お役目のために一旦戻る
……とはいえだ。
Web小説なら大体、胸クソとザマーはセットな事が多い。
多いんだけど、これは現実だ。
優しい人、正しい人が必ず報われる訳ではない。
胸くそな人や悪党が、必ず不幸になる訳でもない。
どう転ぶか分からない、現実という物語だ。
そういえば、大公邸で――本来、乙女ゲーム〝女神様の気まぐれ〟の運命の人との出会いイベントっぽい出来事が、何人もの子息に対して起きたって話を聞いたんだった。
ゲームならともかく、似ているとはいえ、血の通った本当の人間に対して行おうとするとか、かなり狂っているとしか思えないけど……。
狙い通りに行く可能性だってある。
とはいえ、方針は変わらない。
お嬢様に危害を加えようとするのであれば、絶対に許さない。
逆に、それさえ無ければ、逆ハーだろうがなんだろうが、好きにして頂戴ってところだ。
馬鹿王子を収集してくれるのであれば、願ったり叶ったり、歓迎しても良い。
勿論、繰り返しになるけど、お嬢様に危害がない前提ではあるけどね。
そんなことを考えていると、ん? いつの間にか教壇まで移動していたお嬢様が、席に戻る様子が見えた。
その表情は、何やら苦笑している。
お嬢様の側に座るクロエさんやキーラさん達が口々に声を掛けている様子が見える。
でも、何故か何を言っているのか聞こえない。
あ!
いつの間にかドラゴンイヤーがオフになっていた。
意識すると、クロエさんがお嬢様に話をする声が聞こえてくる。
「――クリスタリ侯爵閣下と同じではありませんか?」
お嬢様はため息をつく。
「まあ、そうなんだけど……。
正直、そこがなんとも微妙なのよね」
ふふ!
よく分からないけど、パパさんったら、愛娘に嫌がられてる!
ざまぁ!
前世、高校の入学式だと、クラスメイトへの自己紹介や部活見学、そして、学校の設備等の説明が続く――とWeb小説には書いてあった。
いや、わたしは中学までの記憶しか無いのでよく分からないけど、そんなもんだと書いてあった気がする。
ただ、この学院は中等部から高等部まで、大抵の生徒が自動で進級するので、その辺りは軽くだけ触れて、直ぐに授業は開始した。
といっても、どんな授業をするか等の説明が主ではあるけど。
前世では国語、地理、歴史、数学、理科辺りを重点的にやっていたけど、この学院では貴族文法、地理、歴史、宗教学を重点的に行うそうだ。
……理系が得意な生徒はちょっと可哀想かもしれない。
魔術学、数学、理科(化学、物理)や政治学、領運営学、更にお嬢様には関係ない騎士関係のものも選択科目らしい。
この辺りは将来進む道によって選べるようにって事なんだろう。
それらについては、2週間ほど、自由に参加でき、その上で決めることが出来る方式をとっているらしい。
まあ、授業を受けて、思ったのと違う! って事になるのを防ぐためだろうね。
そういえば、お嬢様はどんな授業を選択するのかな?
……ちゃんと、従魔を使う授業も選択してくれたかな?
個人的には従魔可のクラスは全て選んで欲しいけど……。
お嬢様、わたしが付いてきたこと、結構、怒っていたから、選んでくれていないかもしれない……。
そんなことを考えていると、お嬢様が受けていた授業が終わったようだ。
お嬢様はクロエさんと話をしながら立ち上がる。
キーラさんやペサニーさんも集まってくる。
次の授業のために移動するのかな?
と思っていると、わたしの背中が撫でられた。
「がぁ?」
視界を戻すと、アネットさんが少し、苦い顔でわたしを見下ろしてくる。
「キュートリック、あなた、お嬢様のところに向かわないのは良いけれど、ずっとそこでゴロゴロしてるのもどうなの?」
わたしとしてはお嬢様の見守りを一生懸命してるんだけど……。
端から見たら、ソファの上でゴロゴロしているだけに見えるか。
……いや、わたしはお嬢様の愛玩系ドラゴンだ!
仮にただただゴロゴロしているだけでも、問題ないはず!
にもかかわらず、アネットさんはわたしの脇腹を指で突っつきながら「また、ぶくぶく太っちゃうわよ」とか言っている。
もう!
わたしはお嬢様の見守りで忙しいの!
邪魔しないで!
「がっ! がっ!」と苦言を呈すも、アネットさんはわたしを持ち上げ、馬鹿でかいのを押しつけてくる。
「ほら、いつまでもゴロゴロしてないで、軽食を食べなさい!」
あ、もうお昼の時間か。
お嬢様達も、食べに向かったのか。
因みに、この世界では昼食は軽く済ませる感じだ。
なので、テーブルに用意されていたのは小さめのサンドイッチが2切れと、紅茶のコップのみだ。
アネットさんはわたしをテーブルの上にあるクッションに置くと、続ける。
「それを食べたらお屋敷に一旦戻るのでしょう?
奥様もお待ちになっていらっしゃるから、急いでね」
ああ、ルーシーお嬢さまの子守かぁ~
正直、お嬢様をお守りする方が大事なんだけど、しょうがないかぁ~
サンドイッチを前脚で掴むと、パクリと食べた。
ふむ、シャキシャキのレタスとレモン、ハムのコンビはなかなか美味しい!
この学院の料理人も、なかなかやるな!
お昼ご飯を食べた後、アネットさんにせっつかれて、致し方がなく、侯爵邸に戻ることにする。
アネットさんに侯爵家の紋章が入ったスカーフを付けて貰った後、出発だ!
お嬢様のお部屋のバルコニーから飛び立とうとするも、アネットさんに「玄関から出なさい!」と怒られてしまった。
学院の門から出るようには言われたけど、寮から出ることについては言われていないので、気にする必要はない気もするけど……。
まあ、アネットさんに逆らうと後々、面倒か。
仕方がなく、お嬢様の部屋の出入り口まで行こうとするも、途中で「運んで上げるわ」とアネットさんに拾われた。
えぇ~
アネットさん、馬鹿でかい胸をしているくせに、何かとわたしを抱き上げたがるの、なんなの!?
部屋から出て、アネットさんは階段を降りる。
更に扉を出ると、お嬢様の部屋を警護しているお姉さん達が2人立っていた。
アネットさんが「ご苦労様です」と声を掛けると、ビシッと敬礼を返してきた。
なかなか、格好いい!
キリッとしたお姉さん達だったけど、わたしに気づくと、チラチラとこちらを見てくる。
少し、顔を赤くしている。
……ひょっとしたら、わたしのドラゴンボディを撫でたいのかもしれない。
なので、〝撫でて良いよ!〟と身振り手振りをしつつ「がっ! がっ!」と鳴く。
それに気づいたアネットさんも、少し呆れた感じながら、「良ければ撫でてやってください」と言った。
お姉さん達は顔を見合わせながらも、「で、では、少しだけ」とか言いつつ、恐る恐る撫でてくれた。
ふむ、お姉さん達、見た目は体育会系ながらも、なで方はなかなか繊細で優しく、素敵な撫で使いといっても良いな。




