されました。

―――――

残された譜面から《返し歌》の旋律を復元してください。

―――――


 リヴィアがクエスト表示を俺にも共有した。


「これを復元……? できそうですか?」


『歌詞はそのまま読めますが、旋律の方は……』


 リヴィアは譜面らしい記号の最初の行へ目を戻した。

 一つずつ確かめながら、CROの簡易メモへと書き込んでいく。

 いくつか並べたところで、その指が止まった。


『やはりこのままでは読めません』


「何か情報が足りませんか?」


『記号の動きは現実の楽譜と近いところもあるので、ある程度なら追えます。でも、どの音から始めればいいのか、その基準がないんです』


 リヴィアは書き込んだ音を消し、もう一度譜面を最初から確認した。

 しばらく記号を追った後、何かを思い出したように手を止める。


『もしかして。少し待ってください』


 譜面から目を離し、考え込むように目を閉じた。

 やがて小さく指を動かしながら、頭の中で何かを辿り始める。


『アルネイの宿屋のハルムさんが口ずさんでいた歌です。短い一節でしたが、旋律を覚えています』


 リヴィアは目を開くと、譜面の途中に並ぶ記号を指で追っていった。


『音が上がる場所と下がる場所、それに伸ばす場所はわかります』


「では、覚えている一節と同じ動きをする場所を探すということですか?」


『はい。音の動きとリズムが同じ並びがあれば、そこがハルムさんの一節だと思います』


 リヴィアは譜面を最初から辿り、いくつかの場所で指を止めては先へ進んだ。

 やがて同じ場所を何度か確かめ、その指が止まった。


『この並びです。ハルムさんから聞いた一節と一致しています』


「そこを基準にすれば……」


『はい。まずはこの一節に覚えている音を当てはめてみます。そうすれば記号の高さがどの音に当たるのか分かると思います』


 リヴィアはハルムの鼻歌と重なる部分へ覚えている音を当てはめ、記号の位置と音の高さを照らし合わせていく。

 そこを基準に前後の記号を辿り、音の上がり下がりと長さを一つずつ音へ置き換えていった。

 途中で何度か手を止めては頭の中で旋律を確かめながら修正しているようだ。

 俺には同じように見える記号でも、リヴィアは形や位置の違いを見分けていた。


 やがて最後に残っていた記号まで音が繋がった。

 リヴィアは譜面の最初へ戻り、復元した旋律と歌詞を最後まで確かめた。

 しばらく譜面を見つめた後、リヴィアが小さく頷いた。


『合っていると思います』


「これが……返し歌なんですね」


『はい。男の子が届けようとしていた歌です』


 その直後、リヴィアの前に新しい表示が浮かんだ。


―――――

クエスト《まだ歌われない詩》が更新されました。

―――――

残された歌詞と旋律を照合しました。

《返し歌》を復元しました。

《返し歌》を受取人へ届けてください。

―――――


「受取人……南の宿場町カレドにいた女の子ですよね」


『はい。ただ、譜面にも歌詞にも名前は残っていません』


「ではカレドで手掛かりを探すしかなさそうですね」


 リヴィアがもう一度、メモに記録していた《返し歌》を開いた。

 歌詞を追っていた視線が途中で止まった。


『場所に繋がりそうな言葉が残っていました』


「何ですか?」


『三つ目の鐘と笛の木という部分です』


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― 新着の感想 ―
図形楽譜とかね……世の中には読ませる気あるのかってモノもありますからね……復元出来る楽譜で良かったよ
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