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第21話 共闘

 

 《ゲイルフェザー・アタッカー》はホップフェザーより二回りほど大きかった。

 細長い翼を草すれすれに広げて、低く構えている。その名の通り、逃げずに突っ込んでくるタイプの敵なのだろう。


「かなり速そうですね」


『はい。あと、普段ならリーダーも一緒にいることが多いのですが』


 リヴィアがそう返すのを待っていたかのように、奥から別色の鳥型MOBが現れた。

 ゲイルフェザー・アタッカーより体が太く、翼も少し長い。頭の後ろには風に逆らうような朱色の飾り羽が立っていた。


―――――

《ゲイルフェザー・リーダー》

―――――


『やっぱりいました』


「あれがリーダー……」


『先にバフを入れておきますね』


―――――

《フェアウィンド》

《ロックガード》

《クリアヴェール》

―――――


 足元に風の輪が広がり、体の横に石の盾のような光が浮かぶ。視界には薄いヴェールも重なった。


 リーダーが丘の上に降り立つ。

 それが合図だったのか、アタッカーが地面すれすれを滑るように飛んできた。


『いきます』


―――――

《ウィンドカッター》

―――――


 リヴィアの杖から細い風の刃が飛び、アタッカーの翼先をかすめた。大きなダメージではないが、軌道がわずかに外れる。そのずれに合わせて俺は踏み込んだ。


「《クイックスラッシュ》」


 短剣が翼の下を走り、アタッカーのHPが削れる。

 攻撃を当てた感触は軽い。敵のHP自体は高くないのだろう。

 問題は丘の上でこちらを見ているリーダーがどう出てくるかだ。


 そこでリーダーが翼を広げるのが見えた。

 周囲の草が一斉に寝るほどの風が走り、灰色の羽蟲が草の間から浮き上がる。


「ん、呼び寄せた……?」


『はい。アッシュモスが寄ってきます』


 俺は視界を塞がれる前に《ワイドショット》を撃つ。

 アッシュモスの群れが光になって散った。

 その隙間から、リーダーが滑り込んでくる。アタッカーより体が大きい分、動き自体は目で追いやすい。


 そう思った瞬間、アタッカーの反応が頭上に戻ってきていた。


「え、早い」


 リーダーが翼を大きく振る。

 前からリーダー。上からアタッカー。足元には残った羽蟲。


「他のMOBを風で指揮しているのか」


 俺は《シフトステップ》で横へ逃げる。

 リーダーの翼はなんとか避けたが、戻ってきたアタッカーの嘴に背中を突き刺された。

 HPゲージが大きく削れる。


―――――

《スプラウトリカバリー》

―――――


 足元から淡い緑の光が重なった。

 削れたHPゲージの端に細い回復予告が乗り、少しずつ戻り始める。


『また来ます。右へずれてください』


 俺は反射的に右へ踏み出した。《フェアウィンド》のおかげで体が軽い。

 リーダーの翼が空を切り、戻ってきたアタッカーの嘴も外れた。


 今のでわかった。

 まず狙うのはリーダーの突進じゃない。

 リーダーの風で戻ってきた瞬間のアタッカーだ。


 上空を旋回していたアタッカーが、また風に引かれてこちらへ戻る角度に入る。

 まだ距離がある。俺はショートボウに持ち替えて翼を狙った。


「《ピンポイントショット》」


 鋭く走った矢がアタッカーの翼の根元へ刺さり、体が大きく傾く。


―――――

《ウィンドカッター》

―――――


 そこへリヴィアの風の刃が反対側の翼を切り裂いた。

 左右の翼を崩されたアタッカーは、風に乗り切れず草の上へ落ちかける。


 今なら首元に届く。


「《スローイングダガー》」


 狙いを定めて投げたナイフがアタッカーの首元へ吸い込まれるように入った。


―――――

Critical――!

―――――


 アタッカーの体が大きく揺れ、そのまま光になって消えた。

 ドロップアイテムの白い羽根が草の上へ落ちてくる。


「首の近くがクリティカルポイントみたいです」


『すごい。今の攻撃を当てるなんて』


「リヴィアさんが落としてくれたからですね」


『いえ。それはザンさんが翼を止めてくれたからです』


 そう返しながらも、リヴィアの杖は残るリーダーの方へ向いていた。


 リーダーが丘の上へ舞い上がり、また翼を広げる。

 灰色の羽蟲が足元へ流れ込んできた。


「また呼ばれると厄介ですね」


『はい、先にいきます』


―――――

《ウィンドカッター》

―――――


 風の刃がリーダーの翼をかすめた。

 大きく削れるわけではないが、翼を振る動きが乱れ、呼び寄せられた羽蟲の広がりも遅れる。

 俺はそこへ《ワイドショット》を撃って、先に羽蟲を散らした。


『近づいてきたところを止めます』


 リーダーが風に乗って滑り込んでくる。

 大きな翼が開く。さっきと同じ突進攻撃が来る前兆だった。


―――――

《ルートバインド》

―――――


 地面から細い根の光が伸び、目の前まで来ていたリーダーの足元に絡みつく。

 翼を振る動きが鈍った。


「《クイックスラッシュ》」


 その隙に短剣で斬りつけると、リーダーのHPが大きく減った。

 そのまま足元の根を振りほどこうと、無理やり翼を広げてくる。

 翼による風圧が横から叩きつけられたが、リヴィアのバフ――《ロックガード》が衝撃を受け止めてくれた。

 さらに《ウィンドカッター》がリーダーの飾り羽を切っていた。

 それを見て、翼が開ききる前に俺は前へ出る。


「これでどうだ――《クイックスラッシュ》」


 斬撃エフェクトが走り、リーダーの体が光となって砕けた。

 反った黒色の羽根が二枚、草の上に落ちてくる。

 この戦いで、経験値バーが大きく動いていた。


―――――

レベルが上がりました。

Lv44 → Lv45

―――――


 表示を見た瞬間、胸の奥が少し熱くなった。

 たった一つ。

 でも、今の俺には大きい1レベルだった。

 世界樹の歌碑も、第七補給隊名簿も、まだ条件不足のまま止まっている。なら、今できるのは自分のレベルを一つずつ上げ、条件を確かめるための準備をしていくことだ。


「レベル、久しぶりに上がりました」


『そうなんですか。では、なおさらおめでとうございます』


「ありがとうございます。一人だと無理でした」


『私も一人では戦えていませんでした。こちらこそありがとうございました』


 リヴィアのバフはただ数値を上げるだけではない。

 攻撃を合わせ、拘束を入れ、持続回復で立て直してくれる。


「二人だとかなりいけますね」


 少しだけ文字が途切れた。


『それなら、よかったです』


 さらに遅れてもう一つ文章が浮かぶ。


『さっきの動き、いつも一緒にここに来ている友達みたいでした』


「友達?」


『はい。すごく上手な友達がいて……すみません。比べるつもりではなくて』


 リヴィアはそこで少し文字を止めた。


『合わせやすかった、という意味でして』


「なるほど。ならいいことですね」


 俺は深く聞かず、HPとバフを確認する。

 《スプラウトリカバリー》のおかげでHPはかなり戻っていた。回復薬を追加で飲むと、ほぼ全快する。


 風見の丘は気を抜くとすぐ崩れる狩場だが、敵の見方は分かってきた。

 アタッカーは戻ってきたところを狙う。リーダーは翼を振る前に崩す。呼び寄せられた羽蟲は広がる前に範囲スキルで倒す。


「もう少しいきますか?」


『はい、行けます』


 次に見つけたのはリーダーを連れていない《ゲイルフェザー・アタッカー》だった。

 周囲に朱色の飾り羽は見えない。


「あれ、アタッカーが一体だけですね」


『たまにいます。リーダーから外れているのだと思います』


「倒しておきましょうか」


『はい。クエスト対象ですね』


 単体ならさっきよりずっと分かりやすい。

 翼を弓で崩し、リヴィアの風の刃で落とし、首元へ短剣を入れる。


―――――

Critical――!

―――――


 アタッカーが光になって消えた。

 さらに少し進むと、もう一体アタッカーだけが飛んでいた。今度はリヴィアが先に翼を崩し、俺が落ちたところを短剣で仕留める。


 これでアタッカーは残り一体。

 リーダーもあと一体倒せれば、クエストが完了する。


「あとはリーダーとアタッカーが一体ずつですね」


『はい。こんなに早くクエストを終わらせられそうなんて。一人では絶対無理なので』


「慣れてきましたからね。同じ組み合わせなら、たぶんいけます」


 そう言ってしばらく他の敵を倒しながら進んだところで、草の向こうに朱色の飾り羽が見えた。

 《ゲイルフェザー・リーダー》が一体。


 その周りをアタッカーが一体だけ低く回っている。


『来ました』


「最後、あれで終わりですね」


 さっきと同じ構成だ。

 リーダーが風で羽蟲を呼び寄せ、アタッカーを戻してくる。

 でも、もう見る場所は分かっている。


 灰色の羽蟲が広がる前に倒す。

 アタッカーは翼から崩す。

 リーダーは翼が動く前に止める。


 リヴィアの《クリアヴェール》で視界を保ち、《ウィンドカッター》で翼を崩す。俺は《ピンポイントショット》でアタッカーを落とし、《スローイングダガー》を首元へ投げた。

 アタッカーが光になる。


 続けて、リヴィアの《ルートバインド》がリーダーの足元を絡めた。俺は距離を詰め、《クイックスラッシュ》を入れる。最後にリヴィアの風の刃が飾り羽を切り、リーダーの体も光へと変わった。


『終わりましたね』


「ですね」


 俺はクエスト表示を開く。


―――――

【クエスト:風見の丘の安全確認】


対象:

ホップフェザー 16/16

アッシュモス・スウォーム 8/8

ゲイルフェザー・アタッカー 4/4

ゲイルフェザー・リーダー 2/2

―――――


 全部埋まっていた。


『少し休んでから、報告に戻りますか?』


「はい、そうですね」


 そう答えたところで、周囲の風と空の様子が変わった。


 旗ではない。

 草でもない。

 丘全体の音が一段低くなったような違和感。

 リヴィアのチャットも止まっていた。

 《探知》には今までと違う反応が出ている。

 一つだけ。かなり大きい。


「……何か来ますね」


 遠くの草が、線ではなく円を描いて倒れていく。

 背の高い丘の向こうから巨大な鳥影が現れた。

 灰色の翼。

 青く光る首元。

 翼を広げるたび、草が円を描いて沈むほどの風。


 名前表示が浮かぶ。


―――――

《狂風鳥グレイヴェル》 状態:巡回中

―――――


 クエスト対象ではない。

 圧倒的なサイズの大型飛行MOB。

 勝てそうにない。

 そう判断するまでほとんど時間はかからなかった。


「……引きましょう」


『はい』


 グレイヴェルが大きな翼を振った。

 アッシュモスの群れを吹き飛ばしながら、草の上に白い軌跡を残して風が伸びてくる。

 まだ遠いのに、ここまで突風が走った。


 俺たちは一度だけ視線を交わし、同時に丘の斜面を下った。

  

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