第37話 昔から残る手順
「三つある」
Yuruが巣の奥を見たまま言った。
「俺たちもさっき見つけたんです」
「戦う前に?」
「はい。この台を調べてたらナイトレイヴンが来たんです」
「なるほど。それであの鳥と戦ってたんだね」
Yuruがもう一度、巣の中を見ている。
ミナトも横から覗き込んだ。
「で、これどうする? 三つあるし、一人一個でいいんじゃないか?」
「用途も分からない」
「私も初めて見たよ。何かあったら情報共有しよ」
Yuruがそう言った直後、俺の手元に通知が浮かんだ。
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Yuruからフレンド登録が申請されました。
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「早いですね」
「情報共有するなら、フレチャが早いでしょ」
「まあ、そうですけど」
「俺にも来た」
ミナトも通知を見ている。
俺は承認を押した。隣でミナトも同じように操作している。
「フレ登録も終わったし、ちゃんと名前呼ぶよ」
「おう」
「じゃあ、ミナっち」
「なんだよ、ミナっちって」
「ミナトだから」
「あ? じゃあザンは?」
Yuruがこっちを見る。
「ザンくん」
「なんでこいつはそのままなんだよ」
「ザンくんはなんかザンくんでいいかなって」
「それはそれでひどい」
「いや、俺だけおかしいだろ」
「嫌なの?」
「いや、別に嫌ってわけじゃ……まあいい……。じゃあ、こっちは何て呼べばいいんだ?」
「なんでもいいよ。Yuruって呼び捨てでも」
「じゃあYuruで」
「黒範囲でもいいよ」
「絶対呼ばねえ」
Yuruが少し笑った。
「分かりやすいのに」
「俺はYuruさんって呼ばせてもらいますね」
「おい、さっきから思ってたんだが、お前Yuruにはなんでずっと敬語なんだよ」
ミナトがこっちを見る。
「猫かぶりモード入ってんじゃねえか」
「初対面なんだから普通だろ」
「俺には最初からこんな感じだったよな?」
「ミナトだから」
「どういう意味だよ」
「私は別に敬語じゃなくていいよ。ザンくん」
「はい、まぁそのうち……」
「そこはすぐ変えねえんだな」
話が決まってから行動に移すまでが早い。
さっきまでの狩り方を思い出すと、こういうところでも迷わない人なんだろうと思った。
俺たちは一人ずつ卵を回収する。
手に触れた黒い卵が光へ変わり、インベントリへ収まる。
でも古い打ち上げ台には、まだ大きな巣が残っていた。乾いた草や枝、黒い羽が絡み合い、台の中央部分を塞いでいる。
「これも片づけるか?」
「そうしないと駄目そう」
「だよな」
三人で巣を崩していく。
太い枝をミナトが持ち上げ、俺とYuruで絡まった草や細い枝を取り除いた。
ミナトが足元に落ちた黒い羽へ手を伸ばす。
「これ、拾えないのか?」
俺も近くの羽に触れてみた。
でもアイテム名も取得表示も出ない。
討伐報酬で手に入った《夜星羽》とは違い、こちらは拾えないようだった。
「無理みたい。巣の一部扱いなのかも」
「同じ鳥の羽なのにな」
「ドロップとフィールドにあるものは別なんじゃない?」
Yuruはそう言いながら残っていた枝を巣の外へ運ぶ。
「ミナっち、そっちの太いのもお願い」
ミナトは文句を言いながらも、大きな枝を持ち上げて動かしていく。
黒い羽や細かな草まで片づけ終えると、巣に隠れていた台の中央部分が見えるようになった。
土に埋もれた石組みの上に古い金属部分が残り、中央には素材を置くための受け皿がある。
Yuruが台の周りを見ながら首を傾げた。
「これ、ずいぶん大きいね。この前、南側の城壁にある打ち上げ台を見たけど、全然違ったよ」
Yuruは古い台を見回す。
「あっちはもっと新しくて小さかった。これは明らかに大きいし、作りもかなり古く見える」
「やっぱ、今の星花祭より前からあった設備なのか?」
「かもしれないね」
俺も改めて台を見る。
さっきこの場所を見つけたとき、ミナトと話した。
ここから見えている北街道がしっかりと整備されるより前。
道がまだ今ほど分かりやすくなかった頃なら、戻ってくる人の目印になっていたのではないか。
「それで何が足りないんだっけ?」
Yuruが聞く。
「打ち上げ方向の確認です」
「方向?」
「北門上部の灯りを基準に確認するって表示に出てました」
Yuruが北門の方を見る。
丘の上からなら、夜の中に北門の灯りがはっきり見えている。
「なるほど。じゃあ、さっき話してたことにもつながるのかもね」
「だろ?」
ミナトが丘の下へ目を向ける。
「まあ、本当に昔の目印だったのかは分かんねえけどな」
「うん。今のところは推測で」
俺は古い打ち上げ台へ視線を戻した。
少なくとも表示には北門上部の灯りを基準に方向を確認するように書かれていた。
巣は片づけて、台の中央も見えるようになっている。
「ちょっとやってみる」
俺は台の前へ立ち、北門の灯りを確認した。
最初に調べた時は巣に塞がれていたが、今なら台の全体を見ながら確認できる。
北門上部の灯りと台の向きを見比べる。
その先には丘から北側へ広がる草原があった。
「この向きかな」
もう一度北門の灯りを確認してから、古い打ち上げ台へ触れた。
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古い打ち上げ台
打ち上げ方向:確認
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続けてイベント表示が更新された。
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北門前広場の進行率に反映されます。
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「お、進んだ」
「俺にも出た。北門前のやつだな」
「こっちにも出たよ」
Yuruが表示を見る。
「へえ。これが北門の止まってた条件だったんだ」
ここまでは三人とも同じだった。
北門前で止まっていた進行条件の一つが、この台の確認だったんだ。
「これで北門前も動くのか?」
「たぶんね。掲示板にもすぐ流れそう」
ミナトとYuruが北門前の進行条件について話している。
でも表示が消えかけた瞬間、インベントリの奥で別のものが淡く光っていた。
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《灰冠戦役・第七補給隊名簿》
関連記録:
《北門外縁記録》――未接続
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この表示は俺にしか出ていない。
北門外縁記録。
いきなり止まっていたログが動き出していた。
でも、これだけでは第七補給隊この記録がどうつながるのかは分からない。
俺が表示を見て考えていると、ミナトが声をかけてきた。
「おい、とりあえず一回戻ろうぜ」
「わかった」
「ここまで進んだなら、北門の方も動いてるかもしれない」
Yuruが杖をしまう。
「私も休憩がてら戻ろうかな。イベント素材も少し入れてみる」
「少し?」
「うん。少し」
ミナトが何か言いたそうな顔をした。
俺もさっきの狩りを見たあとでは、Yuruの言う「少し」をそのまま信じていいのか分からない。
三人で丘を下りたところで帰還石を取り出した。
「じゃあ北門前で」
「了解」
帰還石が光る。
視界が白く染まり、星月草原の夜の闇が消えた。




