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第36話 ノワールメイジ

 

 俺は言われるがまま、Yuruへパーティ招待を送った。


―――――

Yuruがパーティに参加しました。


Yuru Lv65

《ノワールメイジ》

―――――


 Lv65。

 確か今の全サーバー最高レベルが68だったはずだ。そう考えると、かなり攻略組に近い人なのかもしれない。

 あれだけのMOBを一人で集めて狩り尽くしていたのも、このレベルのプレイヤーなら少しは納得がいった。

 それでも、あのソロ範囲狩りは普通ではないだろう。


 この辺りはMOBがリンクしやすい。

 それに星月草原へ入ってから、まだ他のプレイヤーを一人も見ていなかった。

 だからあれだけの数をまとめて引き回せるのかもしれない。


 この辺りに出るMOBはLv52〜55くらいだろう。

 Yuruほどレベルが高ければ、通常MOBからのドロップ率はかなり下がるはずだ。

 それでも、さっきは大量のドロップを拾っていた。

 一体ごとのドロップ率が低くても、あれだけの数を狩れば――。


 そのとき、ルナール・ナイトレイヴンが翼を畳み、一気に高度を落とした。

 黒い巨体が夜空を切り裂くように迫る。

 Yuruは動かない。

 ぎりぎりまで引きつけてから杖を空へ掲げた。


「《ブラックミスト》」


 一瞬で黒霧が空中へ噴き上がった。

 落下してきたナイトレイヴンがその中心へ突っ込む。

 黒い翼の周りへ霧がまとわりつき、星の粒みたいな光が鈍った。


「《ノワールブラスト》」


 その直後、霧の中心で黒紫の魔力が炸裂した。

 夜空の一角が黒紫に染まり、衝撃が霧を円形に吹き飛ばす。

 黒い爆発の中からナイトレイヴンが弾き出された。

 HPが目に見えて削れている。


「急降下する場所に置いたのか?」


「うん。あの角度なら通るから」


「……簡単そうに言ってくれる」


「まぁ、慣れが大きいかな」


 ナイトレイヴンが大きく翼を広げ、強引に姿勢を立て直す。

 でも、上昇しようとした先にも黒い霧が展開されていた。

 Yuruがもう一度杖を振る。

 黒紫の光が翼を呑み込み、またHPを大きく削った。


「《ノワールメイジ》って、ダークエルフ・ウィザードの中でも範囲寄りの方だっけ?」


「そう。単体より数が多い方が得意な二次職」


「さっきから見てればそれはよく分かる」


 Yuru一人で敵のHPをどんどん削っていく。


「盾さん、次来たら止めて」


「俺、ミナトな」


「盾さんは盾さんでしょ。私も『黒範囲、こっち』ってパーティで言われるよ」


「それ名前じゃなくて役割で呼ばれてるだけじゃねえか」


「分かりやすくていいでしょ」


「まあいいけど……。で、盾が何するかは分かってんのか?」


「分かるよ。敵をいっぱい連れてきて耐える人でしょ」


「それ範囲狩りの盾じゃね……?」


 Yuruは気にせず今度はこちらを見る。


「君は……スカウト?」


「そうです」


「何する人だっけ?」


「え、そこからですか……?」


「ごめん。範囲狩りばっかりしてきたから、他の職に疎くて」


 ミナトが少し考えてから聞く。


「じゃあ、ダークエルフ以外の種族で範囲寄りのウィザード職って何があるんだ?」


「ん……?」


「そもそも自分の職しか知らねえじゃねえか!」


 ナイトレイヴンが夜空で旋回した。

 黒い翼が大きく傾く。

 次の瞬間、残った黒い霧を引き裂きながら再び急降下してきた。

 HPはもうわずかだった。


「落とすよ。取れるなら取って」


 Yuruの杖が動く。

 黒紫の光がナイトレイヴンの翼を打った。

 急降下の軌道が大きくぶれる。

 それでも黒い巨体は勢いを落とさず、霧をまとったままこちらへ突っ込んできた。


「盾さん、受けて」


「任せろ!」


 ミナトが大盾を正面へ構えた。

 次の瞬間、黒い爪が盾へ激突する。

 重い音が丘に響き、ミナトの足が地面を滑った。

 それでも盾は下がらない。

 ナイトレイヴンの勢いを受け止めた直後、ミナトが叫んだ。


「今なら――《リターンインパクト》!」


 ミナトが受け止めた勢いを返すように、大盾を斜め上へ振り抜いた。

 鈍い衝撃音が響く。

 ナイトレイヴンの体勢が大きく崩れた。

 黒い翼が霧の中でもつれ、空をつかみ損ねる。

 そのまま巨体が地面へ叩きつけられた。

 星月草原の草と土が大きく舞う。


「ザン!」


 ミナトの声が飛ぶ。

 HPはまだあと少し残っていた。

 ナイトレイヴンが地面を削りながら、もう一度翼を広げようとしている。


 もう一度飛ばれたら届かない。

 その前に俺は走った。翼の端ではない。

 狙うのは翼の付け根だ。

 さっき見えた一瞬だけ空く場所。


「《クイックスラッシュ》――!」


 起き上がる直前の黒い巨体へ踏み込む。

 短剣の軌跡が黒い羽の下を走った。


 残っていたHPが消える。


 ナイトレイヴンは最後に翼を大きく広げた。

 その黒い巨体が無数の星の粒みたいな光へ崩れ、夜の草原へ散っていった。

 直後、経験値バーが一気に伸びる。


「おお……」


 一度の戦闘とは思えないほど目盛りが進んでいた。

 ほとんどYuruが削ったのに、パーティを組んでいたから俺にも討伐経験値が入っている。


「うわ、かなり増えた」


「俺もまあまあ入ったぞ。お前ほどじゃないけどな」


 ミナトも自分の表示を見ていた。


「ちゃんとLA取れたね」


「……あれ、最後わざと残してくれたんですか?」


「せっかくパーティ組んだんだから、そのくらいはね」


 ミナトが大盾を下ろした。


「ほとんどあんた一人で削ってたけどな」


「でも最後は二人で倒したでしょ」


「そういうことにしとくか」


 その一方でドロップはあっさりしている。


―――――

【ドロップ】

・夜星羽×1

―――――


「……経験値の割に、ドロップ渋いな」


「私から見ると名前が青だからね。レベル差がある分、かなり渋くなるよ」


 Yuruは気にした様子もない。


「だから見つけたら狩る。数をやらないと欲しいものは出ないから」


 やっぱり、そういうことらしい。

 さっき見た群れの数を思い出す。

 Yuruは丘へ上がると、台を覆う巣を覗き込んだ。

 その動きが初めて止まった。


「……え?」


 Yuruがもう一度、巣の中を覗き込む。


「これ、卵?」


 

 

【とある攻略サイトより】 

■種族:ダークエルフ


【初期職】

 ├─【前衛見習い】

 ├─【中衛見習い】

 └─【後衛見習い】

    ├─〈ダーク・ヒーラー〉

    │  ├─《ペイルヒーラー》

    │  └─《ヴェインキュアラー》

    │

    ├─〈ダーク・ウィザード〉

    │  ├─《ノワールメイジ》 ◀ Yuru

    │  └─《ダークアルカニスト》

    │

    └─〈ダーク・バッファー〉

        ├─《ダスクバッファー》

        └─《カースウォーダー》


■《ノワールメイジ》:〈ダーク・ウィザード〉から派生する二次職。

 黒魔術の魔術師。範囲内の敵を鈍らせながらまとめて削る範囲魔法職。

 単体火力よりも範囲制御・デバフにも優れ、複数の敵との戦闘や通路など敵がまとまりやすい場所で強い。

 

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