ドラゴン退治 後編
強制魔力注入魔法。
その言葉が聞こえた瞬間、オリヴァーの体に寒気が生じる。振り返るとそこには、崩れた城壁とともに落下する拡声器を持った景と、その背に背負われる構造色の髪を持つ少女が見えた。
考えうる最悪の組み合わせに、オリヴァーは目前の魔物に目がいかないほどの衝撃を受ける。
「あの野郎ッ!」
しかし気づいた頃には二人は闇の中に消え、オリヴァーの中に自然界の透明な魔素が強制的に流し込まれる。それこそ、体に留めておけぬほど膨大な量が。
「うぐッ」
爆発しそうなほど大量の魔素は、やがてオリヴァーの体を急速に蝕む。
「『反強制魔力注入魔法』、『反強制魔力注入魔法』ッ!ああクソなんでッ!」
このままでは戦場のど真ん中で周りの騎士たちまで巻き込む。そう直感したオリヴァーは反転魔法を唱える。だが出力最大で放たれた景の魔法は、オリヴァーの魔力では到底対抗できるものではなかった。
「クソッ!離れろお前ら!こいつは、ヤバい…ッ!」
制御不能となった魔力はいずれ暴発する。そう確信して、オリヴァーは味方に撤退を指示した。
するとその時、ダイヤモンドのようなオリヴァーの剣身が、柄から深い青さを帯び始める。それはさながら、非常に希少性の高いブルーダイヤモンドのようだった。青に染まり切った剣身は、周りだけでなく、オリヴァー自身をも驚かせる。
「マジかよ…」
暴走する魔力を抑えようとし、汗水たらしたオリヴァーの口の端が上がる。その顔は、変化による焦りと抑制、そして高揚感を抱いていた。
「試してみるか…」
オリヴァーは大きく息を吸い、乱れた呼吸を整える。そして覚悟を決めると、剣にめいっぱいの魔力を込めて唱えた。
『雷撃付与魔法』
その瞬間、ブルーダイヤモンドの剣身が稲妻を纏う。
自身の体に留めきれない魔力。ならばその力をオリヴァーの体を通し、そのまま魔法として放出することで、彼は注ぎ込まれる自然界の魔力を己のものとした。魔力供給が大きすぎるなら、それを上回る出力で魔法を放出すればいい。無限に湧き出る魔力を瞬時に魔法に変換する。迷い留まれば終わり。オリヴァーが考えたことは、危険と隣り合わせの未知への挑戦だった。
『加速魔法』
オリヴァーの体が目にも止まらぬ速さで跳ね上がる。自身でも到達したことのない速さ。オリヴァーは自身の知りえる限りの戦闘向き消費魔力量最大の呪文を唱える。その剣に触れた者は雷撃に麻痺し、硬質な青き剣に切られ、たちまち崩れ去る。
今までとは違う、自身の感覚の精密さにオリヴァーは驚いた。魔物たちを切る感覚が、ある種とても自然に思えてくる。その感覚が非常に心地よかった。
「離れろよお前ら。どうなっても知らねえぞ…!」
オリヴァーはさらに剣身に電気を付与する。そして味方にそう告げると、冷や汗を流しながら剣身を地面に突き刺した。
「『広範囲電撃魔法』ッ!」
その瞬間、地面はひび割れ、オリヴァーの同心円状に無差別に強力電流が走る。夜空の下を明るくするほど光が魔族たちを襲った。空気を裂くような乾いた轟音とともに魔物たちの悲鳴が聞こえる。
口角を上げたオリヴァーは、一人で地面の魔物、軍勢の半分を削り取ったのである。
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一番騎士、フレデリックは上空から二番騎士、オリヴァーの状況を見ていた。
野性的で、なりふり構っていられないというその戦い方は、とても秩序立てた堅実な彼の戦い方とは思えなかった。だがその魔力を制御し、放たれる一撃の冴えは、オリヴァー自身そのものを表した戦い方のようだった。
呆気にとられたフレデリックは、思わず空中で静止する。しかしそれがマズかった。フレデリックもまた、オリヴァーと同じく魔素に苦しみだす。
「嘘…ッ」
フレデリックの整然とした顔が初めてゆがんだ。自然界の透明な魔素がフレデリック一点に集まって来るのを感じる。心臓が、魔素を巡らせて早まった。
「うっ…!」
これを制御したオリヴァーは凄いと思いながら、四肢が破裂しそうな魔力を無限に取り込む。
背中のエネルギー体の白き翼は大きくなり、やがて形を成しえなくなるほど肥大化する。やがて宙に留まることさえ難しくなった。
このままでは危険。そう判断したフレデリックは、友を見習い、言葉を浮かべる。
今できる自身の最大を。フレデリックは覚悟を決めて唱えた。
『神聖魔法』
自らを清め、極限まで魔素を浄化する。
『燃ゆる聖火魔法』
自然界から受けた魔力を、自らの体を媒体とし、そのまま剣に注ぎ込む。まるで自然と一体になったようなその感覚は、意識を空気へと溶け込ませる。赤き剣の聖火は温度を上げ、色を変える。赤から青へ、青から白へ。目も眩むほどの白き炎はまさに白熱。その神聖なる輝きは日の光に等しい。
『日焼け止め魔法』
フレデリックは自身の陽光に弱い白の肌を守るべく、日常的な魔法を唱えた。そして剣を構えると、逸る心臓の音に笑みを浮かべた。
想像以上だ。やはりここに彼を連れてきて正解だった。
夜に陽光を顕現させるフレデリックはさらに唱える。
『神聖翼魔法』
それは形を成しえなくなったエネルギー体の翼を元の白鳥に似た姿へと戻し、そしてそのまま羽根を蓄え成長させた。速さを増した翼で、フレデリックは翅を持つ魔族を焼き払う。
その姿はまるで、神の裁きを代行する大天使。
フレデリックの心臓は、剣と同じく白い聖火のように燃え盛っていた。
天空を支配したように、フレデリックは剣を振るい、魔物を払いのける。翅の生えた魔物は、フレデリックによって全て無慈悲に地に落とされた。
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魔物が地に落とされた時、景もまた地に落ちていた。
城壁の下。クレーター状に割れた地面から離した腕が赤く腫れている。
「い、痛い…。超痛い…」
身体強化魔法と言っても、痛みまでは緩和できないようで、景はミックスを背負いながら激痛にもだえる。彼女は景の背にうまく丸まって、地面との衝突を回避していた。
「あっはっは、楽しかった!もう一回!」
「もう無理です。勘弁して」
涙目の景はミックスに頼み込む。彼女は「え~」と不満げな声を漏らした。しかしドラゴンの咆哮が、二人の顔を上げさせる。戦況はオリヴァーとフレデリックによって、大地と空の魔物が一掃されていた。残るは敵の親玉、ドラゴンのみ。
「はあああああ!」
雷撃に身を任せ、自らもいかづちのような速度でオリヴァーはドラゴンの足元を切り裂いた。だが、その一撃ではドラゴンは倒れない。足は瘴気を上げて再生し、オリヴァーの体をその爪で薙ぎ払った。
「がはッ」と背を打ち付けたオリヴァーは肺の詰まる音を上げる。上空のフレデリックは呼吸の乱れた彼に代わり、ドラゴンに聖なる炎を浴びせた。だがそれも翼を焼いたにすぎず、また再生される。まるで鼬ごっこ。ドラゴンのビームを避けたフレデリックはどうしたものかと眉をひそめる。
魔物の森のヌシ。その脅威はあまりにも大きかった。
景は戦場の様子に驚愕する。あれだけいた軍勢を、オリヴァーとフレデリックのたった二人が倒したことに。そしてその二人が倒せないほど強大なドラゴンに。冷や汗をかいた景は、視線をすぐさまミックスに向けた。彼女は「わー綺麗」と二人のパワーアップ形態に感動していた。
今はそんな場合じゃない、と景はミックスの肩を叩く。そして二人に目を奪われていた彼女の視線を戻させると、景は戦況を見てミックスに視線を合わせた。
「ねえミクス、なんかヤバそうじゃない?」
「え、そう?」
ミックスは上手に首を傾げる。だが景から見えた戦況は、芳しくないものであった。オリヴァーとフレデリック以外の聖騎士たちが戦いから離脱している。近づけないのか?それなのに二人だけではドラゴンに苦戦を強いられている。このままでは悪循環だ。
不安気な心音を響かせる景に、ミックスは景の背に耳をつけ考えていた。
「うーん、じゃあこうしよっか」
ミックスは思いついたように景の手から拡声器を奪う。それで何をするかと思えば、ミックスは高らかにこう叫び出した。
『ええー、ドラゴンドラゴンコノヤロー。貴様の相手はこのケイ・クロカワ様が引き受けた。どっからでもかかってこいやー!』
「ミクスがそれ使うの!?」と景はぎょっとする。しかし全く効果がなかったのか、気の抜けた演説にドラゴンはこちらを見向きもしない。ただ恐ろしげな咆哮を上げ、オリヴァーたちと戦闘を繰り広げていた。二人すらこちらに顔もむけない。杞憂で終わったことに景は安堵した。
「ん~?聞こえてないのかなあ~。ケイ、唱えて。“ククイトム”」
ミックスは首を傾げて景を急かす。あまりに自然体で言われたその一言に、景は安心感に包まれたままその言葉を放った。
『視線奪取魔法』
拡声器を通していないその声に、待機していた聖騎士たち、果てはミックスまでもが景に一斉に振り返る。それは戦闘中のオリヴァー、フレデリック。そしてドラゴンもの視線を強制的に奪った。
「ア、レ…?」
油断していたのが悪かった。先程までの安堵感が一気に消える。景は戦場にいる全ての生物の視線を集めた。震えた景の後ろで、ミックスは「準備は整った」と高らかに宣言する。
『あっ、あー。邪悪なドラゴンめ。貴様の相手はこの私、ケイ・クロカワ様が引き受けた。かかってこいや雑魚めがー!…てこの人が言ってました。はいこれ返すね、ケイ』
「え?」
演説を終えると、彼女は景に罪を擦り付けるように拡声器を景の手に握らせた。「煽るだけ煽って最後はこれかっ!?」と景は背中の彼女に文句を言ってやりたくなった。だがその直後、景のこめかみをレーザーが掠める。
オリヴァーがドラゴンの首に切り込みを入れていなければ、景に直撃していた。危うく存在自体が消えそうになった景は、喉の奥で声にならない悲鳴を上げる。
しかしその時、ミックスは静かにドラゴンの攻撃を見ていた。まるで観察するような落ち着いた目。ミックスは静観していたのをやめると、何か秘策があるようにつぶやいた。
「ケイ、今の光線魔法だよ。魔物だから無詠唱の。覚えてる?“ラウタス”。ケイがミクスと最初に出会った時の」
「え!?アレと同じなの!?」
景は彼女と出会った時を思い出す。今回の事件の発端。景が悪気なく王都を焼き払った最初の魔法。だが待てよ、その呪文さえわかってしまった今なら…。
景の中で視界が開けたように感じる。
大地にオリヴァー、上空にはフレデリック。その先には骨を剥きだしたドラゴンが、また牙を向き、レーザーを放とうとしてくる。
元の呪文がラウタス。ならその逆を唱えれば。
景はミックスの言わんとしていることを理解したようにこうつぶやいた。
『反光線魔法』
右手に拡声器、左手の指先はまっすぐレーザーに伸びる。その瞬間、放たれた光線はドラゴンの口に押し戻った。打ち返された魔法に、ドラゴンの頭が半壊する。「やったか?!」とオリヴァー、フレデリック、そして景も焦げた煙の向こうを凝視した。しかしドラゴンはそれでもすぐに再生し、頭をこちら側へ向ける。
「自分の攻撃でもダメージなしか…」
オリヴァーは呪文を唱え続ける中悪態をつく。空からのフレデリックも焦ったようにギッと歯を食いしばった。
「あの再生能力、どうしたものか」
戦力は申し分ない。一番騎士、二番騎士の覚醒。さらに景の攻撃、反転自在の詠唱魔法。正直、力の差だけで言えばこちらの方が上。だが戦いを困難にしているのはドラゴンの再生能力だった。
ミックスはドヤ顔で反転魔法を唱えたのに効果が無くて恥ずかしさで悶え苦しむ景の背で、考えるように腕を組む。
「再生、か…」
「え、な、なに?」
耳元でボソッとつぶやいたミックスに景は顔だけ振り返る。すると彼女は器用に足だけで胴体にしがみついていた体を、全て景の背に預けた。景の心臓が跳ねたことも知らず、彼女は景に耳打ちした。
「いい?ミクスが合図したらこう言うんだよケイ。“フワリトラリカ”って」
「長いね。いいよ。人に危害を加えない感じのなら何でも…」
「おっけ、ケイ。また拡声器貸して。合図を出しまーす」
景は再びミックスへ拡声器を渡す。そして彼女は戦場に響くよう、声高らかに叫んだ。
『皆さ~ん!避難勧告、避難勧告。これよりケイが“フワリトラリカ”を唱えまーす!』
その呪文に、先の視線奪取魔法など使っていないのに皆が振り返った。そして前線にいたオリヴァーとフレデリックの二人の聖騎士は、ドラゴンをすっぽかして一目散に逃げる。その表情は自分の命の危機を感じたかのように青ざめていた。
…大丈夫か?
彼らの表情と、己の行く末を案じ、景の心臓が縮む。しかしミックスはノリノリで景の肩を揺らした。
「何してるのケイ?合図出したから早く早くー」
「あ、あれ合図なの!?どう聞いてもみんな逃げろとしか聞こえなかったんだけど!」
「だって超危険魔法なんだもん!氷系魔法最強クラス!」
「え゛っ!?」
無邪気に言い放つ彼女に景は喉を潰したような声を出す。しかしその時にはもうドラゴンは視界に景たちをロックオンしていた。
地に伏した魔物たちを踏みつぶし、その巨体は景へとまっすぐ突進してくる。
景はその光景に覚悟を決めた。
「信じるよ。ミクス」
拡声器を構え、指先に焦点を合わせる。敵は強大だ。だが今の視界にオリヴァーたちの姿は無い。できれば、誰も巻き込まずに。
景はそう祈りながら、唇に言葉を乗せた。
『瞬間凍結乾燥魔法』
それは氷系最強クラスの魔法。景の指先の線上にいたドラゴンはたちまち凍てつき、やがてその足元までもが冷気にさらされ凍り付いた。一瞬で冷気が流れ込んだドラゴンは、その身を乾燥させ、再生することもできぬまま、地に伏せることなく息を止めた。足元の魔物の残骸でさえ形を保ったまま眠りにつく。
あまりの出来事に尻もちをついた景は呆気にとられる。それは身を引いた二番騎士、一番騎士も同じだった。まるで彫刻のよう。景の知る世界でのフリーズドライ。細胞を壊さぬように凍ったその姿は、また水をかければ動き出してしまうのではないかと思うほどだった。
「あ、そうだ。『反強制魔力注入魔法』!」
思い出したかのように、景は二人の状態を元に戻す。景はきちんと反転魔法を覚えていたのだ。姿と剣が元に戻った二人は息を吐き、目の前で起こったことが信じられないように目を見開いていた。他の聖騎士たちも、あの巨体をたった一人で沈めた景に絶句している。
「終わっ…た?」
静まり返った戦場に、景は聖騎士たちに顔を向ける。彼らは景を恐れたように身を引いた。
え、ええ…。
景は勇気を振り絞って無下に扱われたことを悲しく思う。だが、景のもとに来たオリヴァーとフレデリックは少しばかり微笑んでいた。
「ああ、終わったよ」
オリヴァーはその場にへたり込んで、剣を投げ捨てる。そして「死ぬかと思った…」と気が抜けたようにつぶやいた。フレデリックは景の肩を叩き、困ったように、それでも満足そうに笑った。
「すごいね。想像以上だよ。…けどあれは今度からやめてね。私たちの命が持たないから」
遠回しにオリヴァーと同じことを言っているフレデリックは、焦燥したように息を吐く。景はなんだか申し訳ない気持ちになった。「ごめんなさい…」と素直に謝る。けれどフレデリックは「いいよいいよ」と疲れた顔で笑って見せた。
彼は景の隣に座り、片足を投げ出す。汗だくで、清廉な騎士を取り繕う余裕もないようだった。申し訳なさが景の中で加速する。彼らを介抱しようとした時、ミックスは景の背からおりると、腕をガシッとつかんだ。そしてミックスはどこからか取り出したナイフを景に持たせた。
「え?」と景は声を漏らす。しかしミックスはくるっと背を向けて、一目散にドラゴンの下へと走り出した。
「ちょ!待ってミクス!?」
「ケイも手伝って!さあ収穫の時間だよ!」
「収穫!?なにそれ!?」
困惑顔の景に彼女はニタリと笑う。嫌な予感が景の脳裏をよぎったが、ミックスから放たれた言葉は、想像以上に現実的なものだった。
「細かく切った魔物の肉。火の通った魔物の肉。いえ~い!二か月分の食料はある!これは高く売れるぞ~!」
彼女は魔物の残骸を、手の中いっぱいにかっぱらおうとする。まるで火事場泥棒。景はその逞しさに少々呆れた。オリヴァーが「やめろ!それは国で処理するものだ!」と疲労困憊の体を起こし、ミックスを止めに入る。「彼女どうやって檻から出てきたの?」とフレデリックは彼女を指さし、唖然としていた。「まあ、そりゃそうなるよね」と景は彼の指先を辿り、ミックスに目を移す。
けれど彼女は火事場泥棒を止めていなかった。
ハイエナ根性が染みついている彼女は、肉を細切れにし、オリヴァーから逃げ回っている。その肉は水分が抜けて軽く、そしてフリーズドライの技術を用いているので、栄養価が高い。
ん?待てよ、それだと…。
景は自分が彼女の食料集めに利用されていたことにようやく気付く。先見の明だけじゃない。彼女は賢明にして狡猾。景は今、改めて彼女の恐ろしさに身震いした。だが、そんな彼女に助けられたこともまた事実。景は複雑な心境で遠い目をする。
「ケイ~、何してるのー!早く手伝ってー!ウケる君に追いつかれるー!」
「だから肉をおろっせって言ってんだてめえ!何度も何度も脱獄してきやがって!今日と言う今日は…!」
脱獄常習犯らしい彼女に、景の笑顔は引きつった。フレデリックは「うわぁ~」と同情の声を上げている。景はそんな彼に肩をビクつかせながら向き直った。
「あ、あの~俺、生きること認めてもらえますかね…?」
「さあどうだろう。最終的に決めるのは議会だからね。けれどこれで君を許す口実は出来たんじゃない?どう考えても君を敵にする方が愚行だろうし。受け入れるよう私たちも説得するさ。安心して」
そう言って、フレデリックは眠るように倒れ込んだ。もう話す元気すらないのだろう。彼の横で、景はホッと安堵した。なんとか首の皮一枚つながった景は、元気に走り回るミックスとオリヴァーに、自分の元気が吸い取られたかのようにフレデリックの横に倒れ込んだ。
「あっケイ!手伝ってよ~!」
「ダメだ。コイツまで投獄させる気か?もう勘弁してくれ…」
一人だけ体力満タンのミックスに、オリヴァーも追いつけなくなったのか、息切れしてしゃがみこむ。やがて彼もまたフレデリックや景と同じように、その場に仰向けになった。
宵の深まる空の下には、倒れた三人のため息と、ミックスの無邪気な笑い声が響いていた。




