子育ては大変?
警護のお姉さん達に惜しまれつつ、アネットさんに連れられ、寮の外に出る。
「学院の門からちゃんと出入りするのよ!
あと、寄り道はしないように!」
と一通り注意したアネットさんは、わたしを下手から上に放った。
わたしは「がっ! がっ!」と返事をしつつ、門へと続く道を飛んでいく。
侯爵邸に向かう前に、少しだけ、お嬢様の姿を見ていこうかな?
そんな風に思いながら、ドラゴンアイズに意識を向ける。
ん?
わたしの飛んでいる近くの木に、シーツが引っかかっているのが見えた。
その側には、地味な服を着た金髪の女の子が、困った顔でそれを見上げている。
ふむ、それなりに高い位置に引っかかっているので、あの女の子が取るのはちょっと無理だ。
わたしは少し上昇すると、そのシーツを後ろ足で掴んだ。
その女の子が目を丸くしてこちらを見るのと、後ろから「あっ!」って聞こえたのは同時だった。
え?
わたしが振り向くと、騎士っぽい服を着た男の人が、シーツの引っかかっていた木にしがみ付いているのが見えた。
え?
何やってるの、この人?
とか思いつつ、シーツを女の子に持っていくと、「きゃぁぁぁ! ありがとうございます!」と女の子が嬉しそうに声を上げた。
ふむ、女の子と言っても、前世、大学生ぐらいのお姉さんかな?
お嬢様達のような気品ある美人さんではないけど、庶民的ではあっても男の人に人気がありそうな綺麗で可愛らしい――あ!?
もしかして、あの男の人、このお姉さんに格好良い所を見せようと、木に登っていたのかな!?
ちらりと見ると、木にしがみ付いてる男の人に恨めしそうな目で見られた。
ご、ごめんなさい!
金髪のお姉さんからの「本当に助かりました!」というお礼の声に手(前脚)を振りつつ、そそくさと門に向かうのだった。
門の所に設置してくれていた止まり木に降りると、門衛所っていうんだっけ?
建物から、軍服を着たおじさん達が出てきた。
門番さんかな?
と思いスカーフを見せると「確かに」とおじさんが頷いてくれた。
これで、外に出ても良いのかな?
わたしが侯爵邸に向かって飛び立つと、門番さん達が笑顔で手を振ってくれた。
ふふふ、こういうのちょっと嬉しい。
わたしも手(前脚)を振りつつ、強く羽ばたき出発する。
馬車だとそれなりに時間がかかる侯爵邸だけど、わたしならひとっ飛びで到着できる。
侯爵邸の門に到着すると、顔なじみの衛兵さんに挨拶をして、中に入る。
すーっと飛んでいくと、窓から手を振るメイドさんの姿が見えた。
あの部屋は……。
ルーシーお嬢さまの部屋か。
そこまで飛んでいくと、メイドさんが窓を開けてくれたので中に入る。
……ガン泣きをするルーシーお嬢さまと、困り果てた顔の乳母さん、プリプリ怒っているママさんがいた。
「ちょっと、キュートリック!
遅いじゃない!」
えぇ~
知らないよぉ~
絨毯に降りると、やってきたママさんに首根っこを掴まれてしまった。
そして、ルーシーお嬢さまが横になっているベビーベッドまで連れて行かれると、押しつけるように中に置かれた。
だから、ママさん、やることが雑なんだって!
ただ、わたしに気づいたルーシーお嬢さまは「きゅ~! きゅ~!」と言いながら、わたしの白い毛を掴み、その胸に顔を押しつけた。
しばらくモゾモゾすると、スヤスヤと眠り始めた。
その様子に、皆、ホッとした顔になる。
っていうか、ルーシーお嬢さま、どんだけわたしが好きなの!?
まあ、ルーシーお嬢さまはわたしも、嫌いじゃない。
可愛いし、抱きつくとぽかぽか温かいし。
それに、なんだか甘い香りがするのだ。
そんなことを思いつつ、わたしの胸にある小っちゃい頭を撫でていると、ママさんがわたしの背中の毛を抓みながら「これで人形を作って上げれば……」とかぼそっと言っている。
乳母さんやメイドさんも何も言わずに、こっちを見てくる。
怖い!
皆、目が本気なところが凄く怖いから!
ルーシーお嬢さまが本格的に寝入り、わたしの毛から手を離したところで、わたしはママさんに抱え上げられた。
そして、リビングに連れて行かれる。
ソファに腰を下ろしたママさんの、その膝の上で毛を剃られて全身坊主状態にされるのではと、ヒヤヒヤしたんだけど……。
わたしが体を大きくした状態で、毛をいくらか切れば問題ないのではと言われた。
ま、まあ、そうだね。
それなら、多少は、ね。
っていうか、ママさん達、わたしの毛を見る目が真剣すぎて凄く怖い!
どんだけ、ルーシーお嬢さまに手こずってるの!?
そんな風に驚愕していると、リビングの扉が開けられた。
視線を向けると、執事のオントワンさんがティーセットを乗せたワゴンを押しながら入ってくる。
すると、その脇をすり抜けるようにエイサ坊ちゃまが中に入ってきた。
そして、わたしに向かって文句を言う。
「なんで、キュートリックだけが帰ってきたの!?
お姉さまだけが帰ってくれば良いのに!」
普段のわたしならムッとしたけど、今はわたしの方が坊ちゃまより一緒にいる身、広い心で受け止めて上げよう。
「がっ!」
「あ!
お母さま、今、キュートリックが僕を馬鹿にした!
絶対、馬鹿にしたよ!」
ケケケ!
ママさんが苦笑する。
「エイサ、行儀が悪いわよ!
座りなさい」
「むぅ~」
とエイサ坊ちゃまはママさんの膝に座るわたしを睨みつつ、その隣に座る。
その様子を微笑ましげに見ていたオントワンさんが、ティーカップを置いていく。
わたし用の物も当然、用意してくれている。
わたしが座るためのクッションに移動しようとすると、ママさんがわたしを持ち上げて、テーブルの上に置かれたそれに運んでくれた。
座り直したママさんが訊ねてくる。
「ところで、キュートリック。
カティは元気でやっている?」
わたしは「がっ!」と頷いた。
ママさんは続ける。
「何か必要な物があるとか、言ってなかったかしら?
まあ、忘れ物とかあの子に限って、そんなことはないと思うけど……。
……よく考えたら、何かあったら、あなたに手紙を持たせるって手もあったわね」
伝書鳩みたいにかな?
まあ、お嬢様のためなら吝かではないけど。
一応、以前侯爵領から王都まで移動した時に使用した、手紙を入れるために使った革製のリュックは学院に持って行っている。
今日は手紙がなかったから背負ってないけど、ママさんから手紙を渡される事を考えると、一応、毎回持っていった方が良いかな。
今みたいに必要な物を訊くのも、気楽に出来るし……。
あ!
花の種!
談話室に併設されている庭用の花の種を持っていったら、喜んで貰えるかも!
わたしが身振り手振りでそう言うと、ママさんは少々苦戦しつつも読み取ってくれる。
「ああ、花の種、ね。
歓談室に隣接している庭に必要と……。
そうね、今の季節だと、何が良いのかしら?」




