第48話 南の街道
南門へ歩いていく途中、リヴィアがクエスト情報を開いた。
『やはり表示されているのはクエストの目的だけですね』
「今の手掛かりはさっきウォーリンさんが言っていた南の旧道だけですね」
『南門から出たところの街道なら何度か通ったことがあります。ただ、あの辺りに他の道なんてあったか……覚えがありません』
「それなら街道を歩きながら、とりあえず旧道の分岐や入口っぽいところを探してみますか?」
『そうしましょう。あの街道は大きな森の中を通っているので、脇道があっても目立たないのかもしれません』
そこでリヴィアが一度立ち止まった。
『すみません。一緒に探してくれていた友達にも報告しておきたくて、少し待っていただけますか?』
「あ、そうですよね。分かりました」
リヴィアがメッセージ画面を開いて操作し始める。
俺はその場で待ちながら、歩いてきた水路沿いの道を振り返った。
行き交うプレイヤーの向こうには村の露店が並び、その後ろには世界樹が見える。
あの根元に残された歌碑から始まった手掛かりが、今度は村の外にある地図にも出ない道へ続こうとしている。まだ入口さえ分かっていない道がどこへ繋がっているのか。少し楽しみになってきた。
そんなことを思っていると、リヴィアがこちらへ向き直った。
『お待たせしました』
「もう大丈夫なんですか?」
『はい。ありがとうございます。行きましょう』
俺たちは南門からシルヴェイル村を出た。
◇◆◇◆◇
少し前からエレナは建物の陰からこっそり二人を見ていた。
りあから『ザンさんとシルヴェイル村を回ってクエストの進行条件を確かめる』と連絡を受け、エルフのサブキャラで二人の後を追っていた。
何度も話に出ていたヒューム・スカウト。
一度直接会って話してみたかった。
でも、いざ二人を前にすると、このタイミングで間へ入るのも違う気がした。
何かあれば出ていく。
そのつもりで遠くから様子を見てみることにした。
二人の様子は遠くから見ている限りいたって普通だった。
思いたくはなかったが、まるで知り合いのように見えるくらいには仲が良さそうだった。
三カ所目の修理工房でサブ職クエストが進んだことも二人の様子から分かった。
そのときも、ザンは自分のおかげだと誇るような様子を見せなかった。
二人が修理工房を出ると、エレナも少し遅れて後を追った。
南門へ続く水路沿いの道を進んでいると、りあが足を止める。
そのとき、隣にいたザンが不意に歩いてきた道を振り返った。
「やばっ……」
エレナは咄嗟に横の果物の露店へ顔を向けた。
「――これ一つください」
「ああ? どれのことだい?」
並んでいる果物を何も見ていなかった。
「じ、じゃあ……これで」
目の前にあった赤紫色の実を適当に指す。
代金を支払いながら視界の端で確かめると、ザンは周囲の景色を眺めていただけらしい。
でも冷静になってみると、ザンはこちらのことを知らないのだ。
ここまで焦る必要もなかった。
エレナは買った実を店員から受け取って眺める。
「私、何やってるんだろ……」
そのとき視界の端にメッセージが届いた。
―――――
リヴィア:ザンさんと一緒に話しかけたらクエスト進んだよ
リヴィア:これから先に進めてみる
―――――
エレナは遠目に二人の位置を確かめてから返事を送る。
―――――
エレナナ:よかったね
エレナナ:何かあったら言って
―――――
返事はすぐに届いた。
―――――
リヴィア:ありがと、大丈夫
リヴィア:それより結局会わなくてよかったの? 会いたがってたから連絡したのに
―――――
エレナの指が止まった。
少し考えてから返す。
―――――
エレナナ:今日はいいよ。思ってたより
エレナナ:いや、次はちゃんと紹介して
リヴィア:思ってたより? ちゃんと紹介って何……
エレナナ:とりあえず今はサブ職クエに集中してくれたらいいから。また何かあったら教えて
―――――
「あの感じみると⋯⋯まぁとりあえず大丈夫そうかな」
二人の姿が南門の向こうへ消えていく。
そこでエレナは手にした赤紫色の実へ目を落とした。
「で……これ何の実なんだろ。これだけプレイしてても初めて見る果実って……やっぱりCROだなぁ」
とりあえずインベントリへ入れておく。
「メインキャラの周回クエでも消化しとこっと」
エレナもその場を離れた。
◇◆◇◆◇
南門を出た先の街道はそのまま大きな森の中を突っ切っていた。
道の両脇には背の高い草が生い茂り、その向こうには太い木々が並んでいる。
枝葉が頭上まで広がり、街道にはまだらな光が落ちていた。
狩りへ向かうプレイヤーや荷車を引く商人とすれ違う。途中には案内板も何本か立っていたが、《旅鳥の宿》や旧道の名前は見当たらなかった。
「この森の街道のどこかで道が分かれているんですよね」
『ウォーリンさんのお話ではそうだと思うのですが』
少し進むと、すぐに木々の間が開いた場所があった。
街道を外れて奥を二人で覗いてみたが、草の先には畑の柵が見える。
「……ここは違いますね」
『はい、畑へ入るための道みたいですね』
その後もいくつかの獣道や採取場所へ続く細道を確かめてみたが、旧道らしい場所は見つからなかった。
『こうして見ると、脇道っぽく見える場所って意外と多いんですね』
「CROがなぜか力入れてるところの一つですよね」
俺たちは街道へ戻り、並んで森の中を進む。
しばらく同じような景色が続いたところで、ふと思い出した。
「そういえば二次職は決めたんですか?」
『それがまだ迷っていて……』
リヴィアが職業情報を共有してくれる。
《エルフ・バッファー》から選べる二次職は、《リーフバッファー》と《スピリットウォーダー》の二つらしい。
『掲示板を見た限りでは、《リーフバッファー》はソロや少人数でも使いやすくて、《スピリットウォーダー》はフルパーティーで力を発揮するバッファー職……という感じみたいです』
「なるほど」
『ザンさんは分かりますか?』
「いえ。今の説明で初めて知ったくらいです……」
『ですよね。私も他のメイン職のことは全然知らなくて。ザンさんの二次職はどんなものがあるんですか?』
「俺もこの前少し調べてみたんですが、《パスファインダー》と《トレジャーシーカー》というものがあるみたいです」
『直訳的には……道を見つける職と宝物を探す職……でしょうか』
「はい、それ以上はまだちゃんと見ていなくて」
転職クエストのことやスキル構成などもまだ調べていなかった。
「とりあえず、もう少し調べてから決めた方がよさそうですね」
『私もそうします』
そんな他愛のない話をしながら進んでいると、街道が大きく右へ曲がっている地点まで来ていた。
「かなり大きなカーブですね」
『昔からこの形だったのでしょうか』
「ここまでなら……今の街道を作ったときに曲げたのかもしれません」
俺たちはカーブに沿って進む。
その途中で、街道から少し離れた草の中に傾いた木の板のようなものが見えた。
「リヴィアさん、あれ」




