第24話 歌碑の反応
歌碑の表面に刻まれた線と点に光が走った。
リヴィアの指先に触れた場所から、刻まれていた線と点が少しずつ浮かび上がっていく。
前に見たときとは違う反応だった。
その光はすぐには消えなかった。
細い線がゆっくりつながり、点が順番に淡く灯る。
文字ではない。
まるで記号が意思をもっているかのように宙で流れた。
世界樹の内側がかすかに鳴った気がした。
俺の前には詳しいログは出ていないため分からない。
リヴィアは広がった光に一瞬包まれて動けなかった。
杖の小鳥飾りだけが、小さく揺れている。
しばらくして文字が浮かんだ。
『サブ職クエスト、無事でました』
「おお、おめでとうございます」
『はい、ありがとうございます』
その直後、リヴィアがここで入手したクエスト情報についてパーティ共有を使ってくれた。
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【パーティ共有】
サブ職クエスト《まだ歌われない詩》に関する共有可能な情報があります。
世界樹の内に残る歌碑が古い旋律の一部を示しました。
詳しい内容は条件を満たした者のみ確認できます。
―――――
「共有だと⋯⋯ここまでみたいですね」
『はい。私の方にはもう少し出ていまして』
「行き先とかですか?」
『いえ、名前だけなんです』
「⋯⋯名前?」
『はい、《詩守り》とあります』
「詩守り⋯⋯?」
聞いたことのない名前だった。
でも、世界樹の歌碑から始まるクエストが発端なら、ただの案内NPCではないはずだ。
「その人に会えば進む感じですかね」
『たぶん、そうだと思います。でも、場所が全く分かりません』
「では探すところからなんですね」
『はい。ここからは地道に進めていくしかなさそうです』
「そういうクエスト、CROっぽいですね」
『はい。とても』
最初の反応だけ出て、その先は自分で歩く。
世界樹の歌碑から始まったサブ職クエストも、そういう扱いなのだろう。
俺も試しに歌碑へ触れてみた。
―――――
《世界樹の歌碑》
世界樹の内に残された古い歌碑。
刻まれた線と点は、古い旋律の一部を示している。
現在の条件では詳しく読み取れません。
―――――
「リヴィアさんが共有してくれたおかげで、こっちの表示も少し変わってます」
『変わっているんですか?』
「はい。古い旋律の一部、という説明が出ています」
同じ場所にある同じ石なのに、リヴィアには道が開いて、俺にはその手前だけが見えている。
でも、不思議と焦りはなかった。
読めないことは、終わりじゃない。
今はまだ届いていないだけだ。
俺は《灰冠戦役・第七補給隊名簿》を開いた。
―――――
未開示記録:《第二中継点》
必要な条件を満たしていません。
―――――
第二中継点は、まだ開かない。
でも、もう同じ表示には見えなかった。
条件を満たせば、歌碑は反応した。
なら、この名簿もいつか変わるかもしれない。
『ただ、今日はここまでにします』
「続きは明日以降ですか?」
『はい』
『少し、リアルの方が忙しくなりそうなので』
「分かりました」
それ以上は聞かなかった。
リアルの事情まで踏み込む話ではない。
俺も画面端の時間を見る。
そろそろ遅い。風見の丘で思ったより長く遊んでいた。
『今日は、ありがとうございました』
「こちらこそ。風見の丘では助かりました」
『私も助かりました』
「歌碑が動いてよかったですね」
リヴィアは振り返って歌碑の方を見る。
やがて、短い文字が浮かぶ。
『はい、ありがとうございました』
少し沈黙が流れる。
外から微かに水路が流れる音が聞こえていた。
『あの、では。また、どこかで』
「はい。また、どこかで」
リヴィアのアバターが小さく頭を下げる。
その姿が淡い光となってこの場から消えた。
俺はしばらくその場所を見ていた。
世界樹の内側には歌碑が光った後の静けさだけが残っている。
俺は一度振り返った。
静かに佇んでいる世界樹の歌碑。
なんとなく、この景色を残しておきたくなった。
俺はスクリーンショットを一枚撮った。
次にやることは、はっきりと見えている。
レベルを上げ、条件を満たす。
そしてもう一度、あの名簿の先を開く。
俺は世界樹の広間から出た。
シルヴェイル村の空には世界樹の枝葉が広がっている。
水路の光が白い石畳に揺れ、遠くの広場からプレイヤーたちの声が聞こえてきた。
俺の知らない続きが、まだこの先にある。




