第40話 続いていた光
俺はそのまま、北門の外側に残る記録を追ってみた。
時代ごとの街道や中継地点、北へ送られた物資の記録を見ていく。
ただ、調べているうちに一つ気になることが出てきた。
「……そもそも第七補給隊っていつからあったんだ?」
ここで調べた歴史によれば、灰冠竜戦への準備は一年ほど前から始まっている。
でも、その頃から六人が《第七補給隊》として一緒に動いていたとは限らない。
マーロがベルカ村周辺で物資の流れに関わっていたことは分かっている。
それが第七補給隊に入る前なのか、入った後なのかも今の俺には分からない。
「でもこれ、どうやって調べればいいんだ……」
歴史院では地域や年代から記録を辿ることはできる。
でも、特定の部隊についてその行動を順番に追うような機能はない。
俺は少し迷ってから、近くにいた職員へ声をかけた。
「すみません。少し聞いてもいいですか?」
「はい。何をお探しでしょうか?」
「とある補給隊について調べたいんです。いつ編成されて、どこで何をしていたのかといったことはここで分かりますか?」
「特定の部隊について、その行動を追うのは難しいかと思います」
「そうですか」
「はい。ここに残されているのは王国や各地の歴史に関わる記録が中心です。すべての兵士や部隊の行動を残しているわけではないので……」
「……ですよね」
言われてみれば当たり前だった。
ここは王都の歴史院だ。
これ以上は無理なのかもしれない。
そう思いかけたが、俺が持つワールドユニークログと北門の外側に残る記録はしっかりと繋がっている。
隊の行動そのものは歴史として残っていなくても、第七補給隊が王国の歴史自体に関わった部分なら何か残っているかもしれない。
もう一度尋ねようとして顔を上げたとき、職員の名前が表示されていることに気づいた。
―――――
《王都歴史院記録官 ファナ》
―――――
「すみません、ファナさん」
「はい」
「部隊の名が王国の歴史に関わる場所や出来事の記録の中に残ることはありますか?」
ファナは少し考えてから頷いた。
「はい、あります。その土地で起きた出来事や変化に強く関わっていれば、歴史の中に名前が記されることはあります」
「なるほど……」
第七補給隊のすべての行動を追うことはできない。
でも、六人が王国の歴史と深く交わった場所なら何かが残っているかもしれないということか。
「そういう記録はどこから見ればいいんでしょうか」
「今ご覧になっているのは王国北側の地域ですね」
「はい」
「でしたら、その周辺にある場所の歴史を見てみてはいかがでしょう。昔使われていた場所や時代とともに役割が変わった場所についても記録が残っています」
「場所の歴史ですか?」
「はい。ただ、その補給隊に繋がるものが見つかるかは分かりませんが……」
「分かりました。見てみます」
今度は街道や物資ではなく、周辺にある場所の歴史を見ていくことにした。
使われなくなった中継地点。
街道の変化で役割を終えた場所。
今では別の目的で使われている場所。
その中に見覚えのある場所があった。
「これ……」
星月草原の丘の上。
俺とミナトが掃除した、あの古い打ち上げ台がある場所だった。
記録を開いてみる。
まだ北街道が十分に整っていなかった頃、北方から王都へ戻る人たちのために丘から光を上げていたという。
北門の灯りを基準に王都の方角を知らせるためのものだったらしい。
「やっぱりそうだったのか」
ここまでは俺とミナトが考えていた通りだった。
ただ、街道が整った後の記録にも同じ場所から光を上げたという記述が残っている。
「続いてる……」
道しるべとしての役割を終えた後も光は残り、それが今の《星花祭》まで繋がっている。
俺はファナへ声をかけた。
「ファナさん。この光が今の星花祭に繋がるまでに何があったんでしょうか」
ファナは俺が開いている記録へ目を向けた。
「その間のことでしたら、同じ頃に北で起きていた出来事と一緒に見てみると分かると思いますよ」
「北で起きていた出来事……」
それなら大体の予想はつく。
記録を重ねてみると、約50年前の灰冠竜出現後から光についての記述にも変化が見えた。
さらに、その前の出現時期にも似た記録が残っている。
「……やっぱりだ」
そして戦いが終わった後も光は続いていた。
記録を追ううちに、その光には北で起きたことや戻らなかった人たちを忘れないための意味も加わっていったことが分かった。
「なるほど……」
その後、光を上げる場所は王都の中へ広がり、やがて周辺の町や村にも広がっていく。
さらに時代が進むと星を模した光へと変わり、今の《星花祭》へ繋がっていた。
「……星花祭はそういう流れだったのか」
俺はもう一度、あの丘の歴史を見た。
祭りの前に打ち上げ場所を確認したという記録が何年にもわたって残っている。
俺たちが巣を片づけ、打ち上げ台の状態や方向を確かめたこともその続きだったらしい。
「俺たちは知らないうちに今年の分に関わってたってことか……」
その後も様々な方向から調べてみた。
でも、第七補給隊とあの打ち上げ台を直接繋ぐような記録は見つからなかった。
そして、第七補給隊がいつ編成されたのかも分からないままだ。
やはり、まずは手がかりのあるベルカ村の記録から追った方がいいのかもしれない。
俺は記録を閉じた。
「ファナさん、ありがとうございました」
「何か見つかりましたか?」
「はい。知りたいことも増えましたけど」
「ふふ、それならまたお越しください。歴史に興味を持ってくださる旅人さんは歓迎ですから。こちらを渡しておきますね」
ファナから小さな金属製の札を渡された。
―――――
《王都歴史院閲覧証》
王都歴史院の利用者に発行される閲覧証。
歴史院を利用できる機会が増える。
―――――
「閲覧証?」
「はい。星花祭の期間中は毎日開いていますが、普段は不定期なんです。これがあれば旅人の方でも利用できる機会が少し増えます」
「なるほど。ありがとうございます」
「また気になることが見つかったときに使ってください」
「はい。そのときはまたお願いします」
俺は《王都歴史院閲覧証》をインベントリへしまい、もう一度礼を言って歴史院を出た。
◆◇◆◇◆
歴史院に入ってからかなりの時間が経っていた。
第七補給隊を追って来たのに、気づけば《星花祭》の始まりまで辿っていた。
北門前広場の進行はもう動いている。
この歴史を知ったからといって強くなるわけでもない。
それでも、気になっていたことが一つずつ繋がるのは面白かった。
まだ知らないことも、きっとこの世界のどこかに残っている。
王都の通りには昔から続いてきた星花の光が灯っていた。




