従魔同士でご挨拶?
って、お嬢様!
ちょ!
籠が斜めになってる!
わわわ!
転がりそう!
わわわ!
わわわ!
すると、誰かが駆けてくる音が聞こえてくる。
そして、男の子の声が聞こえてきた。
「クリスタリ侯爵令嬢、大変失礼とは存じます。
ただ何卒、竜殿を運ぶ栄誉を頂けませんでしょうか?」
そんな真摯な言葉に、お嬢様の困った声が聞こえてくる。
「いえ、有り難いお言葉ですが……。
そのようなことをレノン伯爵令息にお願いするわけには……」
すると、少し困った感じに男の子が言う。
「いや、その、誉れだということもありますが……。
竜殿が少々、可哀想と言いますか……」
「あ、キュー!?
大丈夫!?」
お嬢様、やっと気づいてくれたか……。
わたしが籠でひっくり返っていることに……。
アネットさんと別れた後、わたし達は校舎に入る。
う~ん、やっぱりというか前世で通っただろう、うっすらと残る小学校、中学校の校舎とは全然違う。
大人しめにだけど色づけされた壁や柱の縁にある回り縁には、細かくだけど彫り物がされている。
模様が描かれている石造りの床は、磨き上げられている様で、窓から入ってくる陽光で輝いていた。
王様んちの王宮ほどでは無いにしても、洗練された建物だ。
わたしは興味深く見てたけど、お嬢様達にとっては慣れたものなのか、わたしの籠を抱えている男の子――ピエール君が凜々しい顔を優しくさせながら言う。
「この籠はやはり、ご令嬢には大きいですし、重いと思います。
キュートリック殿も大人しいことですし、例えば、手提げ籠ぐらいのものをご用意されたらいかがでしょう」
そんな騎士的イケメン君に、お嬢様は苦笑いを浮かべながら「はい、そのように検討したいと思います」と頷いた。
お嬢様の後ろには、クロエさん達がニマニマした顔で続いている。
まあ、確かにお嬢様は言うまでもないけど、ピエール君も、馬鹿王子に振り回されている時はあれだけど、それ以外の時は心優しく、それでいてスマートで格好いい、素敵な騎士様だもんね!
2人が並んで歩いていると本当に、ロマンス小説の1シーンみたいだ!
すれ違う女子生徒達も同じ事を考えているのか、顔を赤らめながらチラチラ見ている。
しばらく行くと、ピエール君が視線を上に向けた。
扉の上には何かが書かれた札が貼られていて、ピエール君はニッコリ微笑む。
「こちらの様ですね」
「はい、ありがとうございます」
お嬢様が扉を開けると、ピエール君はわたしを抱えたまま中に入った。
すると、教室の中が少しざわりとした。
ピエール君が中に入ったからかと思ったけど、どちらかというとわたしに注目しているようだった。
女の子達の中には「可愛い!」とか言っている子がいる。
ふっふっふ、ここでもわたしは人気者だ!
籠の中でドヤってしていると、隣に来たクロエさんがニコニコしながら言う。
「キュートリック様は注目の的ですわね!
ふふふ、まあ、愛らしいですから当然ではありますが。
ほんと、カトリーヌ様が羨ましいですわ!」
そうでしょう!
そうでしょう!
わたしは可愛くて、愛らしいのだ!
そんな風に胸を張っていると、お嬢様が籠を覗きながら苦笑する。
「言うほど、羨ましがられる事でも無いわよ。
苦労も絶えないし」
なんて事を言うの!?
わたしが酷い言葉にショックを受けているのに、ピエール君が「ははは!」と笑いながら言う。
「何かを世話をするのなんて、多かれ少なかれ苦労するものですよ、クリスタリ侯爵令嬢!
僕も鷹を飼っていますが、2年も世話をしてるのに、機嫌が悪いと未だに手を噛まれます」
「まあ!」
ピエール君は微笑みながら頷き、わたしに視線を向ける。
「その点、キュートリック殿はむやみに人を攻撃もしない。
なにより、賢いみたいですし、僕から見たら羨ましく思えますけどね」
ピエール君は笑いながら「まあ、うちのは余り賢くない行動をする時も、可愛かったりするんですけどね」とか言っている。
そうだよねぇ~!
わたしは賢くて可愛い、お嬢様の最高とも言える愛玩ドラゴンなのだよ!
ピエール君はなかなか分かっている!
なのに、最高のペットを手にしているはずのお嬢様は、苦い顔をしながら「妙に知恵が回るところが頭の痛い要因ではあるのですが……」とか言っている。
何故に!?
ピエール君が自分が受ける授業の教室に向かうと、代わってクラスの女の子達が側に近づいてきた。
そして、お嬢様に「可愛らしいですわね!」とか「何を召し上がるのですか?」とか、興味津々の様子で質問をしている。
お嬢様が笑顔でそれに答えていると、隣の席にいるクロエさんがニコニコしながら言う。
「カトリーヌ様!
もし良ければ、キュートリック様にわたしの子を紹介したいのですが、宜しいでしょうか?」
「え?
ええ、構わないけど」
お嬢様が答えると、何やらウキウキした感じのクロエさんが、梟の籠をわたしの方に寄せる。
後ろの席のキーラさんやペサニーさんも「わたしの子犬も紹介したいです!」とか「あ、あの、うちの子猫も……」とか言いつつ籠を持ち上げる。
う、う~ん?
いや、わたし、前世を合わせても動物との交流は余りしてこなかったからなぁ~
ちょっと怖いんだけど……。
そんなことを考えていると、クロエさんが籠から梟を取り出した。
お嬢様が「え!? 出して大丈夫なの!?」と声を上げたけど、クロエさんは笑いながら「うちのグレイはまだ飛べないので大丈夫です。それに女の子で、しかも大人しい子ですし」とか言っている。
そして、わたしの鳥かごの入り口を開けると、グレイちゃん? を中に入れた。
「ほら、グレイ!
キュートリック様よ!
ご挨拶なさい!」
灰色の梟はこちらを、つぶらな目でじっと見つめてくる。
ふむ、この子、小っちゃいし可愛い。
生まれて数ヶ月ぐらいかな?
どう考えても、わたしより年下だろう。
そもそも、わたしは多分、前世は中学生だったはず。
であれば、お姉さんとしてこちらから挨拶をしてあげようかな?
わたしは右手を挙げて〝やあ!〟って感じに「がっ!」と鳴いた。
すると、わたし達を見守っている女の子達が「キャ~!」と歓声を上げる。
クロエさんが感嘆するように言う。
「キュートリック様のご挨拶、可愛らしいですわぁ~
本当に可愛らしいですわぁ~」
すると、首をくいっと曲げて、クロエさんを見上げていたグレイちゃんがこちらを向く。
そのまん丸な目が剣呑に光った気がした。
グレイちゃんが爪を立て、飛びかかってきた!?
ぎゃぁぁぁ!




