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第33話 丘の上

 

 星月草原は遠くから見ると平らだったが、歩いてみると緩やかな起伏が続いていた。


 低い場所へ入ると、草木に遮られて北門が見えなくなる。

 少し高い場所へ出ると、門の上に飾られた灯りが夜の中に浮かんで見えた。


「ネリは北門から、この草原の方を見てたんだよな」


 ミナトが北門の方を見た。


 俺も周囲を見渡す。

 この辺りより高い場所なら、北門だけでなく草原の先まで見渡せるかもしれない。


「もう少し高い場所に行ってみよう」


 俺たちは近くで一番高くなっている丘へ向かった。

 進むにつれて北街道の本線から少しずつ離れていく。


 緩やかな坂を上るほど、王都北門の灯りがよく見えるようになった。


「思ったより高さがあるな」


 丘の頂上に近づくほど風が少しだけ強くなり、周囲の草も大きく揺れ始めた。

 最後に一段だけ地面が高くなった場所へ着くと、視界が一気に開けた。


 振り返ると、王都セントヴェルが夜の中にはっきり浮かんでいる。

 北門の上に並ぶ灯りも、外壁の内側にある祭りの光も、遠くから見ると一つの大きな明かりに見えた。

 プレイヤーたちがあふれていた中央広場はあの辺りだろうか。

 王都全体が暗闇の中で明るく息づいているのが分かった。


 俺は反対側へ視線を向けた。


 丘の下を北街道が細く伸びている。

 王都の北門から離れ、星月草原の向こうへ続いていく道だ。

 その線は暗闇の中へ消えながら、思ったよりずっと遠くまで続いていた。

 この丘は王都から遠すぎず、北街道からも大きく外れていない。


「ここ、眺めが良いな」


「ここなら草原の先も、振り返れば王都も見える」


 ミナトが大盾を背負い直した。


「だからこそ、何かあるのかもしれないな」


「探してみよう」


 俺は《探知》を使った。

 敵の反応はない。

 採取ポイントとも違う。

 それでも周囲を少し探すと、すぐに別の反応があった。


「ミナト」


「ん、敵か?」


「敵じゃない。こっちに何かある」


 背の高い草花の間に、石組みが半分ほど埋もれていた。

 草と土に覆われていて、遠目にはただの地面の盛り上がりにしか見えない。


 近づいてみると思っていたより広かった。

 中央には深めのくぼみがある。

 三つの素材を置き、そこから星花を打ち上げるための設備らしい。


「これ……打ち上げ台か?」


 ミナトが低く言った。


「形はそれっぽい」


「でも、こんな外れに置くのか?」


 ミナトが言うように、そこが引っかかった。


 一年前、ベルカ村で見た星花祭の最後を思い出す。

 星花は空へ上がったあと、光の花びらになって村の上へ降り注いでいた。


 祭りのためなら、人のいる場所を包むように打ち上げるものだと思っていた。

 だが、この台があるのは王都の外だ。

 しかも、北街道から外れた星月草原の丘の上。

 台も明らかに古びていて、今回のイベントのために新しく設置されたものには見えない。


「これ、かなり前からあるんじゃないか?」


「……じゃあ、昔は王都の外で星花を上げる理由があったってことか」


 ネリが言っていた『昔』。

 俺はもう一度王都の方を見た。


 ここからなら北門の灯りも、王都の明かりもよく見える。

 反対側には北街道が草原の向こうまで伸びていた。

 今ならあの道をたどれば王都へ戻れる。

 この丘から星花を上げて、わざわざ目印にする必要はない。

 でも、この打ち上げ台が今の北街道より古いものだとしたら。


 俺はここまで歩いてきた草原を振り返った。

 低い場所では草木に遮られて北門が見えなかった。

 道もない夜の草原を歩いていたなら、王都へ戻る方角を見失うこともあったのかもしれない。

 だが、この丘から上げた星花なら高い空まで昇る。

 草原の低い場所からでも見つけられる。


「この台、今の北街道より前からここにあったのかも」


「あぁ。戻ってくる人に王都の方角を知らせるためか」


「たぶん。道が整う前に使われていたものが、今も残っているのかもしれない」


 王都から遠すぎず、草原の中では高い。

 北門の灯りを基準に向きを決め、そこから星花を上げる場所。


 ――昔は戻る人の目印として。

 ――今は星花祭の打ち上げ台として。


 この場所に台がある理由が少しだけ見えてきた。

 俺は古い金属の台に触れる。


―――――

古い打ち上げ台

―――――


 続けて、短い確認表示が下に現れた。


―――――

素材未設置。

打ち上げ不可。


・打ち上げ方向が未確認です。

・北門上部の灯火を基準に確認してください。

―――――


「北門上部の灯火を基準に確認……?」


 俺は北門の方を振り返った。

 この丘から北門の灯りはすでに見えている。

 でも、この台はまだ使える状態ではないらしい。


「北門の灯りと向きを合わせるってことか?」


「たぶんそう。ここから上げた星花が王都の方角を示すように」


 俺は台の周りをよく見た。

 金属台の縁には土がこびりつき、石組みの間には枯れ草や細い枝が絡まっている。

 中央の受け皿にも乾いた草と小枝がぎっしり詰まっていた。

 暗くてよく見えなかったが、近づくと黒い羽が何枚も混ざっているのが分かった。

 さらに枝の奥には、大きな黒い卵が三つ並んでいる。


「……卵?」


 ミナトが大盾を構えたまま覗き込む。


「待て。おい、これ巣になってるぞ……」


 打ち上げ方向を確認しようにも、中央の台が塞がれている。

 素材を置く場所も、北門の灯りと向きを合わせるための基準も見えない。


 俺がもう一歩近づいた瞬間、空から風が落ちてきた。

 周囲の草が倒れる。

 白い花が一斉に同じ方向へ伏せた。


 とっさにミナトが俺の肩を後ろへ引く。

 その直後、黒い巨大な翼が目の前を通り過ぎた。

 

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― 新着の感想 ―
巣になってたから打ち上げできなかったと……いや手を拱くぐらいなら情報開示してくれよw もっとドストレートに協力したいんだが何が問題なんだ?とか解決の手伝いは何をすればいいんだ?ぐらい言っとけばよかった…
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