第53話 返る音
エコーテイルがリヴィアへ届く寸前、俺は《シフトステップ》でその進路へ滑り込んだ。
すれ違いざまに首元へ《クイックスラッシュ》を叩き込んだ。
刃が食い込み、HPがわずかに減る。
エコーテイルが頭を振って俺の方へ向いた。
その一瞬に、リヴィアが進路の外へ逃れる。
――間に合った。
そう思った直後、エコーテイルが太い前脚を振り抜いた。
前脚が俺の脇腹を捉え、《ロックガード》の光が砕け散る。
衝撃とともに体が横へ弾き飛ばされた。
地面へ肩から落ち、そのまま何度か転がって止まる。
HPも大きく減っていた。
すぐに足元から淡い緑の光が芽吹いた。
リヴィアの《スプラウトリカバリー》だ。
減ったHPが戻り始め、続けて新しい《ロックガード》が周囲に浮かんだ。
「……ありがとうございます。まだいきます!」
リヴィアも杖を支えに立ち上がっていた。
エコーテイルが俺たちへ向き直る。
その背中で二枚の背殻が大きく開き、内側にある薄い膜が露出した。
左右の膜が同時に震える。
――ヴゥーン。
低音が道の上を通り抜け、山側の木々の間へ消えていった。
音が途切れると、辺りに一瞬だけ静けさが戻る。
次の瞬間、少し離れた山裾から同じ低音が返ってきた。
そのすぐ近くから、さらに二つの低音が重なって響いた。
俺はすぐに《探知》を使った。
「新しい反応が三つ、全部こちらへ近づいています。エコーってそういうことだったのか……」
『どうしますか?』
「他が来る前にあいつを倒しましょう」
それでも目の前のエコーテイルには、まだ半分近いHPが残っている。
背殻が開いている今のうちに削り切るしかない。
俺は立ち上がりながらショートボウを構え、露出した薄い膜へ狙いを定めて《ピンポイントショット》を放った。
矢が右側の膜の付け根へ深く刺さるのと同時に、リヴィアの《ウィンドカッター》が反対側の膜を切り裂いた。
二枚の膜が激しく揺れ、エコーテイルのHPが三割近くまで減った。
エコーテイルが大きく体を震わせる。
俺は正面を避けるように横へ走り、開いた背中を視界に捉え続けた。
リヴィアも俺とは反対側へ移動しながら杖を構えている。
近づくとまたあの前脚でやられる。
でも、《ピンポイントショット》はリキャスト中だ。俺は代わりに《ワイドショット》を放った。
扇状に広がった矢の何本かが背殻の内側へ入り、薄い膜へ突き刺さった。
エコーテイルがこちらへ頭を向け、悲鳴のような鳴き声を放つ。
俺はさらに横へ動きながら《スローイングダガー》を投げた。
短剣が膜の付け根へ入り、HPは二割を切った。
それでもまだ倒れない。
背後の茂みから、太い枝が折れる音が聞こえてきた。
《探知》に映る三つの反応もすぐ近くまで迫っている。
そのとき、リヴィアがもう一度杖を振った。
風の刃が開いた背殻の内側へ飛び込み、二枚の膜を横切っていく。
その刃が二枚の膜の中央へ入った瞬間、クリティカルの表示が弾けた。
エコーテイルが今までで一番大きく体を震わせる。
HPが一気に減り、残りわずかになった。
俺は風の刃が当たった場所を見逃さなかった。
二枚の膜の間にある背中の中央には、細い継ぎ目が縦に走っている。
リヴィアの風の刃はそこへ入っていた。
――クリティカルポイント。
山側の茂みが大きく揺れた。
仲間のエコーテイルが姿を現し、その近くでも茂みが大きく動いている。
――もう時間がない。
目の前のエコーテイルも背殻を閉じ始めていた。
その瞬間、《ピンポイントショット》のリキャストが終わった。
「《ピンポイントショット》!」
矢は二枚の殻が重なる寸前に滑り込み、リヴィアの風の刃が当たった中央の継ぎ目を撃ち抜いた。
もう一度クリティカルの表示が出て、残っていたHPが消えた。
青黒い巨体が光の粒子へ崩れ、消えた場所にいくつかの素材が落ちた。
俺はすぐさま素材を拾い、確認しないままインベントリへ入れた。
「今は逃げましょう!」
リヴィアが頷き、《フェアウィンド》をかけ直す。
背後から太い枝が次々と折れる音が聞こえてきていた。
振り返ると、三体のエコーテイルが茂みを押し分けて道へ出てくるところだった。
俺たちは前方の石柱へ向かって全力で走った。
遠くから見えていた太い石柱が山側から川際まで石の柵のように並んで建っている。
柱と柱の間には、人一人が通れるほどの隙間が空いていた。
石柱のすぐ向こうで道は二つに分かれている。
正面へ続く道の先には古い橋。
左へ分かれる道は屋根の見えていた石造りの建物へ続いていた。
「左へ!」
『はい!』
背後で複数の低音が重なった。
太い脚が地面を叩く度に、その音が少しずつ近づいてくる。
リヴィアが先に石柱の間へ体を滑り込ませた。
俺もその直後に続く。
隙間を抜けた瞬間、すぐ後ろで巨体が地面を蹴る音がした。
――ドォーン!
追ってきた先頭のエコーテイルが頭から二本の石柱へ激突する。
平たい頭部そのものが隙間よりも大きく、前脚さえ柱の向こうへ入らなかった。
石の欠片が飛び散り、太い柱が低く震えている。
それでも石柱は傾かず、エコーテイルの巨体を受け止めてくれた。
俺たちはそれ以上後ろを振り返らず、建物へ向かって走った。
《探知》の中で先頭の反応が一度後ろへ下がった。
そのまま山側にある石柱の端へ向きを変えたようだ。
残る二体も後へ続き、三つの反応が茂みの中へ入っていった。
石柱を回り込んで追いかけてくるつもりのようだ。
前方の蔦の這う石壁と古びた屋根が近づいてくる。
入口には重そうな木の扉が見えた。
俺は鉄の取っ手へ手をかけ、力いっぱい手前へ引く。
錆びた金具が軋み、重い扉が外側へ開き始めた。
「入ってください!」
リヴィアが開いた隙間へ飛び込む。
俺も扉を押さえたまま、そのすぐ後へ続いた。
回り込んで追ってきたエコーテイルたちがすぐそこまで来ていた。
「閉めます!」
俺たちは内側の取っ手をつかみ、二人で重い扉を力いっぱい引いた。
最後に残った隙間が閉じ、扉が鈍い音を立てて枠に収まった。
周囲が暗闇に包まれた次の瞬間、すぐ外で凄まじい衝撃音が響いた。




