余計じゃない指摘!
お嬢様に撫でられながら、そんなことを考えていると、何やら鈴の音のような澄んだ音が聞こえてきた。
お茶の準備をしていたアネットさんが手を止め、お嬢様の方を向きつつ言う。
「どうやら、入り口の警護兵が呼んでいるようなので、少し、失礼します」
「ええ、お願い」
お嬢様が頷くと、アネットさんは一礼をした。
警護兵さん達が呼び出した理由は、お嬢様にお客様が来ているというものだった。
お客様というのは、お嬢様のご友人の3人、金髪のクロエさん、焦げ茶色髪のペサニーさん、赤毛のキーラさんだった。
竜の大ファンな彼女らは、挨拶もそこそこに、迎えに出たお嬢様の、その腕に抱かれたわたしを「キャー! キュートリック様!」とか「可愛い!」とか「柔らかぁ~い!」とかひとしきり撫でてきた。
相変わらずの感じの女の子3人は、皆、制服姿だ。
お嬢様のお屋敷での私服姿しか見てないので、ちょっと新鮮だ。
しばらくすると、キーラさんがお嬢様の部屋が見たいと言いだしたので、2階に移動することになった。
「うぁ~!
広ぉ~い!
羨ましいぃぃぃ!」
キーラさんがお嬢様の部屋に感嘆の声を上げ、しっかり者のクロエさんに「止めなさい!」と怒られている。
ペサニーさんが困った顔でお嬢様を見ながら「わたし達の部屋は、これの半分ぐらいで……」とか言っている。
お嬢様は少し申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさいね。
わたくしも、皆と同じ部屋で良いと言ったんだけど――」
「とんでもない!」
キーラさんがお嬢様にバッと顔を向けて叫ぶ。
「カトリーヌ様!
そのようなことをされてはいけません!」
「えぇ!?」
突然のことに、目を白黒させているお嬢様に、キーラさんは目をギラつかせながら更に続ける。
「こんなに素敵な場所を自ら放棄するなんて勿体ない!
それに、わたし達なんて、個室の談話室は予約制、しかも、いざ使用しようとすると、身分が高い伯爵家が平気で取り上げるって話なんですよ!
ところが、ここならいつでも使い放題!
絶対に手放しては――ぐぅ!?」 青筋を立てんばかりの形相のクロエさんがキーラさんの口を手で塞ぎながら、叫ぶ。
「いい加減にしなさい!
失礼にもほどがあるでしょう!」 カンカンに怒り出したクロエさんの側で「あわわ……」とペサニーさんがオロオロしている。
それを見ながらお嬢様はため息をつくと「色々、悩んだのが馬鹿馬鹿しくなるわ」と苦笑するのだった。
下の階の談話室に移り、皆でソファに座る。
座る並びはお嬢様とクロエさんが同じソファで、向かい合わせでペサニーさんとキーラさんだ。
キーラさんが神妙な顔で「改めて、大変失礼しました」とお嬢様に頭を下げた。
苦い顔をしたクロエさんも「わたしもお見苦しい所をお見せしました」と続いた。
何故か、ペサニーさんも釣られてか「申し訳ございません」と小さく言いつつ頭を下げている。
お嬢様は苦笑しつつ言う。
「もう良いのよ。
あと、ペサニーさんは特に謝ることなんて無いから、そんなに縮こまらないで」
そんなやり取りをしている間に、アネットさんが皆の前にお茶を出していく。
因みにわたしは、お嬢様の膝の上にいる。
ま、定位置だからね!
キーラさんが談話室を見渡しつつ言う。
「良い談話室ですね!
机や椅子を持ち込めば、あと10人ぐらいは入れそうですし、商談や会議室としても使えそうです」
「そうですね」
とペサニーさんも同意する。
確かに、商談とか会議室としても使えそうだけど、お嬢様がそのような用途で使用することなんてあるかな?
クロエさんが談話室の奥にある大きな窓に視線を向けながら言う。
「わたしは個人用の庭園があるのは羨ましいですわ。
確か、頼めば好みの花壇を作ってくれるとか」
お嬢様もそちらに視線を向けながら言う。
「そうね、このままでも十分素敵だけど……。
当家から持ってきても良いのなら、ジギタリスでも植えたいわ」
クロエさんがニッコリ微笑む。
「ああ、侯爵邸に咲いてた〝狐の鈴〟ですわね。
あの可愛らしい花がここ一面に咲いていたら、素敵ですわ」
「そうよね」とお嬢様とクロエさんが微笑み合う。
そこに、ペサニーさんが恐る恐る割り込む。
「あ、あのう……。
ジギタリスはとても愛らしい花ですが……。
その、毒が有りまして……。
止めておいた方が……」
お嬢様は気まずそうに苦笑する。
「あ、ああ……。
そういえば、近づかないように厳しく言われていたわね」
クロエさんも「そうなんですね……」となんともいえない顔になる。
そんな様子に、ペサニーさんは申し訳なさそうに縮こまる。
「も、申し訳ございません。
余計な差し出口を……」
そんな、ペサニーさんにお嬢様は慌てて首を横に振る。
「何を言ってるの、ペサニーさん。
あのまま、ジギタリスを望んでいたら、大変なことになっていた可能性もありますもの――とても助かったわ。
ありがとう!」
クロエさんもニッコリ微笑む。
「そうよ、ペサニーさん。
あなたの言葉はいつだって、余計なことでは無いわ。
そんなことを言ったら、キーラさんの立つ瀬が無いわよ」
「え!?
なぜ、そこでわたしが出てくるんですか!?」
キーラさんの不満そうな声に、他の3人が「ふっ!」と吹き出す。
「いや、何故笑うんですか!?」
と更に続けるキーラさんに、お嬢様達の笑いはしばらく続くのだった。
ようやく落ち着いてきた頃、不満そうにしていたキーラさんはお茶を一口飲むと、少し、得意そうに目を輝かせながら話し始めた。
「ところで、マクロー伯爵令嬢の件、お聞きになってますか?」
「マクロー伯爵令嬢?」とクロエさんが訊ねると、キーラさんは頷く。
「彼女は入学するってことでしたが……。
どうやら、病気療養のために辞退されたそうです」
お嬢様が厳しい顔で眉を寄せた。
「マクロー伯爵令嬢といえば、確か、アールイス王国の姫ではないかと噂になった方よね」
「ええ、そうです」
とキーラさんは大きく頷き続ける。
「もっとも、その話は明確に否定されたという事です。
でも、きな臭いのが……」
そう言いつつ、キーラさんは前のめりになり口元に手を置く。
そして、お嬢様達に目配せをする。
お嬢様達は苦笑しながらも、同じく、前のめりになる。
お嬢様の膝にいたわたし、お嬢様のお腹と膝とにサンドイッチにされてるんだけど……。
まあ、痛いとか重いとかは無いから良いけど。
キーラさんはお嬢様達の様子を見ながら満足げに頷き、続ける。
「実はですね、明確に否定された後、グラーニャ・マクロー伯爵令嬢の話が全く聞こえなくなったのです。
元々、表に出る方では無かったのですが、華々しく新商品を出し続けて注目を浴びていたのに、そういうのが一切出なくなったのです。
……なんだか、おどろおどろしいとは思いませんか?」




