第41話 数えてないから
王都星花祭――イベント最終日。
北門前広場の進行率は68%まで上がっていた。
「ここまで来たか」
「最初1%だったこと考えたら、かなり増えたよな」
盾を背負ったミナトが隣で表示を見ていた。
俺たちは最後の素材集めを終え、北門前へ戻ってきたところだった。
昨日までに集めていた分も合わせ、二人で素材を納品する。
表示が68%から69%へ動いた。
「二人分でも1%か」
それでも100%までは遠い。
納品台には何人ものプレイヤーが集まり、持ち帰った素材を次々と入れていた。
「そういえば最近、北街道で全然敵に会わないときない?」
「ああ、あるな。ずっと歩いてるのに一匹もいないとき」
俺とミナトは顔を見合わせた。
「……いや」
「ないない」
それ以上は考えなかった。
その後も進行率は少しずつ上がっていった。
残り時間が10分ほどに迫ったころ、表示は76%だった。
「あと24%か」
「これは厳しいな」
俺たちの周囲からも同じような声が聞こえてくる。
「倉庫にまだ残ってるか見てくる」
「もう一周は無理だな」
何人かが動き出した。
そのとき、北門の向こうから黒いローブを揺らして歩いてくるダークエルフが見えた。
「お、ミナっち。ザンくん」
「Yuruさん」
「おっす。あと24%なんだが、時間もないからさすがに厳しいかもな」
「そっか」
Yuruは少しだけ考えてから納品台へ向かった。
「Yuru?」
「とりあえず入れてみるよ」
「え、どれくらい持ってるんだ?」
「分からない」
「分からない……?」
俺たちは顔を見合わせる。
「Yuruさん、最後に納品したのっていつですか?」
「あの日だよ。二人と別れた日」
「⋯⋯それからは?」
「一回も入れてない」
ミナトが黙った。
「その間、どれくらい狩ったんだよ」
「わからないよ。数えてないから」
Yuruが納品台へ触れた。
手元から星花素材が光へ変わり、次々と吸い込まれていく。
77%。
78%。
光は止まらない。
「え、まだ動いてる?」
「誰か大量に入れてない?」
83%。
85%。
俺たちは進行率の数字とYuruを交互に見る。
「……一体どれだけ持ってたんだよ」
「結構あるみたい」
「自分で分かってなかったのか?」
「インベントリ見てないからね」
その間にも数字は上がり続けた。
90%。
92%。
「おい、まだ上がってるぞ!」
「さっきからずっとあのダークエルフ光ってる!」
「後光だ! 救世主が来た!」
そして表示が97%になったところで、ようやく光が止まった。
「……あれ、足りなかったかぁ」
「いや足りないとかのレベルじゃねえ。すごすぎるだろ」
「さすが、Yuruさんだ」
その直後、誰かが叫んだ。
「あと3%だ! 急いで入れろぉおお!」
周囲のプレイヤーたちが一斉に動き出した。
「手持ちある人、全部入れて!」
「倉庫見てくる!」
「クラメン呼べ!」
「あと5分切ってる!」
少しだけ残していた素材。
倉庫から急いで持ってきた素材。
最後の周回から戻ってきたパーティの素材。
あちこちから集まった光が納品台へ吸い込まれていく。
98%。
99%。
「あと2分だ!」
「急げ!」
いくつもの光が重なった。
表示が変わる。
―――――
北門前の星花準備が完了しました。
フィナーレ《大星花》で北門外壁上の観覧区画が開放されます。
―――――
「おおおお!」
「いった!」
「100%!」
「北門、間に合ったぞ!」
周りから一斉に歓声が上がった。
「……一体Yuruだけで何%上げたんだ?」
「さあ?」
「お前に聞いてるんだよ」
Yuruは笑っていた。
「でも、最後はみんなで入れたからね」
数日前までは誰もいなかった場所だ。
それが今はこれだけの人で100%まで届いた。
誰の素材が最後の一押しになったのかは分からない。
それぞれ別の場所で遊んでいた結果が、最後はここへ集まった。
「観覧区画か。北門の上から見られるんだな」
ミナトが表示を見ながら呟く。
「お前どうする? 一緒に北門か中央広場行くか?」
「俺は外で見るよ」
「外?」
「あの丘の方で」
「古い打ち上げ台のところか?」
「そう。せっかくだから、あそこから見てみたいかな」
「近すぎないか?」
「その辺は行ってから考える」
「……相変わらずだな」
ミナトは中央広場の方を見る。
「俺は中央で見るぞ。せっかくの祭りだし、人が多いところで見たい。そっちの方が出会いもありそうだしな」
「ミナトらしいな」
「――え?」
俺とYuruの声が重なった。
「ミナっちって、そういうの探してるタイプだったの?」
「い、いや、違う」
「違うの?」
「違うっていうか、今のはそういう意味じゃなくてだな⋯⋯」
「出会いは?」
「も、もういいだろ!」
珍しくミナトがしどろもどろになっている。
たぶん俺にいつもの調子で言っただけなのだろう。
「それでYuruはどうするんだよ」
ミナトが話を変えた。
「私は一回休憩してからかな。たぶん北門の上」
「Yuruが休憩?」
「するよ。ミナっちさ、私を何だと思ってるの?」
「うーん、星月草原の裏ボス」
「私がボスなら、取り巻きまで範囲で倒してることになるよ」
「だから裏ボスなんだろ」
Yuruは笑った。
「じゃあミナっち、お姉さんと一緒に見る?」
「え⋯⋯?」
「北門の上で」
「いや……お姉さん?」
「⋯⋯そこに引っかかるんだ?」
「いや、そうじゃなくて……」
「またしどろもどろになってるよ」
「なってねえよ!」
Yuruが楽しそうに笑った。
そのとき納品受付終了のアナウンスが流れ、少し遅れて最終ランキングが更新された。
―――――
〖JP-03 王都星花祭ランキング〗
…………
……
3位 Yuru
―――――
「え……いる」
思わず声が出た。
「うわ、3位になってるよ」
「お前が驚くのかよ」
「ランキングも見てなかったからね」
ミナトが上位を見る。
「すげえんだが、あれだけ狩っても3位なのか」
「上にはまだ二人いるんだな」
「1位はやっぱり。アスレガの人だな。収集系のイベントでもトップだ」
そのとき、Yuruに気づいた周囲のプレイヤーたちが騒ぎ始めた。
「あの人、3位の人じゃん!」
「さっきの救世主だ!」
「後光の人!」
「⋯⋯変な呼ばれ方してるんだけど」
Yuruが困ったように笑う。
俺も笑いながら北門の向こうへ目を向けた。
今年の光はあの丘から見てみたかった。




