静かなる朝よ
作者、遅筆により今回は前後編です。前編7話今日から更新。後編は9月16日に更新予定。
朝。枝葉から差し込む陽光が彼女を照らした。
「今日は何を教えようかのう」
メリザンドは悠々と箒を掃く。廃れた建物。そこには屋根も、床もない。だが広々としたその空間は、子どもたちが駆けまわるには最適だった。むき出しの地面に伸びた雑草が風にそよいでいる。そこが彼女の生み出した学び舎だ。
「調理魔法?いやでもそれには食材調達が必要じゃし、今からでは間に合わんか。ならば体を動かす泥遊びでもするか!…。いや、それだとケイがキツそうじゃな。あやつは体力が無いからのう…」
メリザンドはとある生徒に頭を悩ませる。大人の身でありながら、四~六歳児たちと無邪気に戯れ、共に学ぶ姿勢は見ていてとても気持ちがいい。そして体力がなく、とある特異体質を持つ非常に厄介な生徒。
「ふふふっ、奴には何を教えようかのう?」
メリザンド頬に自然と笑みがこぼれる。
「違う世界から来た故、奴は常識を知らん。…そうじゃ!今回は歴史の授業をしよう!」
ここ、メリザンド青空魔法学校に通う異世界人、黒川景によって本日の授業内容が決定した。メリザンドは意気揚々と箒を振るう。彼がここに来るようになって早一週間。メリザンドは子どもたちだけでなく、二十歳である景も楽しめる授業を考える。
「歴史と言うとやはり此処、ルーデンシオ王国の歴史か?いやいやそんなことではつまらん。今の時代、子どもたちにはこの国だけでなく、もっと外の世界にも目を向けてもらわねば…」
歳を取ると独り言が多くなる。見た目だけは年若いが、中身はもう老婆である。魔法で外見を偽るのは苦ではない。それだけの魔力が彼女にはある。いつの間にか箒は自立し、手放せばまるで意志があるかのように動き出した。
「となるとアレか!?やはりこの世界の歴史についてか!?」
閃きとともにメリザンドの表情は明るくなる。
「そうじゃそうじゃそれがいい!ならば準備をせねばな。急がねばあのチビたちはすぐに来てしまって、大変じゃ、から…」
やれやれと肩をすくめたその時、無意識に手が首筋に触れた。メリザンドの顔が思い出したように強張る。先ほどの楽しかった気分は消え失せ、無だけが彼女を襲う。化粧で隠したその下には、一体何があったのかを。首を撫でたメリザンドは空虚に笑った。
「こんなワシが、世界の何を教えられるんじゃろうな…」
自立した箒は倒れ、土ぼこりが舞う。集められた木の葉は、残ったままだった。




