王女様の現状!
少し呆れていると、アレッシアさんがお嬢様に何かを囁いている声が聞こえてきた。
「カトリーヌ様、裏で怪しい動きをしている者がいます。
どうも、マクロー伯爵家の関係者のようです。
お気を付け下さい」
お嬢様は少し目を見開き「はい、ありがとうございます。肝に銘じます」と頷いた。
お嬢様は部屋に戻ると、メイドのアネットさんにわたしを渡し、クロエさん達と夕食を取るために、食堂に向かっていった。
夕食は基本的に王族や大貴族も一般生徒も、食堂で取るのだとか。
広く交流を持つためにらしいけど、どうせ、身分で区分けがされているんだろうなぁ~とは思う。
因みにわたしは、アネットさんと一緒に、世話係用の食堂でご飯を取ることになっている。
食堂には従魔を入れることが出来ないらしい。
まあ、不満がないかと言えば、否ではあるけど……。
ごねると、お嬢様に「なら、屋敷に帰りなさい!」って言われかねないので、我慢することにした。
何かあった時に、直ぐに駆け寄れる場所にいる。
それが大切だからね。
アネットさんに抱っこされながら、女子寮から少し離れた建物に入る。
お嬢様達がいる寮や校舎に比べると、幾分、質素な建物に学院側や生徒の世話係用の寮プラス食堂が入っていた。
アネットさんは既に、幾人かと挨拶をしていたのか、すれ違う同伴してるメイドさんや使用人さん達と会釈する。
その全てが、アネットさんの胸――で抱かれている、わたしに視線が向く。
ただ、わたしについて何かを言う人はいない。
やっぱり、大貴族の竜ってことで、どう接したら良いのか分からないのかもしれない。
う~ん、そんな風に注目されると、凄く落ち着かない。
大っきい胸の中でモゾモゾしていると、アネットさんが背中を撫でながら「大丈夫よ」と励ましてくれる。
まあ、大丈夫だとは思うけど、落ち着かないの!
しばらくすると、長テーブルが沢山並べられた場所に着く。
満員と言うほどでないけど、そこそこの人が席に着き、食事をしていた。
左奥には厨房が見え、食堂と仕切るようにカウンターがある。
食事する人はそこで配膳を受け取るらしく、使用人の格好をした人達が並びながらお喋りをしている。
アネットさんは手前の奥まで進むと、そのテーブルの上に置いてあるクッションにわたしを置いた。
ん?
このクッションはここしかないから、ひょっとすると、わたし用に用意された物なのかもしれない。
そんなことを考えていると、アネットさんが「ここで大人しくしてるのよ」と言いつつ、配膳を受け取る場所に歩いて行く。
それを見送りつつ、なんだか落ち着かないなぁ~
なんて思っていると、ニコニコ顔の金髪のお姉さんが近寄ってきた。
メイド服――というより、御仕着せって感じの地味な服を着ている。
そんなお姉さんが、わたしに視線を合わせるように腰を折る。
「さきほどは、シーツを取ってくれてありがとうございました!
凄く助かっちゃった!」
あ、さっき、木に引っかかってたシーツを取って上げた時のお姉さんか。
わたしが〝気にしないで!〟というように「がっ! がっ!」と答えていると「ちょ、ちょっと止めなさい!」とか言いながら、同じ服を着たお姉さん達が、金髪のお姉さんを捕まえ、引きずっていく。
あ~
迂闊に侯爵家の竜に話しかけてはいけないって事かな?
わたしは気にしないんだけどなぁ~
なんて思っていると、アネットさんがワゴンを押しながら、帰ってくる。
そして、先ほどのお姉さん達の方を見ながら不思議そうにする。
「キュートリック、あの子達と何かあったの?」
う~ん、伝えようにも話が出来ない現状、面倒くさいかな?
わたしは〝気にしないで!〟という様に「がっ! がっ!」と答えておいた。
手早くご飯を食べ終えた後、お嬢様の部屋に戻ると、わたしはソファの上にごろんと転がる。
お嬢様はまだ戻っていないようだ。
ふむ。
ドラゴンアイズを意識してみる。
視界が変わり、女子寮の屋根が見える。
どれどれ、とその隣にある食堂の、大きな窓から中を覗いてみる。
ん?
食堂の4人掛けのテーブルで、お嬢様とアントワーヌ君が何やら話をしている。
二人っきりというわけでなく、その隣のテーブルには、クロエさんを含む3人のお友達が座っていた。
何を話しているんだろう?
ドラゴンイヤーに意識を集中させる。
「――手紙を読む限り元気でやってるみたいだよ。
ふふふ、国民からは〝朝日の姫〟と呼ばれて恥ずかしいって書いてあった。
多分、出身国の位置とイザベルお姉様の笑顔からそう言われていると思うけど」
アントワーヌ君が柔らかく微笑みながら言うと、お嬢様も「まあ!」と嬉しそうに頬を緩ませた。
「流石はイザベル様ですね」
「うん、流石はイザベルお姉様だ。
それに、国も大分落ち着いてきているみたいだし、凄く安心した。
……王太子とも、良好みたいだしね」
アントワーヌ君は一瞬、寂しそうに俯いたけど、ニッコリしながらお嬢様を見る。
「クリスタリ侯爵令嬢やキュートリック君にもまた会いたいって書いてあったよ」
お嬢様が嬉しそうにする。
「わたくしも、お会いしたいですわ。
キュートリックも、ずいぶん懐いていましたし」
うん、わたしもイザベル王女様に会いたいよ!
それ以上に、幸せになって欲しい!
あの優しい王女様には……。
そんなことをしんみり考えていると、薄赤い髪を揺らしながら例のヒロインが歩いて来るのが見えた。
うわぁ~
お嬢様の隣の席にいるクロエさんが、露骨に警戒している顔になっている。
そりゃそうか。
ただ、そんなのにも気づかないのか、気にしないのか、薄赤い髪のヒロイン――マリエット・ベルは、お嬢様やアントワーヌ君が座っている席のところまで行くと、少し申し訳なさそうに眉を寄せた。
「あの~アントワーヌ様……。
殿下がお呼びです」
座ったままのアントワーヌ君が、ヒロインであるマリエット・ベルを見上げつつ「殿下が?」と訊ねると、薄赤い髪のアホっぽいヒロインが頷く。
アントワーヌ君は立ち上がると「クリスタリ侯爵令嬢、申し訳ない。またの機会に」と眉を寄せると、お嬢様も立ち上がり「いえ、お気になさらず」と答えた。
アントワーヌ君は同じく席を立ったクロエさん達にも、申し訳なさそうに会釈をした。
そして、ヒロインに声をかける。
「君もごめんね。
お使いみたいなことをさせて」
すると、ヒロインが嬉しそうに首を横に振った。
「いいえ、気にしないでください!
そもそも、殿下はアントワーヌ様に、わたしのお勉強のお手伝いをして欲しいって頼まれるみたいですし!
ふふふ!」
「はぁ?」とクロエさんが声を漏らした。
お嬢様も、ペサニーさん達も驚いた顔をしている。
そんなお嬢様に得意げな一瞥を送った後、アホヒロインは困惑するアントワーヌ君の背中を押しながら「さささ、殿下がお待ちです!」とかやっている。
クロエさんが「どういう神経してるの!? あの子は!」と吐き捨てるのを一瞥したお嬢様は、1つ、ため息をついた。




