とあるキラキラさんの独白2
わたしは、あなた以外にも、これまで、それなりの数の友人を作ってきた。
その中には、かけがえのない、代わりなど見つからない――そんな存在だと迷いなく言える子も確かにいた。
だけど、不思議なことがある。
そんなかけがえのない友人達だけど、どのように仲が良くなったのか? それを思い出せる子はいない。
それどころか、初めて話したのはどういう場面だったのか? なども分からない子もいる。
いつの間にか、仲良くなり、いつの間にか代わりのない存在になっていた。
だけど、あなたは違う。
あなたに初めて出会った時のことと……。
あなたに初めて話しかけたこと……。
それらを今でも、鮮明に思い出せる。
初めて、あなたに出会ったのは中学2年生に進級した時だ。
同じクラスになった子達と、少し興奮気味にお喋りをしながら教室に入り、視線を奥に向けると――一番前の窓際の席で、あなたは1人、古びた文庫本を読んでいたわ。
小柄で羨ましいほどほっそりとした体の、その背筋をピンと伸ばしていた。
色白の整った顔に黒髪を三つ編みにして後ろに流したその姿は、セーラー服姿も相まって、古風な文学少女という雰囲気がした。
騒がしい教室の中で、長いまつげを下ろし、手元の本に視線を落とす姿は、その一角だけ、どこか別の物語のシーンのようだった。
わたしの視線から察したのか、隣にいた友達が言ったの。
「あの子、わたしと同じクラスだった※※さんよ。
1年の3学期に転校してきたの」
「転校生なんだ。
仲は良いの?」
とわたしが訊ねると、友達は少し苦笑した。
「仲が良い――とは言えないかな?
けして悪い訳じゃないけど。
あの子、話しかけるとちゃんと返してくれるんだけど……。
なんというかな、少し、困った顔をするの。
余り、皆とワイワイするのは得意じゃないみたい」
「ふ~ん」
そんな風に答えながらも、あなたの姿をじっと見つめていたわ。
教室のあなたは、いつも、古びた文庫本を読んでいた。
何度か、話しかけようと思った。
体育の授業のチーム分けだったり、野外学習のグループ分けだったり、そんな時も。
だけど、なかなか勇気が出ず、仲の良い子達の誘いを断ることも出来ず、ずるずると時が過ぎていった。
わたし自身も、色々あり、学校を休むことも増えてきた事もあった。
きっと、わたし達はそういう巡り合わせなんだと、半ば諦めていた――。
――
「キュー!
ちょっと、そこに座りなさい!」
お嬢様のお部屋で、白のネグリジェの上に青のカーディガンを肩にかけたお嬢様が、厳しい顔でソファの上を指さす。
わたしはいつものように、ソファに腰をかけるお嬢様の――その膝に上ろうとしていたんだけど……。
お嬢様に「そこ!」ってキツい顔をされてしまった。
えぇ~
可愛らしい愛玩系ドラゴンの顔で、愛らしく見上げるも、「変な顔をしてないで! ほら!」と言われてしまう。
えぇ~!
最近、学院のご令嬢様方に可愛らしいと評判のキュートリックさんなんだけどぉ~!
とはいえ、グズグズしてると、更に怒られそうなので、お嬢様が指さす辺りまでちょこちょこ移動すると、ちょこんと座った。
そんなわたしを、お嬢様は腕組みをしながら見下ろしてくる。
そして、重々しい口調で言った。
「キュー、明日は従魔扱い初級の授業を受けることになるわ。
なので、あなたも校舎に入ることになるの」
「がっ!?」
え!?
半ば諦めていたんだけど、お嬢様、従魔のクラスを受講してくれるの!?
わぁ~!
嬉しいなぁ~!
両手(前脚)を上げて「がっ♪ がっ♪」と喜んでいると、お嬢様はため息をつく。
「はっきり言って、言葉が通じているだろう、あなたに必要なのかは、甚だ疑問ではあるけど……。
従魔を連れてきておいて、どの授業も受けないってのは、ね」
まあ、確かにその通りか!
いや、なんにしても、お嬢様と一緒に授業が受けられるのだ!
こんなに嬉しいことはない!
喜んでいるわたしに、お嬢様は再度、厳しい顔をする。
「なんにしても、大人しくしているのよ!
良いと言う時以外は籠にいる事、殿下などを馬鹿にするように鳴かない事!
その他、わたくしの言うことを、ちゃんと聞く!
分かったわね!」
勿論、わたしは良い子のドラゴンだもんね!
「がっ! がっ!」と元気よく答えたのに、何故か、お嬢様は苦い顔で「本当に分かってるのかしら?」とか言っている。
何故!?
すると、アネットさんが苦笑しながら言う。
「まあ、大丈夫だと思いますよ、お嬢様。
何かやらかしたら、学院を追放されることぐらい、理解していると思いますし」
メイドさんの言葉に、お嬢様も頷く。
「まあ、そうね。
大丈夫よね」
そんなことを言いながら、お嬢様はわたしを抱き上げハグしてくれる。
柔らかくて、温かで、ふわりと良い匂いがする。
ふふふ、やっぱりお嬢様のハグが一番だ!
――
「大丈夫ですか、お嬢様?
特に禁止されていないようですし、わたしが中までお持ちしましょうか?」
「だ、大丈夫よ、これぐらい!」
校舎の前で、お嬢様はアネットさんからわたしの入った籠を受け取っている。
所々、木が使われているとはいえ金属の部分も多く、それなりに大きい籠、しかもわたしまで入っている。
お嬢様だけだと、少々大変そうだ。
キーラさんが「わたしもお手伝いします!」と元気よく言うけど、お嬢様は首を横に振った。
「大丈夫よ、これぐらい!」
とか言っている。
因みに、従魔の授業にはお嬢様のお友達の3人も受けるのだという。
クロエさんはまだ生まれて半年という灰色の梟でペサニーさんは黒毛の子猫、キーラさんは白毛に黒い毛が混ざった子犬だ。
何でも、わたしが学院に来た時にすぐに対応できるよう、王都の自宅に待機させていたのだとか。
クロエさんが「キュートリック様との授業なんて、逃す訳には行きません!」とギラギラした目で言い、ペサニーさん、キーラさんも良い笑顔で大きく頷いていた。
そんな友人達に、お嬢様は「そう……」と言いつつ遠い目をしていた。
いや、そんなことは今は良いか。
3人の従魔さん達は、どれもまだ子供なので、小さな鳥かごやバスケットサイズの籠に入れて運ぶことは出来る。
ただ、わたしの場合は、先王様が気を使ってちょっと大きめにと注文してくれたこともあり、一般的なご令嬢と同じく、重いものなど持ったことのないお嬢様は苦戦しているって訳だ。
クロエさんが心配そうに眉を寄せながら「キュートリック様なら、籠などいらないと思うんですが……」と言う。
その通りなんだけど、学院では〝例外〟を除き、従魔は籠に入れるものと決まっているのだ。
とはいえ、お嬢様の家格や一応、騎士爵なわたしということを考えると、例外に入りそうなんだけど……。
当然のように、そのような事を望まないお嬢様は、自ら、籠を運ぶことを選んでいる。




