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攻略組が帰った後から始まるVRMMO 〜イベントに遅れた俺だけが、誰にも拾われなかったユニークを見つける〜   作者: 桜めんと
第三章『シルヴェイル村の歌碑』

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第19話 灰色の羽音

 

 灰色の群れが風見の丘の草地を覆っていく。

 その向こうで、別のホップフェザーが跳ねているのが少しだけ見えた。

 さっきまでなら読めたはずの着地点が、灰色の群れによって隠れていてよく見えない。


 ――アッシュモス・スウォーム。


 一匹の敵というより、灰色の羽蟲の群れ全体で一つのMOBとして扱われているらしい。

 名前表示は一つだが、《探知》から返る気配は一体のMOBにしては広く曖昧だった。

 その羽蟲の群れは草の上を滑るようにじわじわと近づいてくる。

 移動しながら吸い込まれるように集まったかと思えば、次の風が吹いたときには膜みたいに広がる。


 さっきまでのホップフェザーとは全然動きが違っていた。

 アッシュモス・スウォームは逃げるために風を使う敵ではないのかもしれない。


 まずは確かめる。

 俺は短剣で群れの端を払った。

 刃が灰色の中を通り抜け、当たった羽蟲が数匹が小さな光になって消えていく。

 でも、アッシュモス・スウォーム自体はそのまま残っていた。

 少し削れても、すぐに別の羽蟲たちがその穴を埋めるせいだ。

 

 そのとき、風を受けた灰色の膜が一気に広がり、俺の視界を塞いだ。


「――っ、見えない」


―――――

状態異常:視界低下

―――――


 細かい羽音が耳元にまとわりつく。

 灰色の羽蟲が視界いっぱいに広がり、周囲がほとんど見えなくなった。

 灰色の向こうでホップフェザーの影が跳ねたのだけが見えた。


 ――間に合わない。


 肩に衝撃が入り、HPゲージが削れた。

 俺は一旦大きく後ろへ下がった。

 羽蟲一匹一匹はかなり脆い。短剣が触れれば一撃で消せる。

 でも、一匹ずつ倒す相手ではない。

 短剣で払ってもすぐに隙間が埋まるし、矢を射るだけでは一点しか削れない。


 ただ、よく見ていると広がりっぱなしではないことに気付いた。

 風に煽られて、羽蟲が一点に寄り集まる瞬間がある。

 その瞬間ならまとめて払えるかもしれない。

 俺はショートボウに持ち替え、今の俺が使える唯一の範囲スキルを選んだ。

 アッシュモス・スウォームが一か所へ纏まった瞬間――。


「《ワイドショット》」


 撃った瞬間から矢筋が扇のように広がる。

 アーチャーの範囲射撃ほど派手ではないし、射程も短い。

 それでも密集した羽蟲を散らすには十分だった。


 灰色の群れに大きな穴が開く。

 まとめて光が弾け、灰色の群れの半分以上が消えた。

 残った羽蟲が風に押され、もう一度一か所へ寄り集まる。

 次に厚くなったところへ矢を撃ち込み、残りもまとめて光へ変えた。


「よし、これならいけそうだ」


 ただし、いつ撃ってもいいわけではない。

 MPも減るし、スキルの再使用にも少し時間が必要だ。

 薄く広がっているときに撃っても、小さな穴が開くだけですぐ埋まってしまう。


 狙うのは羽蟲が風に寄せられて、一瞬だけ厚くなる場所だ。

 俺は弓を構え、足を動かしながら灰色の群れが重なるのを待った。


 相手の着地点ではなく、群れの厚みを見る。

 次のアッシュモスが斜面の下から風に乗って流れてきた。

 広がって覆いに来る。

 俺は群れがまとまるのを、攻撃を避けながら待った。

 次の瞬間、風が大きく吹いて灰色が濃くなる。


「《ワイドショット》――!」


 扇状の矢筋が群れを裂き、灰色の羽蟲がまとめて光に変わった。

 草の上に灰色の粉のような素材アイコンがいくつか残ったのを、拾える分だけ拾う。


 それからしばらくは、風の流れに合わせて撃つ位置を変えながら狩りを続けた。

 まとまった灰色の群れへ《ワイドショット》を入れては、残ったホップフェザーを短剣とショートボウで落としていく。


 ホップフェザーだけを追っていたときとは違う。

 アッシュモスだけを見ていても駄目だ。

 灰色の濃さや草の残り方、その向こうで跳ねる鳥型の影。

 見るものは増えたが、その分うまく噛み合った時の手応えも大きい。

 少しずつ、狩りの流れが戻ってきた。


 クエスト表示を開く。


―――――

【クエスト:風見の丘の安全確認】


対象:

ホップフェザー 13/16

アッシュモス・スウォーム 5/8

ゲイルフェザー・アタッカー 0/4

ゲイルフェザー・リーダー 0/2

―――――


「この二種類は、あと少しだな」


 思っていたより進んでいる。

 経験値バーもかなり伸びて、もう少しでレベルが上がりそうだった。

 風見の丘は敵の動きが面倒だが、その分動きを読めるようになれば経験値がうまい。

 俺は周囲を確認して、丘の斜面を一つ越えた。

 そこで草の揺れ方が変わった。

 斜面の下には灰色の群れがいくつも溜まっている。

 その奥で、ホップフェザーが何体も跳ねているのが見えていた。


「やばい……多いな……」


 すぐに戻ろうとしたが、戻るために一歩引いた瞬間、背後の草が揺れた。

 風に押されたアッシュモスの群れが俺の横をかすめる。

 避けるために動いた先で、また別の群れの端に触れた。


―――――

状態異常:視界低下

―――――


 《探知》から返る気配が一気に膨らんだ。

 灰色の群れが複数。

 草の中を跳ねる気配。

 さらに奥からも、別の反応が近づいてくる。


「駄目だ、リンクしたか……」


 風見の丘の草むらがざわりと揺れた。

 前からアッシュモス。

 横からホップフェザー。

 背後でも灰色の羽音が鳴る。

 さっきまで読めていたはずの敵の流れが、一瞬で崩れた。


 俺はショートボウを構えるが、これは多すぎる。

 周囲の灰色の群れや跳ねる鳥型の影が、同時にこちらへ流れてきていた。

 

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