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ツリ目の騎士、現る

 街に一直線の焼け跡を残した景は、おそらく警察のような機関に捕らえられ、取り調べを受けていた。

 剣を持ってる…。中世ヨーロッパ騎士みたいな感じなのかな?

 抵抗もせず、速やかに連行された景は、今、目の前にいるツリ目の騎士?にあれこれと質問を受けていた。しかし景は彼の腰に光る得物が気になって仕方がない。


 これ、気に入らなかったら首を撥ねるとかあるのだろうか。せっかく自由な体を手に入れたのに?けど街をまっすぐ消し飛ばしたからなあ…。最悪死刑…。


「おい聞いてるのか?」

「すみません、お続けください」


 高圧的な声に、景は従順に頭を下げる。ブルーの紋章を下げた彼の目は、まるでその腰の剣のように鋭い。彼は景の首をいつでも撥ね飛ばしそうな勢いで睨んでいた。


「お前、名は?」

「黒川景です。苗字が黒川で、景が名前です…」

「は?なら普通にケイ・クロカワって言えよ。なんで逆になんか」

「すいません」


 やはりここでは名前の順番が違うみたいで、景は頭を下げる。彼は首を傾げながらも続けた。


「年齢、職業、それと住所は?」

「二十歳です。職業は…働いてないのでありません。学生?と言っても通信授業もほぼ受けれてないけれど…」

「はっきり答えろ」

「学生です。住所は日本の東京都杉並区…。ええっと何丁目だったっけ…」


 長らく家に帰っていないのと、郵便物など出したことがないせいで、実家の住所がわからない。少し考えこむようにこめかみに人差し指を突き立てるが、この先が出てこない。


「もうちょっと待ってくださいね」と景が言うと、ツリ目の騎士は「はあ?」と怪しんだように眉を顰める。大の大人が住所も言えないのかと呆れられたのかもしれない。


「答えられないならもういい。次だ」


 時間の無駄だと言わんばかりに、彼は景の思考を遮る。そして先ほどとは比べ物にならない威圧感を放ち、彼は慣れた手つきで剣の柄に手をかけた。


「本題に入ろう。ケイ・クロカワ」


 冷たく突き放すような声色に、景は鳥肌が立つ。


「なぜ王都を襲った。なんの恨みがある」

「恨み?ありませんよ…。そんなもの…」


 平然と言おうとした。しかし彼はそれを聞いた瞬間、腰の剣を引き抜く。そして一瞬にして景の首元に切っ先を突きつけた。


「恨みがないだと?やはりお前もあの女と同じか。ゴミ溜めの愉快犯め」


 殺気のこもった声とともに、彼は心底不快だと言うように吐き捨てた。今の言い方で、彼は景を完全に国家を脅かす愉快犯だと認識してしまったようだった。だが、景も知らない言葉が出てきて混乱する。


「待って待って何の話!どういうこと?あの女と同じって!」

「とぼけるなよ。ゴミ溜めのミックス。ここいらじゃ有名な盗賊のイカレた女。お前もその仲間なんだろ?」

「盗賊!?」


「初耳なんですけど!?」と言わんばかりに景は驚愕した。

 嘘だろ。冗談じゃない。ぶつかって助けを求めた人がよりにもよって盗賊?あの子が!?

 自分の運がなさ過ぎて景は頭を抱え取り調べの机に突っ伏す。


「嘘だあ…」


 そして信頼できる人を失った絶望感とともに、我ながら情けない涙声を出した。


「あの子、詐欺じゃないって言ったのに…」


 いや、言ってなかったか?思い返せば彼女はあの時「大丈夫さ」としか言っていなかった。これだけでは否定か肯定かわからない。景は激しくうなだれた。金目の物を持っていないので何も盗まれていないが、景は期待と信頼を同時に奪われた気がした。

 その酷く悲しみに暮れる様子に、ツリ目の騎士は眉を動かす。


「お前、仲間じゃないのか?」

「違いますよ。さっき知り合ったばかりですもん」


 景の投げやりな言い方に、彼はわずかに剣の切っ先をおろした。街を一直線に破壊した凶悪犯にしては、あまりにも普通で、まるで被害者のような口ぶりの景に、ツリ目の騎士はどこか違和感を持ったように問いかけた。


「お前、あの女とどこで出会った」

「あの店の前の通りです。で、店まで行くと、なんか彼女に“ラウ…”なんとかって言えって言われて、そのまま復唱したらこう、ビームがドーンって…」


 首を傾げながらの景の説明に、ツリ目の騎士は眉をひそめた。


「は?復唱した…“だけ”?」

「そう。それだけです」


 彼は初めて目を丸くした。そして考え込んだように切っ先を完全におろすと、剣を鞘にしまい込んだ。


「待て。その魔法についての効力は?」

「知りませんよ効力なんて。ていうかやっぱりあれ魔法なんですか!?」


 彼の口にした“魔法”と言う言葉に景は反応する。

 しかし彼は景のその態度込みで、疑り深い目を向けてきた。


「魔法を、知らないのか…?」

「知らないですよ。一つも」


 ハッキリと放った景の一言に、ツリ目の騎士は信じられないと目を見開いていた。そして彼は額に手を当て、重々しく口を開く。


「お前、ちょっと“クテラムト”って言ってみろ」

「何ですそれ?大丈夫なやつです?また街が吹っ飛んだり…」

「くどい」

「はい、『クテラムト』!」


 怒られそうで何も考えず唱えた一言。その言葉を聞いた瞬間。ツリ目の騎士は何かを感じ取ったように景から身を引く。その途端、空間がえぐり取られるように彼の元いた席と、後ろの壁が跡形もなく消し飛んだ。


「ッ!?」


 と同時に、何かずっしりとしたものが落ちてきたような轟音が廊下に響く。さらなるやらかしをかましたと思った景は、一瞬にして血の気が引く。しかし視線の奥では。


「あれ?ケイ、やっほっほーい!」


 見知った顔が手を振っていた。ミックスだ。彼女は隣の部屋で別の騎士に取り調べを受けていた。

 部屋の繋がった二人の騎士は驚愕する。しかしツリ目の騎士の行動の方が早かった。彼は出入口の扉を急いで開けると、その廊下には消えたはずの壁と席が、そのままセットで移動していた。瞬間移動。彼は恐る恐る景に視線を戻す。


「いや、こっち見られても!?」


 またも予期せぬ魔法の発動に景は混乱している。ミックスはツリ目の騎士の真似をして、廊下の瓦礫を見ていた。


「わあ!すごいすごい!」

「すごいじゃなくてッ!」


 悲鳴にも近い景の叫びに、二人の騎士は驚きを隠せずにいる。ツリ目の騎士はもう一人の騎士を庇うように、咄嗟の判断を下した。


「お前は下がれ。こいつは、お前の手に負えない…」

「は、はい!」


 ツリ目の騎士は彼をこの部屋から逃がすと、ミックスと景に向き直った。


「ケイ・クロカワ。お前は一体何者だ」

「何でそんな攻撃的なの!?俺あなたの言うこと聞いただけだよね!?」


「言え」と脅されたから口にしただけの景は咄嗟に彼に言い返す。

「何て言えって言われたの?」と問いかけてきたミックスに景は答えた。


「あの人が『クテラ…」

「それ以上言うなッ!」


 景の開きかけた口を、彼は顔面蒼白で手で塞いだ。その塞ぎ方があまりにも乱暴で、景は息が詰まりそうになる。そのまま床に頭をぶつけるようによろけた景に、ツリ目の騎士は我に返ったのか、ようやく手を離した。


「い、痛い…」

「悪い、咄嗟だったもので…」


 顎の骨が割れるかと思った口元を、景は労しく抑える。彼は少し申し訳なさそうに視線を逸らした。ミックスは二人の様子を面白そうに見ている。


「あはは、何をそんなに焦ってたの?騎士さ~ん」


 彼女はツリ目の騎士に煽るような笑みを向ける。しかし彼はその挑発には乗らず、冷静だった。彼は疲れたように廊下からもう一度イスを持って来て、席に座り直した。彼は静かな視線を景に向ける。


「先のことは謝罪する。すまなかった。どうやらお前の言っていたことは本当らしいな」

「でしょ!?なぜあんな危険な魔法唱えさせたかはわかりませんが、でしょ!?」


 言いたいことは色々あるが、まずはわかってもらえたことが何よりも重要なので、景の文句は一言にとどめておく。しかし彼はそんな景の愚痴にも律儀に対応した。


「魔法を知らないと言ったな、ケイ・クロカワ」


 彼は確認するように景を見た。どうやら説明してくれるそうなので、景は頷く。


「魔法とはこの世にもたらされた恩恵。人にも植物にも魔物にも、目に見えぬ空気にすら恩恵は宿る」

「魔物がいるんですかここ!?怖っ!」

「それも知らないのかよ…」


 この世の常識を語り始めた彼に、俺は恐れおののき、ミックスが「それ教科書で見た!」と反応する。


「だが」


 彼は「それは置いといて」と目を鋭くさせた。


「人が魔法を扱う場合、その効力を知る、もしくは想像できないと魔法は発動しない」

「え?」


 景はポカンと口を開ける。「俺は何も知らなかったぞ」と言いたげな顔で騎士を見た。彼もそのことをわかっているように頷く。


「そうだ。現にお前はオレが言った魔法を知らなかっただろ。あの魔法は本来、宮廷魔法士レベルの奴しか知らない」

「結構な情報漏洩ですね。大丈夫なんですかそれ」

「大丈夫だ。知ってたって並大抵の魔力じゃ使えないんだよ」


 彼の立場を案じる景に対し、ツリ目の騎士は堂々と吐き捨てる。しかし彼の言ったことは、裏を返せばとんでもないことになる。


「え?じゃあなぜ俺は使えたんですか?」

「わからん。そんな人間をオレは見たことがない」


 不安になる景を彼はため息交じりに視界の端に映した。


「それともう一つわからないことがある」


 彼は話を聞いていなさそうなミックスを監視しながら、首を傾げる景に視線を向け直す。


「もう一度問おう。お前は一体何者だ?魔法についての知識もなければ、言葉にするだけで暴発するようなその力。今までどうやって生きてきた。さらに言えばお前が先ほど言っていたニホンノトウキョ?ってのは何処だ」


 彼のもっともな意見に、景は顔を曇らせる。

 そうだ。俺ミクスからこの国?世界?のこと何も訊けてなかったんだった。

 多くの常識が違うようなこの場所に、景は「何て説明したらいいのか」と口ごもった。


「あのね、ケイはね、ここを死後の世界だと思ってたみたいなんだよ!」

「は?」


 突然喋り出したミックスに、彼は目を点にする。しかしこれは好機と捉えて、景は彼女に便乗した。


「そう。十二年間病院で寝たきり生活で…。でも死んだはずなんだ。だけど目が覚めたら突然ここの街中にポンと…。俺のいたところはこんなフランスみたいな場所じゃなかったし、俺の世界に魔法は無かった」

「らしいよ?それで“ラウタス”って唱えさせたらあんなにすごいことが起きちゃうんだもん!びっくりだよねー!」

「ミクス、余計なことは言わないで!」


 ドタバタな二人の説明に、彼は呆気にとられながらも耳を傾けている。だがミックスの放った、たった一言に顔を上げた。


「“ラウタス”…だと…?」


 その表情は冷や汗を流したように絶句している。そしてギギギッと動きの滑らかでない機械のように首を景に向けると、「それ光属性の最大規模魔法だぞ」と言われて、景も絶句した。

 二人の顔が面白かったのか、ミックスはケラケラと笑っている。だがツリ目の騎士だけは冷静だった。


「待てよ。そう言えば数刻前、何もない場所から突然現れた、見慣れぬ格好の男が街を爆走してるっていう不審なタレコミが…」

「それ俺ですね」


 目の前に二つ目の事件の犯人がいて、彼は数秒黙り込む。そして気を取り直したかのようにもう一度話始めた。


「それが本当なら、お前は別の世界から来たということになるのか?」

「多分そうです」


 自分でもおかしなことを言っているようにしか思えないが、それでも彼は怪訝な顔しながら頷いてくれた。


「なるほど。これはオレの手にも負えないな。一旦こっちでこの件を持ち帰らせてくれ。話はまた後日だ。今日は家に帰れ」

「え!?」


 早々と取り調べを終わらせようとした彼に、景はぎょっとする。


「待ってください。一旦牢屋とかじゃないんですか」

「被告人は推定無罪だ。この国じゃ常識」

「推定無罪があるの!?けど待って!俺には家がない!」


 景の絶叫に彼はハッとする。そういや世界を渡って来たんだったということをもう失念していたらしい。彼はどうしたものかと考えるよう腕を組む。景はその肩をつかむと畳みかけた。


「いいんですか俺を監視もなしに野放しにして?俺はこの世界の呪文を知らない。うっかり唱えてしまえばまた街が吹っ飛びますよ?」


 端的に言えば「見張りをつけろ、そしてどこかに泊めろ」と言っている景の意図を彼は理解したらしい。しかし彼はそんな危険人物を泊める場所が牢以外ないのか、推定無罪のルールを守れなくなるがいいのか、と彼は今日一番頭を使うように考え込んでいた。


「もうぶっちゃけ牢でもいいから知らないところで野宿だけは御免です。俺の体はそんなに強くない!」

「そうは言っても、牢もそこまで衛生的ではないし…。だがお前を外に出して魔法を放たれるわけにも…」


 ルールと景に板挟みとなったツリ目の騎士は歯切れが悪い。「最悪あなたの家でもいいです」と言った景に彼はあからさまに嫌な顔をした。だがそこへ助け舟が現れる。


「ならうち来る?」


 ミックスは景の隣で平然と言い放った。一瞬、脳裏にあらぬ妄想が始まってしまうが、景はそれを振り払うように首を振った。


「いやいやいや、さすがに女の子の家に泊めてもらうのは…」

「何言ってるの?大丈夫だよ。モリシーの家は宿屋も兼任してるし」


 モリシー?どっかで聞いたことある名だ。


「あの酒屋か…?」


 ツリ目の騎士は怪訝な顔してミックスに向き直る。景はその言葉で思い出した。

 そうだ、酒屋だ。昼間見たあのジョッキ看板。

 あそこは集合住宅のような造りをしていた。恐らくあの沢山あった部屋の内の一つに彼女は住んでいるのだろう。景はそんなつもりはなかったが少しだけ、ほんの少しだけがっかりした。


「騎士さんも来る?ケイのお守りで」


 その言い方は大変屈辱的だが、見張りをつけろと言ったのは景なので黙っておく。巻き込まれた彼は「え?」と意表をつかれたように声を漏らした。だが景を見て、こいつを他の騎士に任せるのはあまりに危険と感じたのか、「背に腹は代えられないか」と半ば諦めたように肩を落とした。


「わかった。同行しよう。ただしオレの前で勝手な行動はするな。違法行為をはたらけば、オレはミックス並びにその店主諸共をしょっぴくぞ」

「はーい。了解しましたよ騎士様」

「ケイ・クロカワ。お前も同様だ。その力でお前の意思のもと呪文を唱え、人に危害を加えたならば…オレはお前の首を叩き切る」

「俺だけ罰が重くないですか?俺もしょっぴく程度に留めてくれることはできませんか?」

「くどい。お前自らが言ったように、その力は無自覚に街を吹き飛ばすほどの力だ。それがどれほど他人にとって危険なものか。…よく覚えておけよ」


 彼は末尾の声色を低くすると、冷酷な眼差しで景を見た。

 それが忠告のように聞こえて、俺は全力で首を縦に振る。

 彼の手が腰の剣に掛かっているのを見て、景は冷や汗を流した。


「わかったよ。ツリ目の騎士さん…。えーっと…」

「オリヴァー・ケル・シュトラウス。まあ、呼び方は何でもいいが」


 目つきが悪いことを気にしているのか、彼は景から少しだけ目を逸らす。


「じゃ!オリヴァー・ウケる・シュトラウスで!」

「それ以外で頼む…」


 だがさすがにそれは嫌だったようで、ツリ目の騎士、オリヴァーはミックスの翻弄されるようにため息をついた。

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