学院長と挨拶!
そんな風にうっとりしていると、お嬢様はメイドのアネットさんや護衛騎士のアランさん達の方に話しかける。
「ねえ、アン。
本当に良かったの?
わたくしの為に大半の日を学院に泊まり込むことになって」
王立学院ではお世話係を最大2名、連れて行くことを許可されていた。
勿論、そのリストを王立学院に提出して、その身元調査をされ、許可を得た人のみではあるけど。
お嬢様が入寮するにともない、アネットさんが随伴する事になった。
アネットさんとアランさんには1歳になるお子さんもいるので、お嬢様はそのことを心配しているのだ。
ただ、アネットさんは少し困ったように首を横に振った。
「いえ、滅相もございません。
お嬢様が授業を受けていらっしゃる間のお昼に、時々、別の者と交代して家に帰らせて頂くこととなっておりますし、お休みも何日かに一度は頂くこととなっております。
むしろ、常に控えることが出来ず、申し訳ございません」
アネットさんとアランさんは申し訳なさげに頭を下げた。
さらにアネットさんが説明するには、乳母や使用人もいるから大丈夫って事だった。
アネットさんやアランさんは、流石は大貴族に仕えているだけのことはあり、実はそこそこ良い家格の出とのことだった。
お嬢様は納得したように頷くと「何かあったら直ぐに言ってね」と念を押した。
アネットさんは「ありがとうございます」と笑顔で答えた。
大きなアーチ状の門をくぐると、木々に挟まれた道に出る。
お嬢様の膝から起き上がると、窓に近づき外を覗いてみる。
綺麗に整備された道の端には彫刻やベンチなどが設置されているのが見えた。
流石は貴族のお坊ちゃま、お嬢さまが通う学校だ。
一つ一つが上品でお洒落だ。
所々で立っている護衛の人っぽい軍服のお兄さんやお姉さん達は少々、物々しい感じはするけど。
あ、軍服のお姉さんと目が合った。
目を丸くしたお姉さんだったけど、馬車の側面にあるクリスタリ侯爵の家紋を見て納得した顔になった。
ひょっとすると、侯爵家にわたしがいる事って、結構噂になっているのかな?
しばらく行くと、幾人かの学院の制服を着た男女が歩いているのが見えた。
今から向かう寮から、校舎に向かって歩いているのかな?
貴族様の場合、ちょっとした距離でも馬車を使いそうなんだけど……。
なんて思っていると、背後からアネットさんの声が聞こえてきた。
「寮から結構な距離があるみたいですけど、皆様、歩いて通われているのですか?」
振り返ると、お嬢様がそれに頷いた。
「ええ、何でも歩く鍛錬も兼ねているので、やむを得ない理由が無い限り自分で歩かなくてはならないらしいわ。
例外はなく、生徒であれば王族の方々も」
つまり、お嬢様も歩かなくてはならないのか……。
とはいえ、わたしの素敵なお嬢様は、侯爵領とかでハイキングを楽しまれたりするので問題ないだろうけど……。
全く、動かないご令嬢方は大変かもしれない。
まあ、そういう人達を強制的に動かす為の決まり事なんだろうけど。
――
寮に着くと、入り口前で5人ほどの人達が、お嬢様を出迎える為に立っていた。
お嬢様がアランさんの手を借りながら馬車を降りると、その中の1人が前に出た。
好々爺とした感じのおじいちゃんで、笑顔で挨拶をする。
「お初にお目にかかります。
この学院で学院長をさせて貰っております、ウィルフ・ゴードンと申します」
お嬢様がスカートの裾を軽く持ち上げ、右足を後ろに引くと、丁寧に頭を下げる。
「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。
わたくし、クリスタリ侯爵家長女、カトリーヌ・ラドゥ・クリスタリと申します。
以後、お見知りおきをお願い申し上げます」
学院長さんはお嬢様の素敵な挨拶に対して、優しく微笑みながら頷く。
「本来であれば中等部の――この学院に初めてお見えになった時にご挨拶をすべきでしたが――」
それに対して、お嬢様は首を横に振る。
「いえ、そのようなお気遣いはご不要にお願いいたします。
それに、王族の方々ですら未成年の時点では学院長にお会いできないと聞いておりますので」
学院長さんはどことなく満足げに微笑んだ。
そして、一緒に居る人達を紹介をし始める。
どうやら、担任の先生やら、学年の主任先生やららしい。
その間、お嬢様の荷物を侯爵家の騎士さん達が運んでいく。
って、アランさん!
わたし(の入った鳥かご)はお嬢様の側に!
「がっ! がっ!」
と鳴くと、呆れた顔のアネットさんが抱えて持ってくれ、お嬢様の側に移動してくれた。
ありがとう!
どうやら、お嬢様は別室で先生達の説明を受けるようだ。
アネットさんに運んで貰い付いて行くと、先生方がチラリチラリと興味深げにこちらに視線を送ってきた。
何も言わない所をみると、先王様の許可書は周知されているみたいだ。
助かる!
学院長の先導でやってきた場所は応接室のようで、まずはここで話をするようだ。
促されてお嬢様が長椅子に座ると、少し可笑しそうにしている学院長さんはアネットさんに「竜殿はそちらに」とお嬢様の隣を指した。
「申し訳ありません」と少し恥ずかしそうにするお嬢様に、おじいちゃんな学院長は「ハハハ、構いませんよ」と笑った。
そして、長椅子の前に置かれたテーブルの上に、先生達が資料を載せるのを横目に見ながら色んな事を説明し始めた。
学院には様々な階級の生徒が入学してくる。
王族、貴族、そして平民とだ。
そして、〝基本的〟にそれら全ては平等に扱われる――らしい。
が、やっぱり、それはそれ、これはこれって奴なんだろう。
王族、大貴族と、その他、諸々は部屋の大きさは違っているらしい。
王族と大貴族は、ベッドや勉強用の机に本棚、2人ぐらいがお茶をするテーブルが余裕を持って設置されている大きな部屋の他に、衣装部屋や浴室、トイレ、歓談室が有り、プラス、世話係用の部屋が2つ、そばに用意されている。
一方、その他の皆さんのお部屋は、それなりに大きいもののベッドや机、クローゼットが一緒になった部屋に、浴室とトイレが付いたものらしい。
また、世話係は少し離れた場所にある使用人用の部屋を使用するとの事だ。
うんまあ、なかなかの違いだね。
そして、当然と言うべきか、わたしの素敵なお嬢様は侯爵令嬢、つまり大貴族という訳で、立派な方を使うこととなった。
それを知った生真面目なお嬢様が「わたくしは特別扱いを受けるつもりはございません!」ときっぱり言った。
流石はわたしの素敵なお嬢様だ!




