お嬢様を見守る!
お嬢様はわたしに微笑みながら「おはよう、キュー」と言ってくれる。
可愛らしくて、綺麗で、心をほんわかさせてくれる素敵な笑顔だ!
おっと、わたしもちゃんと挨拶をしなくてはならない!
「がっ! がっ!」
と丁寧に挨拶をする。
すると、お嬢様はわたしの頭を撫でてくれる。
ふふふ、幸せだぁ~
そんなわたしの前に、ワゴンを運んできたアネットさんによって、朝食が並べられていく。
朝食はメイドさんなどの世話係さんがいる場合は、部屋で取ることが許可されている。
これは、王族やお嬢様を含む大貴族だけではなく、世話係さんが用意できるのであれば平民も部屋で取ることが出来るそうだ。
無理であれば、食堂で取るのだという。
また、当然ながら従魔には朝ご飯など出てこないのだけど、わたしだけ特別、用意されるとのことだ。
ま、わたしは偉大なる竜だし、多少は、ね!
朝ご飯を食べた後、お嬢様が教室に向かわれる事となった。
寂しい!
「がっ! がっ!」と言いながらくっ付いていたけど、「直ぐに戻ってくるから、ね」と背中を撫でられつつ窘められ、アネットさんに渡されてしまった。
寂しい!
そんなわたしに、お嬢様は少し厳しい顔をしながら言う。
「キュー、しつこいようだけど、教室に来ては駄目よ!
侯爵邸に向かわないのであれば、ここから出ないようにね!」
はぁ~寂しいけど、仕方がない。
「がぁ~」と返事をすると、困った顔になったお嬢様は「直ぐ帰ってくるから、良い子にね」と背中を撫でてくれる。
そして、アネットさんに「お願いね!」と言い残し、部屋を出て行ってしまった。
アネットさんが「良い子に待っていましょうね」と胸をぐいぐい押しつけてくるので、何とか抜け出し、ソファの上で丸くなる。
ふむ、一緒に居られないのは寂しいけど、ある意味、分かっていたことでもある。
わたしはドラゴンアイズを意識した。
視界が切り替わり、わたしの背中が映る。
さらに、それが小さくなり――屋根を突き抜け、寮の屋根が見える。
高性能過ぎるドラゴンアイズ(広範囲版)は覚醒から、様々な試行錯誤を繰り返すうちに、さらなる進化を遂げていた。
なんと、部屋の中からでも外の様子が見えるようになったのだ!
ドラゴン、スゲぇぇぇ! である!
もっとも、そこから更に、建物の中を見るのは無理だ。
無理だけど、まあ、窓から中を覗くことは出来るからね!
どれどれ、お嬢様はっと。
上から寮の周りを見渡す。
あ、まだ、寮から出てないかな?
そんなことを考えていると、お!? 寮の玄関から、金色の頭頂部が出てきた。
あのふんわり癖のある髪は、お嬢様に間違いない!
他にも、金髪直毛や焦げ茶の髪、赤毛と頭頂部が続いているので、恐らく、いつものお友達3人と校舎に向かうのだろう。
少し、歩き始めた後、お嬢様がこちら――寮の方を一度、振り向いた。
とても不安そうに眉を寄せている。
お嬢様も、なんやかんや言ってわたしと離れるのは寂しいのだろう。
わたしは少し、胸がぎゅっと締め付けられた。
ご安心を、お嬢様!
わたしはおそばにいられませんが、しっかりと見守っておりますぞ!
そんなことを考えていると、お嬢様はお友達と談笑しながら歩き出した。
そして、しばらく進んだ後、左を向くと足を止め、丁寧にお辞儀をした。
お友達も慌てて、お嬢様に倣う。
お嬢様が向く方には、馬鹿王子が不機嫌そうな顔で歩いていた。
その側にはアントワーヌ君やピエール君を始めとする何人かの男の子が続いている。
馬鹿王子はお嬢様の前に立つと、馬鹿みたいに口をパクパクさせた。
……あ、聞こえないだけだ!
ドラゴンイヤー!
ドラゴンイヤーを集中させねば!
お嬢様の方に聞き耳を立てると、馬鹿王子の馬鹿みたいな声が聞こえてきた。
「――まあ、母上がうるさいからな。
仕方がないので、一緒に行ってやろう」
馬鹿が馬鹿みたいな声で馬鹿みたいな事を言っていた。
はぁ~!
何が、一緒に行ってやろうだ!
お前が言うべき言葉は〝お美しいレディ、わたしをお連れ下さい!〟だろうが!
クソがぁぁぁ!
そんな馬鹿に対して、お優しいお嬢様は「恐れ入ります」と頭を下げている。
「ふん!」
とか言っている馬鹿王子、何やら少し嬉しそうだ。
何なのこいつはぁぁぁ!
双方の連れとも軽く挨拶をした後、先頭をお嬢様と馬鹿王子、その後を、お嬢様のお友達と馬鹿王子のお世話係? が歩いている。
クロエさん達にピエール君が申し訳なさそうに頭を下げ、クロエさん達が慌てた感じに、〝お気になさらず!〟という様に首を横に振っている。
格好いい系騎士君のピエール君、なんか、下っ端の苦労人みたいな立場になってる!
可哀想すぎる!
そんな、ピエール君の苦労も知らないのか、気にしないのか、馬鹿王子は機嫌良く歩いている。
鳥の糞でも降ってくれば良いのに!
そんなことを考えていると、馬鹿王子がお嬢様に言う。
「そういえば、お前んところの竜モドキ――連れてきているらしいじゃないか」
「キュートリックですか?
ええ、まあ……」
お嬢様は少し苦い顔で答える。
馬鹿王子は顔を顰めながら言う。
「あいつ、最近、王城で会うと、何やら飛んできて『がぁ! がぁ!』と言ってくるんだが、あれ、止めさせろ!
何を言ってるのか分からんが、悪意しか感じん!」
がぁ!?
この馬鹿王子、チクりやがった!
お嬢様は頭痛を堪えるような顔をしながら「申し訳ありません、しっかりと言って聞かせます」と言う。
ぎゃぁぁぁ!
馬鹿王子のせいで怒られるぅぅぅ!
何故だぁぁぁ!
ただ、〝馬鹿王子! ばぁ~か、ばぁ~か!〟って本当のことを言っただけなのにぃぃぃ!
「キュートリック!」
突然、声を掛けられ、視界がぐらりと揺れた。
目の前で、アネットさんがこちらを心配そうに見下ろしていた。
「あなた、どうしたの?
そんなところで、手足をバタバタさせて」
あ、見るのに集中しすぎて、体を動かしてたみたいだ。
わたしは〝お気になさらず!〟というように「がっ! がっ!」と鳴くも、訝しげに見られた。
いけない、いけない、大人しくしてなければ!
わたしが〝なんでもないですよぉ~〟と言うように丸くなると、メイドさんは、その場を離れていく。
えぇ~っと、ドラゴンアイズを集中させねば。
……あれ?
お嬢様、どこいった!?
あれから、しばらく探すも、お嬢様が見つからなかった。
っていうか、既に外には生徒が見当たらない。
入学式が始まってしまっているのだろう。
式自体は恐らく、厳重に警護されているホールらしき建物があるので、そこだろうとは思う。
ただ、高性能ドラゴンアイズでも、その中を見るのは難しい。
この目、凄いは凄いけど、制限は結構あるんだよね。




