ヒロイン登場!?
自分の直上は屋根があっても、それを超えて見下ろす事が出来る。
更に、上から広い範囲を見ることは出来る。
だけど、例えば、隣の部屋は透過して見えない。
体を横向きにして、背中を向ける形にしても、それは無理だ。
また、基本、空から見下ろす形にしか見えないので、例えば、ビルが短い間隔で並んだ場所の、ビルとビルの間の窓から覗くとかは出来ない。
なんて言うか、前世、衛星写真を凄くした感じなのだ。
見下ろす角度を多少、斜めにする事は出来るので、窓側にいれば一応、見えるって感じだ。
なので、今もホールの窓を覗いたりしてお嬢様を探している。
う~ん、並べられた椅子に生徒達が座っている場所は発見したけど、お嬢様は奥にいるのか、姿を見ることが出来ない。
無念だ!
そんなことをやっているうちに、生徒が椅子から立ち上がると、移動し始めた。
ん?
生徒達が歩いて行く渡り廊下を発見!
お嬢様もここから出てくるかな?
斜め下に見下ろす形で見つめつつ探していると、お嬢様とクロエさん達が歩いているのが見えた。
ドラゴンイヤーでお嬢様の場所に聞き耳を立てると、お嬢様の「次は教室で魔力の色を調べるんだったわよね」という声が聞こえてきた。
クロエさんが「そうです」と頷いている。
なんか、魔力は人によって様々な色があるらしい。
きっと、この辺りも乙女ゲーム的に何かしらあるんだろうなぁ~ とは思うんだけど……。
実際ゲームをしていないわたしは、さっぱり分からないんだよね。
そんな風に思っていると、突然「忘れ物しちゃった!」とかいう女の子の声が割り込んできた。
そして、「きゃ!」という悲鳴が2つ重なった。
見ると、クロエさんがお嬢様やキーラさん達に支えられていた。
その前には、ピンク色!? いや、苺色っていうのが正しいのかな? 薄赤い髪の女の子が地面に腰を落としていた。
クロエさんはムっとした顔で、その女の子に叫ぶ。
「あなた!
こんな所で走ったら危ないじゃない!」
すると、薄赤い髪の女の子が慌てて立ち上がると、頭を下げる。
「もも申し訳ありません!
わたし、田舎の出なので、そういうことに疎くて」
「いや、田舎とか関係な――」
「ごごごめんなさい!
許してください!」
「あなた!
そうじゃなく――」
クロエさんが続けようとした時、「何をしてる!」という声が響いた。
馬鹿王子だった。
馬鹿王子が無駄に格好を付けて歩いてきた。
すると、薄赤い髪の女の子が馬鹿王子にも深く頭を下げる。
「もも申し訳ありません!
わたし、入学したての田舎の出で、礼儀とかも疎く、この方を不快にさせてしまったみたいで!」
ビシッと手で指した先に――はぁ?
目を見開くお嬢様が立っていた。
馬鹿王子は不快そうにお嬢様を見る。
クロエさんが慌てて言う。
「お、お待ちください!
違います!
わたしが――」
「かばい立ては止めろ!
モーライン伯爵令嬢!」
か、かばい立て!?
いやいや、違うでしょう!?
だけど、馬鹿王子は「ふん!」と鼻を鳴らした。
「宮廷の女官長に礼儀作法を褒められ、うぬぼれているのか知らんが、学院に慣れない女子生徒を叱りつけていい気になる。
それが、淑女の振るまいか?」
「殿下、わたくしは――」
「言い訳は不要だ!
仮に礼儀がたどたどしい生徒がいたとしても、それを注意するのはお前の役目ではない!
控えろ!
良いな!」
お嬢様は目をつむった後「畏まりました」と頭を下げた。
はぁ~!
はぁ~!
なんなの!?
すると、薄赤い髪の女の子がしずしずと馬鹿王子に近づき、頭を下げる。
そして、目を潤ませながら上目遣いをする。
「殿下、ありがとうございます!
わたし、怖くって! 怖くって!
どうしたら良いか分からなくって!」
いや、なんなのこの子!
科を作ってない!?
小柄でほっそりしつつ、何故か胸がそこそこあるその女の子の――その、ぱっちりした目で見上げられた馬鹿王子は、まんざらでもない顔をしている。
「気にするな。
弱き者を見たら助ける。
それが、この国を統べる事となるわたしの責務だからな!」
調子の良いことを言っている馬鹿王子を取り巻き共が「流石殿下!」とか「素敵ですわ!」とか持ち上げている。
ただ、ピエール君はハラハラした顔をしながらお嬢様をチラチラ気にしつつ「殿下! その辺で!」とか言っている。
アントワーヌ君も困った顔をして、クロエさんにこっそり「何があったの?」と訊ねている。
すると、馬鹿王子の側にいたメガネを掛けた少年がひとつため息をつくと――後ろで縛った黒髪を揺らしながら「付き合ってられません。先に行きますよ、殿下」と言いつつさっさと進んでいく。
それに気づいた馬鹿王子は「お、おい! 勝手に行くなデクラン!」と叫び、薄赤い髪の女の子に向き直った。
「何か困ったことがあったら、わたしに言うが良い。
……そういえば、お前の名は?」
薄赤い髪の女の子は少し頬を赤らめながら恥ずかしそうに言う。
「わ、わたし、マリエット……。
ベル男爵の娘、マリエット・ベルと申します」
はぁ?
脳裏にメガネちゃんの――いつか言われた声が響く。
『ベル男爵令嬢――彼女に会ったら、優しくして上げて!』
ちょっとぉぉぉ!
流石に無理だよ、メガネちゃぁぁぁん!
――
奴は明らかにお嬢様を狙っていた。
わたしはソファの上でゴロゴロしながら考える。
あの後、馬鹿王子はデクラン君? とかいうメガネ男子を足早に追いかけていった。
その後ろを、馬鹿王子の取り巻きが、コバンザメのように付いて行った。
ピエール君やアントワーヌ君も、お嬢様達に申し訳なさげに会釈をすると、それに続いた。
取り残されたお嬢様達はしばらく、呆然とその後ろ姿を見ていたんだけど……。
クロエさんが顔を顰めながら声を荒げた。
「なんですか、あ――」
ただ、クロエさんの言葉を「止めなさい!」とお嬢様が止める。
そして、一息ため息をつくと、皆に笑顔を向けながら「さ、教室に行きましょう」と促した。
止められたクロエさんも、キーラさんやペサニーさんも気遣わしげにお嬢様を見つつ、それに従っていた。
今はお嬢様の教室らしき場所で、授業を受けているようだ。
少しギリギリだけど、真剣に先生の話を聞いているお嬢様の様子が見える。
キリッとされていて美し可愛い!
いや、それはともかくだ。
マリエット・ベルとかいう奴、あいつは絶対、わたしと同じ転生者だ!
前世、何百ものWeb小説を読み込んだだろうわたしがいうのだから、間違いない!
しかも、腹黒系の転生者だ!
前世の知識を悪意を持って使用し、逆ハーやらなんやらを成立させようとしているクズやろうだ!
Web小説ではそのほとんどがろくでもない最後を迎えることになるんだけど……。
自分なら上手くやれるとか根拠も無く思っている、ただのお馬鹿さんなんだろう。




