第32話 盾と斥候
草木の奥が一度に揺れた。
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スターグラスラット
スターグラスラット
スターグラスラット
ルナグレイウルフ
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「……多くないか?」
「リンクしたな。下がると散る。ここで止めるぞ」
ミナトが大盾を前に出した。
ルナグレイウルフは真ん中を低く走り、三匹のスターグラスラットは左右へ広がる。
狼が正面を押し、ラットが脇へ回ろうとしていた。
「ザン、後ろで全体を見て動いてくれ。外へ出たやつは追わなくていい」
俺は短剣を握り直し、ミナトの少し後ろへ下がった。
右のスターグラスラットが草の中へ膨らむ。
左の一匹もミナトの盾を避けるように外側へ跳ねた。
このまま広がられると、俺たちの周りを回られる。
「《ワイドアトラクト》!」
ミナトの盾から広い光が走った。
散りかけていた四体の視線が、一気にミナトへ戻る。
左右へ膨らんでいたスターグラスラットの足が止まり、ルナグレイウルフも低い唸りを上げて盾へ向きを変えた。
大盾と狼の突進がぶつかり、重い音が鳴る。
ミナトは盾の角度をずらして衝撃を逃がし、右へ逃げかけたラットには剣を振るって牽制する。
敵に注意が集まったが、動きまで止まったわけじゃない。
ラットはまだ跳ねる場所を探し、ウルフは盾の端へ肩を押し当て、ミナトの向きをずらそうとしている。
俺はスターグラスラットの動きを見た。
小さくて速い。
正面から追っても、短剣が毛をかすめるだけで終わりそうだ。
でも、じっくり見ていると動きの合間に違和感を覚えた。
跳ね直す瞬間。
地面を蹴る前に体が沈みこむ。
その一瞬だけ、背中の一部が月明かりを受けて淡く反射した。
他の部位の毛並みとは違い、星形の草花が光を返すみたいにそこだけ細く色が変わって見えた。
あそこだ。
でも、見えたからといってすぐ当てられるわけじゃない。
反射した場所は、次の跳躍ですぐに消えてしまう。
俺は盾の反対側に回り、その瞬間を待った。
ミナトが盾を押し込み、逃げ道を狭める。行き場を失った一匹が跳ね直そうとして体を沈める。
月明かりが背中の一点を照らした。
「《クイックスラッシュ》――!」
光った場所に合わせて、短剣を入れた。
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Critical――!
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HPが大きく削れる。
もう一度――そう思って前へ出かけた瞬間、ルナグレイウルフが盾の端へ突進した。
ミナトの向きがわずかにずれる。
その隙に別のスターグラスラットが俺の足元へ跳ねてきた。
「ザン、下からだ!」
小さな体が腹にぶつかり、HPが削れる。
体勢が崩れたところで、弱った一匹が草の中へ逃げようとした。
一瞬、追いかけそうになる。
「いや、追わなくていい!」
ミナトの声で足が止まった。
直後、ルナグレイウルフの噛みつきが俺のいた場所をかすめた。
追っていたら危なかった。
「《アトラクト》!」
今度は広く引く光ではない。
ミナトの盾から伸びた光が、弱って逃げかけた敵だけを捉える。
視線がミナトへ戻った。
「ザン、あの弱ったやつからだ」
「了解」
ミナトが盾を押し込み、散りかけた敵をもう一度大盾の前へ寄せた。
弱ったスターグラスラットが跳ね直して盾にぶつかっていく。
月明かりが背中の一点をまた照らした。俺はその瞬間に合わせて、短剣を合わせて振る。
一匹目が光になって散った。
残った二匹が左右へ分かれようとしている。
「《ウォールライン》」
光の壁が走り、右へ逃げかけた一匹の向きが変わる。
スターグラスラットが盾の正面へ戻ってくる。
そこへ、ルナグレイウルフが低く跳び、盾の上へ食らいつくように乗った。
ミナトは盾を押し返しながら、剣で狼の前脚を斬り返す。
狼の体勢が崩れ、横にいたスターグラスラットが巻き込まれて跳ねた。
月明かりが、丸まった背中の一点を照らす。
俺はそこへ短剣を入れた。
二匹目が光となって消えていった。
最後の一匹が俺の横を通ろうとする。
今度は追わない。
「《アトラクト》」
ミナトが逃げようとした一匹の注意を引き戻す。
行き場を失ったスターグラスラットがその場で跳ね直した。
俺は一瞬見えた背中のクリティカルポイントに合わせて、短剣を突き刺した。
小さな体が光になって消えていく。
残ったのはルナグレイウルフだけとなった。
今のスターグラスラット戦で少し掴めた。
この星月草原のMOBは動きが変わる瞬間に月明かりが拾うポイントがあるのかもしれない。
見えるのは一瞬。
でも、ミナトが盾で動きを絞ってくれたら狙える。
「ウルフはさっき攻撃していない部位とタイミングがある。やってみていいか?」
「了解。こっちで引くから狙ってくれ!」
ルナグレイウルフが低く身を沈めた。
また盾の端を押し流すつもりだ。
「またずらしてくる」
「分かってる。先に流す」
ミナトは盾を斜めに置いた。
狼の肩が当たる瞬間に体をずらし、力を横へ逃がす。
そこへミナトの剣が前脚を斬りつける。ルナグレイウルフの体が横へ流れていく。
そのとき、首の後ろから肩へかけて灰色の毛並みが月明かりを反射した。
硬そうな毛の間に、白っぽい筋が一瞬だけ煌めいた。
でも、見えてもすぐには届かない。
狼の体が流れきる前に、前脚が地面を掴み直す。
そこに合わせる。
俺は短剣を入れた。
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Critical――!
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「通った!」
「よし、もう一回同じ形にする」
反転した狼が俺へ跳んでくる。
黒い口と鋭い牙が迫る。
ここで下がりすぎれば、ミナトの作った位置から外れる。
俺は《シフトステップ》で横へずれると、その間にミナトの盾が横から差し込まれた。
狼の噛みつきが盾へずれる。
「こっちだ」
俺はミナトの背中側へ戻った。
ミナトが盾を押し込み、狼の向きをもう一度固定すると、嫌がって体を捻ったときに首の後ろの部分がもう一度月明かりを返した。
ミナトが作ったその隙に合わせて、俺は同じ位置に短剣を通す。
ルナグレイウルフのHPが削り切れ、灰色の体が光になって散った。
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【ドロップ】
・星花弁×1
・星降の火種×1
・月灰狼の毛皮×1
・星草鼠の体毛×3
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草原が静かになった。
ミナトは周囲を確認してから大盾を下ろす。
俺は削れたHPを見て、息を吐いた。
「結構……危なかったな」
「リンクすると、気を抜けない」
「あれが嫌なところだな。一匹だけ追うと群れの外へ引っ張られる」
ミナトはルナグレイウルフが消えた場所を少し見てから言う。
「それよりザン、相変わらずクリティカル狙うのうまいな」
「そうか?」
「俺が止めたところにちゃんと刺してくれるのは助かる」
「いや、ミナトが止めてくれるから見えやすいし、攻撃しやすい」
「……そういうこと言うと、盾役が調子に乗るぞ」
「もう乗ってるだろ」
「否定はしない」
ミナトは口の端だけで笑った。
正面から押し切れなくても、見る場所が絞れれば攻撃は通せる。
でも、見るためには崩れない場所にいないといけない。
それが今の俺たちにできる戦い方だった。
ミナトは伸びをしてから、北街道の先を見ている。
草が揺れる音に混じって、北門の方から祭りの音がかすかに届いていた。
俺は北門の方を振り返った。
ここはまだ戻れる範囲だ。
「ネリが見てたのも、このあたりの方角だったと思うんだけど」
「なら、この辺をもう少し探してみるか?」
ミナトが街道脇の草地を見渡す。
月明かりの中で星形の白い草花が夜風に揺れている。
俺は《探知》を入れたが、返ってくるのは遠くの敵の反応だけだった。
暗い草原の向こうには北門の灯りだけが細く見え隠れしている。
ここからだと、見えているものが少なすぎる。
「……ここじゃないのか」
俺はもう一度、周囲の草原を見渡した。




