表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/25

第20話 風の輪

 

 前方の《アッシュモス・スウォーム》が薄く広がり、視界が灰色に塞がった。


 その向こうでホップフェザーの影が跳ねる。

 さっきまでなら読めたはずの着地点も、動き出す角度も見えない。


 俺は密集したところへ《ワイドショット》を撃った。

 扇状の矢筋が群れを裂き、アッシュモス・スウォームの一部が光になる。

 だが、穴が開いたのは目の前だけだった。

 横から別の群れが覆い被さってくる。

 視界がまた曇り、不快な羽音が耳を占めた。


「きりがない」


 短剣へ持ち替えたときには、ホップフェザーが跳ねてくるのが見えた。

 避けようとした足が草のくぼみに取られる。


 避けられない。


 肩に衝撃が入り、HPゲージが削れた。


―――――

状態異常:視界低下

―――――


 灰色が濃くなる場所は見えている。

 でも、すべてを撃ち落とせるわけではない。

 アッシュモスを払えば、ホップフェザーが残る。

 ホップフェザーを追えば、灰色が広がる。


 俺は後ろへ下がりながら矢を番えた。

 次に撃つ場所を決める。

 その一瞬で、灰色の群れが大きく広がった。

 ホップフェザーの影が消える。


「あ――」


 横から衝撃が入った。

 体が斜面の下へ弾かれ、HPゲージがさらに削れる。

 すぐに起き上がって回復薬を使う。

 その間にも、アッシュモスは俺の周りへまた広がっていた。


「……まずいな」


 俺は《シフトステップ》を入れた。

 今は読むためではない。

 とにかく、この羽蟲の中から抜けるためだ。


 丘の斜面を横へ抜ける。

 だが、抜けた先にもホップフェザーがいた。


 近い。

 そう思った瞬間、足元に淡い風の輪が広がった。


―――――

《フェアウィンド》の効果を受けました。

―――――


 動きが軽くなる。

 体が自然と前へ出て、ホップフェザーの突進が真横を抜けた。

 続けて、足元から石の盾のような光が立ち上がる。


―――――

《ロックガード》の効果を受けました。

―――――


 別のホップフェザーが横から体当たりしてきた。

 衝撃は来たが、HPゲージの減りが浅い。

 俺のスキルではない。

 チャット欄に短い文字が浮かんだ。


『右、来ます』


 俺はすぐに左へ踏み出した。

 《フェアウィンド》の軽さが残っている。

 さっきまでなら遅れていた一歩が間に合う。

 ホップフェザーの突進が俺の横を抜けていった。

 俺は切り返し、広がった翼の下から短剣を通す。


 ホップフェザーが光になって消えた。

 そこでようやく、俺は支援が飛んできた方を見た。


 灰色の羽蟲の向こうに、緑のローブが見える。

 杖の先で、蒼い小鳥の飾りが揺れていた。

 世界樹の歌碑の前で見た杖だ。

 頭上の名前表示が一瞬見えた。


 ――リヴィア


 リヴィアの前にもアッシュモスの群れが流れている。

 彼女も安全な場所にいるわけではない。


『こちらの群れ、寄りそうです』


「撃ちます」


 俺は灰色の羽蟲が風に流されて寄った先へ《ワイドショット》を撃つ。

 扇状の矢筋が走り、アッシュモスがまとめて光に変わった。

 そのタイミングで、薄い霧のようなヴェールが視界の端に重なる。


―――――

《クリアヴェール》の効果を受けました。

―――――


「おお……かなり見える」


『状態異常耐性が少し上がるので』


 アッシュモスがまとわりついても、完全には視界を奪われない。

 灰色の中に、薄く残る隙間が見えた。

 さらに足元へ、小さな芽の光が広がる。


―――――

《スプラウトリカバリー》の効果を受けています。

―――――


 半分ほどになっていたHPゲージが少しずつ戻っていく。


「ありがとうございます」


『今度は左の方が薄いです』


「そっちへ誘います」


 ホップフェザーを灰色の薄い方へ引き出す。

 アッシュモスは濃くなった瞬間を撃つ。

 さっきまで遅れていた一歩が、リヴィアの支援で間に合うようになっていた。

 見えなかった着地点も、少しずつ読める。


 最後のアッシュモスの群れが光になって散ったとき、《探知》の反応がようやく落ち着いた。


「危なかった……支援、助かりました」


『いえ。こちらも少し流されていました』


 リヴィアの周りにも灰色の羽蟲がまだ散っている。

 風向きが変わったせいで、互いの敵が混ざっていたらしい。


「ここ、すぐ崩れますね」


『はい。ソロだと少し怖いです』


 俺は草の上に残っていたドロップを拾い集めた。

 その後、クエスト表示を開く。


―――――

【クエスト:風見の丘の安全確認】


対象:

ホップフェザー 16/16

アッシュモス・スウォーム 8/8

ゲイルフェザー・アタッカー 0/4

ゲイルフェザー・リーダー 0/2

―――――


「あとはゲイルフェザーっていうMOBだけになりました」


『えっと、ここ初めてですよね?』


「はい。さっき教えてもらって、経験値もよさそうだったので来てみました」


『初めてで討伐クエスト、そこまで進んでいるんですか』


「運と事故みたいなものですよ」


『それは……少しは分かりますが……』


 リヴィアは少しだけ俺を見て止まった。


『普段は友達と来ることが多いんです。私、支援はできますが、一人で動きを読むのはまだ苦手で……』


「バッファーだと、ソロしづらい狩場も多いですよね」


『そうなんです。でも、あと少しでレベルが上がりそうだったので、ちょっとだけでもと思って来ました』


「それで一人で狩ってたんですか?」


『はい。あまり進んではいませんが……』


「じゃあ、よかったら少し一緒に狩りませんか。俺もクエスト途中ですし、一人だとまたリンクしそうなので」


 リヴィアは灰色の群れが消えた草地を見た。

 少しして、文字が浮かぶ。


『いいんですか?』


「こちらこそ大丈夫ですか? 俺は今の支援だけでもかなり助かったので」


『私も助かります。ありがとうございます』


 目の前にパーティ申請の表示が出た。


―――――

リヴィアからパーティ申請が届きました。

承認しますか? YES / NO

―――――


 俺はYESを押した。


―――――

【パーティメンバー 2/9】


ザン:Lv44 ヒューム・スカウト

リヴィア:Lv49 エルフ・バッファー

―――――


『少しですが、よろしくお願いします』


「こちらこそ。お願いします」


 俺は短剣を握り直し、丘の上を見た。

 草の向こうでは灰色の羽音がまた薄く広がっている。

 でも、今度は一人ではない。

 そう思ったところで、丘の上の旗が大きく左へ倒れた。


 草の波が割れる。

 その奥から、ホップフェザーより二回りは大きな鳥型MOBが低く滑るように現れた。

 長い翼を草すれすれに広げ、硬そうな翼の縁が薄く光っている。


「なんだ、あれ……」

『あれは……』


―――――

《ゲイルフェザー・アタッカー》

―――――


 クエスト対象の――まだ倒していない敵だった。

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ