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攻略組が帰った後から始まるVRMMO 〜イベントに遅れた俺だけが、誰にも拾われなかったユニークを見つける〜   作者: 桜めんと
第三章『シルヴェイル村の歌碑』

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第22話 狂風鳥グレイヴェル

 

 丘の斜面を下り始めた直後、背後で風が爆ぜた。

 振り返る余裕はない。

 ただ、《狂風鳥グレイヴェル》がこちらへ迫っていることだけは分かった。


 周りにいたアッシュモスの群れがまとめて吹き飛び、草の上に深い軌跡が残った。ホップフェザーもゲイルフェザーも関係ない。

 あの風の前ではこの狩場のMOBはただ巻き込まれて飛ばされるだけだった。


『倒せる敵ではないので、このまま逃げましょう』


 でも、グレイヴェルはすぐ後ろまで来ていた。


「――追いつかれそうなので、一度こっちに注意を向けます」


『え』


「リヴィアさんはこのまま先に行ってください」


 俺は振り返って短剣を抜いた。

 グレイヴェルの風は壁みたいに押し寄せてくるわけではなかった。

 地面をえぐる白い風の線が何本も走り、その線に触れた草やMOBがまとめて吹き飛ばされていく。

 避けるだけなら、あの白い線から逃げればいい。

 でも、今の距離ではそれだけだと意味がない。


 少しでもいい。

 風の流れをずらして注意を引かなければ、二人ともやられる。


 ――よく見ろ。


 白い線が走る直前、草が先に倒れている。

 倒れた草の先を追えば、次に風がどこを通るかは分かる。

 俺は《シフトステップ》で横へ跳んだ。

 目の前の草が斜めに倒れ、そこへ白い風の線が走ってくる。


 ――速い。

 まともに触れれば、そのまま吹き飛ばされるだろう。

 正面から止めるのは無理だが、今は倒すことが目的ではない。俺たちが逃げる場所から、少しだけ風を外せればいい。


 白い線の奥でグレイヴェルの翼が低く降りてくる。

 風だけが走っているわけじゃない。

 翼が地面すれすれをなぎ払い、その動きに合わせて白い風の線が地面を走っている。


 白い線が走る直前には、必ず翼の端が先に動いていた。

 つまり、狙うならあそこだ。


 風そのものじゃない。

 風を生んでいる翼の端。

 風が薄くなる一瞬を縫って、翼の端へスキルを押し込む。

 俺は短剣を構え、白い線が足元へ届く直前に《シフトステップ》で前へ踏み込んだ。


「《クイックスラッシュ》」


 斬撃エフェクトが白い風の隙間を抜け、降りてきた巨大な翼の端にぶつかった。


―――――

Resist!

―――――


 ダメージはほとんど入っていない。

 短剣は風の膜に弾かれたが、翼の端から羽根が一枚だけちぎれた。

 グレイヴェルの首がこちらへ向く。

 その間に、俺たちの進む先を走っていた風が外れた。


 グレイヴェルは一度上空へ飛び上がり、周囲を旋回し始めた。

 ちぎれた羽根が草の上へ落ちてくる。


「……少しだけ攻撃できました」


 リヴィアの文字はすぐには返ってこなかった。


『……今の、翼に当てたんですか』


「少しだけです。ほとんど弾かれましたけど」


『でも、今ので少し離れてくれました』


「はい。今のうちに行きましょう」


 俺たちはまた走り出した。

 そのとき、上空のグレイヴェルが首をこちらへ向けていた。その視線は俺を通りすぎて、今度はリヴィアの方へ向いていた。


「――っ! 後衛職狙いか」


 グレイヴェルが大きな翼を振った。

 風の軌跡が一直線にリヴィアへ走る。

 その前に、リヴィアはすでに杖を振っていた。


―――――

《スプラウトリカバリー》

《フェアウィンド》

―――――


 支援がかかると同時に、俺たちは走り出した。

 さっき空から落ちてきた羽根が進路のすぐ横にある。

 本来は拾う余裕なんてない。

 でも、通り抜ける瞬間なら別だ。

 俺は体を低くし、なんとか羽根をつかんだ。


―――――

《グレイヴェルの羽根》を入手しました。

―――――


 ログを見る暇はなかった。

 グレイヴェルがまた翼を振り抜く音が聞こえる。

 地面をえぐる白い軌跡が俺たちの逃げ道をふさぐように走ってくる。


 それをどうにか避けて走り続ける。

 背後でまた風が大きく鳴ったが、そちらを見れば逃げるのが遅れる。


 見張り台はまだ遠い。

 このまま走っても間に合わない。

 背後で翼の音が低く沈んだ。

 次の狂風が来る。


『あの、あそこに』


 リヴィアの文字が浮かぶのと同時に、丘の斜面の下の方に草で隠れた大きなくぼみが見えた。


「――飛び込みます」


 返事を待つ余裕はなかった。

 俺たちは走る勢いのまま斜面へ滑り込み、草の奥に開いたくぼみへ転がり込んだ。


 次の瞬間、頭上を白い風の線が通り過ぎる。

 周囲の草がまとめて倒れ、斜面の上を削る音が響いた。


 ほんの少し遅れて、巨大な影がくぼみの上を抜けていく。

 グレイヴェルはそのまま空へ上がり、俺たちが走っていた道の先を旋回した。


 音が遠ざかっていく。

 どうやら、見失ってくれたらしい。

 俺たちはしばらくその場を動けなかった。


「あれは……戦う敵じゃないですね」


『はい』


 リヴィアの文字が浮かんだ。


『ザンさんがいきなり戦い始めたのでびっくりしました』


 そこでリヴィアの文字が止まった。


『……あ、呼び方』


「大丈夫ですよ。普通にザンで」


『いえいえ、ザンさんって呼んでも大丈夫ですか?』


「はい。でも、ザンさんって少し言いづらいでしょうし、ゲームなんで呼び捨てでも――」


 言ってから少し遅れて気づいてしまった。


「あ、すみません。今のは忘れてください」


 少しだけ変な間が空いた。


『いえ。大丈夫ですよ』


 俺はそれ以上、聞かなかった。


『では、ザンさんで』


「はい」


『ザンさんがいきなり先に行けって、どうしようかと思いました』


「すみません。この狩場にいる敵なら、そもそも少しくらい戦えるものだと思ってました」


『あれは大きすぎます』


「確かに」


 自分で言って少し笑ってしまった。

 リヴィアのアバターもふっと口元を緩める。


『フルパーティーが二組、戦っているのを遠目に見たことがあります。倒せたかまではわかりませんが』


 リヴィアは少し間を空けて続ける。


『少なくとも、そのくらいの人数が必要なのかもしれません』


 俺はそこでようやく、逃げている途中で流れたログを確認した。


―――――

《グレイヴェルの羽根》を入手しました。


シークレットクエスト:《グレイヴェルの羽根》が発生しました。

―――――

 

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― 新着の感想 ―
ボイスチャットのテキスト化が標準装備されてるゲームなんてよくあるし、Windowsの音声認識機能でゲーム内チャットにテキストで反映してるやつなんて普通にいたし(チャットをタイプしてると床ペロするから)…
リヴィアってチャットで会話する人だけど、「え」と一文字だけ送信することないと思うけどな。 高イヴのは思わず動揺とかで出ちゃうからあるのであって、チャット式なら入力→送信の過程を踏むから、今回みたいな場…
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