ヒロインを優しくして欲しい?
クロエさんは姿勢を戻しながら、顔をしかめる。
「キーラさん、不謹慎じゃないかしら?」
「えぇ~
そういうんじゃなく!」
とキーラさんは不満そうにしながら体を起こす。
お嬢様も戻しながら苦笑する。
ペサニーさんも体を起こしながら、少し落ち着き無く両手を組みながら言う。
「あ、あのう。
お病気のマクロー伯爵令嬢には大変申し訳ないのですが……。
わたしは彼女がいらっしゃらないと聞いて、ホッとしています」
ペサニーさんにしては珍しい言にお嬢様達の視線が集中する。
ペサニーさんがそれが落ち着かないのか、体を小さくさせながら、ボソボソと言う。
「カトリーヌ様にとって、今は大切な時期……。
そんな時に良くない噂もあるマクロー伯爵令嬢がいらっしゃり、学院をかき乱される事を考えると、そう思ってしまうんです」
クロエさんが「そうね」と頷き続ける。
「それに、自称なのか他称なのか知らないけど、アールイス王国の事で今騒がれるのも……。
せっかく、イザベル殿下――いえ、アールイス王太子妃がご懐妊というおめでたいお話もある中で、下手なことをジョセフ殿下に知られるのは、騒動の元ですもんね」
あ、イザベル王女様、妊娠したんだ。
おめでたい――と言うべきなんだけど、やっぱり、イザベル王女様に実際会って、その顔を見ながらじゃないと、なんだか、そんな気分になれない。
イザベル王女様の襲撃以降、アールイス王国自体は大人しいとの事だったけど……。
う~ん、気になる。
気になると言えば、ゲーム〝女神様の気まぐれ〟のヒロインだ。
誰のことか、全然分からないんだけど、恐らく入学してくるのだろうから、お嬢様と絡むこととなるはずだ。
ひょっとしたら、マクロー伯爵令嬢とやらの事かな? とも思ったけど、確か底辺貴族とかなんとかだったはずだから、流石に伯爵令嬢では無いだろうと思っている。
せめて、どういう立場の人間なのかさえ分かれば、色々、対処とか出来ると思うんだけど……。
う~ん、困ったぁ~
お嬢様の膝の上で、お嬢様に撫でられながら悩むのだった。
――
あれ?
ここはどこだろう?
「――でもね、攻略対象でわたしが一番好きなのは、王子様じゃなく、アントワーヌ様なの!
港町で――の思い出を話すシーンなんて、切なくて――」
目の前に廊下や教室……あ、学習室かな? それが見える。
……学習室?
あれ?
「ちょっと、訊いてる!?」
「え?」
声がした方を見ると、メガネを掛けた女の子が、不満そうに口を尖らせている。
「あ、メガネちゃん」
「あ、メガネちゃん、じゃないわよ!
どうしたの?
ぼーっとしちゃって」
「え?
う、ううん、ごめん!」
どうやら、わたしはメガネちゃんと椅子に座りながらお喋りをしていたようだ。
なんか、意識が変なところに飛んでいたみたい。
なんでだろう?
なんとなく、辺りを見渡す。
左手には自販機、後ろには大窓、その向こうには小さな庭? が見えた。
あ、そうか、ここはいつも、通っている図書館だ。
その地下にある休憩スペースにいるんだ。
「ねえ、本当にどうしたの?
大丈夫?」
心配そうな声に慌てて顔を戻すと、案じるように眉を寄せるメガネちゃんがこちらを見ていた。
「ご、ごめん、なんか少しぼーっとしてた」
改めて見ると、メガネちゃんは私服だった。
黒の帽子に髪をツインテール? だっけ? 2つに分けていて、肩の前に流していた。
白のシャツの上にニットのベスト、短パン姿が活動的で、可愛らしくて素敵だ。
そんな風に見ていると、それに気づいたメガネちゃんがニッコリ微笑む。
「なぁ~に?
自分は制服を着てるのに、人の私服が気になるの?」
「いや、可愛いなぁ~って」
そう言いながら、視線を下ろす。
わたしが身につけているのは、いつものセーラー服だ。
まあ、切実な理由があったりするけど……。
「オシャレなメガネちゃんに私服を披露するのは、ちょっと怖くて出来ないなぁ~」
ぼそっと呟くと、メガネちゃんの「じゃあ、わたしが選んで上げようか?」という嬉しそうな声が聞こえてきた。
視線を上げると、メガネちゃんが目をキラキラさせながら、こちらを見ていた。
いや、それは恥ずかしいから無理!
「あ、で、なんの話だったっけ!?」
無理矢理、話を戻すと、メガネちゃんは不満そうに少しふくれっ面になる。
そんな表情も、可愛い!
「もう!
だから、〝女神様の気まぐれ〟の話を聞きたいって言うから、話してたんじゃない!」
「あ、ああ、そうだったね」
あれ?
なんで、そんなこと頼んだんだっけ?
正直、めがぐれ関係は、何も言わないでもメガネちゃんが話しているイメージなんだけど……。
あ、そういえば――。
「ねえ、メガネちゃん!
ヒロインってどんな子だったっけ?
性格とか立場とか」
「え?
ヒロイン?」
メガネちゃんは不思議そうにする。
まあ、乙女ゲームだったら大体が攻略対象を気にするよね。
もしくは、悪役令嬢とか。
メガネちゃんは少し視線を上げながら思い出すように言う。
「ヒロインの性格は……。
ゲームの中ではわたし――つまり、プレイヤーが選択するから、結構、色々変わっていくからなぁ~
ただ、選択肢から推測するに、恋愛は奥手、だけど、それ以外は結構、イケイケな感じかな?」
「え?
そうなの?
乙女ゲームのヒロインなのに?」
「乙女ゲームのヒロインって、そういう子の方が多い気がするけど?」
ってメガネちゃんは笑うけど、Web小説の乙女ゲーム転生系ヒロインは結構、恋愛にもガツガツ行っているイメージがある。
あ、それは逆ハー狙いの、どちらかというと敵役ヒロインか。
そんなことを考えている間も、メガネちゃんは続ける。
「あと、立場、ね。
実はヒロインは――の――なんだけど、赤ちゃんの時に、男爵家に預けられてるの。
ヒロインはそのことを知らなかったんだけど、とある事件により、そのことを知ることになるの。
とにかく、色々あって大変なのよ」
メガネちゃんは「凄く良い子なのに可哀想に」とか腕を組み顔をしかめている。
そして、わたしにニッコリ微笑んだ。
「だからね、もし仮にWeb小説の主人公みたいに異世界転生をしたら優しくして上げて欲しいの。
そのヒロインの名は決まってないけど、預けられた男爵家、その家名は変わらないから。
ベル男爵令嬢――彼女に会ったら、優しくして上げて!
それが――」
「――トリック!
キュートリック!
起きなさい!」
体を揺さぶられて目を覚ますと、わたしのベッド(用にしている籠)をメイドのアネットさんがのぞき込んでいた。
んんん~!
朝、か……。
目をゆっくり開けると、アネットさんは「朝ご飯の時間よ」と言いながら、わたしを抱き上げる。
そして、大きいものにわたしを押しつける。
うぐぅ~!
それは、嫌なんだってば!
運ばれた先はテーブルの上で、既にお嬢様が制服を着て座っていた。




