第38話 仕様です
王都へ戻った俺はそのまま北門前へ向かった。
少ししてミナトとYuruもやってくる。
北門前は俺たちが出発した時とほとんど変わっていなかった。納品台の周りにいるプレイヤーも少ない。
イベント進行度の表示を確認する。
―――――
・北門前広場 3%
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「あれ、少し増えてるな」
「あの丘の条件を満たしたタイミングで、これまで納品されてた分が反映されたのかも」
おそらく、あの古い打ち上げ台の確認が完了するまでは反映されていなかったのだろう。
「じゃあ試してみようかな。納品するね」
「イベント素材、今どれくらい持ってるんですか?」
「少しだよ」
やっぱり答えは変わらなかった。
Yuruが納品台へ触れると、手元から星花素材が次々と光へ変わっていった。
少し長い。
いや、思っていたより長い。
ミナトが無言でYuruを見ている。
「……まだ入るのか?」
「そろそろ終わるよ」
最後の光が消え、表示が動いた。
―――――
・北門前広場 3% → 7%
―――――
「動いた」
俺は表示を見る。
やっぱり巣を片づけ、あの台の方向を確認するところまでが条件だったらしい。
「……今のが少し? 一人で4%も動いてるんだが」
「少しだよ」
ミナトはそれ以上聞かなかった。
俺も聞かないことにした。
星花祭は今日で三日目。まだ日付が残っているとはいえ、北門前広場はようやく7%だった。
「これ、間に合うのか⋯⋯?」
「条件が広まれば納品する人は増えるんじゃない?」
Yuruが表示を眺めながら気楽に言う。
「掲示板にもすぐ出るか。まぁせっかくなら100%達成したいところだな」
「でも、あと90%以上ある」
中央広場をはじめ、他の場所ではもっと進行率が高かった。北門前だけが大きく遅れている。
「まあ、今からどうなるかだね。じゃあ私はもう一狩りしてくるよ」
「え、休憩がてら戻ってきたのでは?」
「今、休憩したよ」
「は?」
「うん」
ミナトが固まっている横でYuruは当然のように答えたかと思ったら、そのまま北門へ向かって歩き出した。
「じゃあまたね、二人とも」
Yuruは門を通る前に門兵ネリへ軽く会釈した。
ネリも会釈を返しているのが見えた。
そのまま星月草原の方へ消えていった。
俺とミナトはしばらくその背中を見送って立ち尽くしていた。
「……あの人、すげえな」
「うん、俺には無理だ」
「俺もだ。なんかすげえ疲れたな」
「いろいろあったから。ルナール・ナイトレイヴンとか⋯⋯」
「それもあるがあの人だよ、Yuru。名前はゆるいのに全然ゆるくねえ」
ミナトはYuruが消えていった北門をまだ見ている。
「普通にガチの攻略組だろ、あの人。レベルも65って俺の周りにはいない層だ。リアルを犠牲にした廃人ってやつか⋯⋯」
『……ねえ』
Yuruの声が聞こえた。
ミナトの動きが止まる。
『聞こえてるよ』
「……」
『全部、聞こえてるよ』
「――俺、露店でも見てくるわ。じゃあな」
―――――
ミナトがパーティを脱退しました。
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『あ、逃げた』
俺は少し笑ってしまった。
『北門前広場のこと、また何か変化があったら教えてね』
「分かりました」
『あ、卵のことも。何か分かったら私も言うから、そっちもよろしく』
「はい」
『じゃあまたね、ザンくん』
―――――
Yuruがパーティを脱退しました。
―――――
一人になった俺は少し深呼吸をして辺りを眺めてから《第七補給隊名簿》を開いた。
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《灰冠戦役・第七補給隊名簿》
関連記録:
《北門外縁記録》――未接続
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第七補給隊とこの記録がどう繋がっているのか、今の俺にはまだ分からない。
気にはなったが、今日はもう時間も遅かった。
その日は少しだけ露店を見てからログアウトした。
◆◇◆◇◆
イベント開始から4日目は大学とバイトで帰りが遅くなり、結局CROにはログインできなかった。
5日目は少し時間をとれたので、ソロ狩りを中心にイベント素材を集めた。
《風見の丘》はやはり経験値がうまい。
ルナール・ナイトレイヴンの討伐経験値も入れて、俺はレベル47になっていた。
イベント素材のドロップも悪くなかったため、ある程度貯まった段階で、北門前広場に納品しておいた。
そして、イベント開始から6日目の夜。
俺が王都の北門前へ戻ると、景色が変わっていた。
中央広場ほどではないが、もう無人に近い場所ではない。納品台の周りには何人ものプレイヤーが集まっている。
進行度を確認する。
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・北門前広場 39%
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「解放されてから一気に増えたな」
「もう掲示板にも出てるぞ。北門が動いたって」
「けどあと一日しかないぞ。普通に間に合わなそう」
数日前まで諦められていた場所に人が集まっている。少し離れたところでは別のプレイヤーたちが話している。
「これ不具合じゃなかったんだな」
「GMコールした人いるらしいぞ」
「返答は?」
「仕様です、だって」
「CROってそういうとこあるよな」
その言葉で周囲が少し笑っている。
説明されていなかっただけで、ちゃんと条件はあった。でも、俺にはその先にもう一つ繋がるものがあった。
《第七補給隊名簿》の関連記録として表示された《北門外縁記録》だ。
「そういえば王都の歴史院の資料でヒントがあったらしいぜ」
近くから聞こえた声に、俺は振り返った。
「何それ?」
「北門の古い話を調べてたら、星月草原の丘に光を上げる場所があったって話に行き着いたらしい」
「遠回りすぎるだろ」
「でも、実際それで北門イベントが進行したんだろ?」
王都の歴史院。
俺とミナトはネリが見ていた先を追って、あの丘へたどり着いた。
でも、北門の古い記録の筋から同じ場所へ向かったプレイヤーもいたらしい。
同じ場所へたどり着く別のルートもあった。
それなら確かめてみたい。
俺は北門を離れ、王都歴史院へ向かった。
パーティ中のボイスチャット(VC)は設定を変更しない限り、距離が離れていても聞こえる仕様です。




