学院に行こう!
いやこれ、メガネちゃんならともかく、何故わたしが転生した!?
絶対これ、配役を間違っていると思う!
わたしに出来ることは、精々、馬鹿王子が馬鹿なことをやった時に、学院の屋根に吊すぐらいだ。
……いや、馬鹿王子が馬鹿なことをやるのは決まり切っている。
もう今のうちに吊しておけば良いんじゃなかろうか?
そんなことを「がっ、がっ」と呟いていると、可愛らしいネグリジェ姿のお嬢様が困惑しながらわたしをのぞき込んでくる。
そして、隣にいるメイドのアネットさんに訊ねる。
「ねえ……。
キューは何故、鳥かごに入っているの?」
アネットさんは苦笑しながら言う。
「恐らく、自分は梟か何かだと主張しているんでしょう。
だから、学院に連れて行けと」
「あ、ああ……」
お嬢様も苦笑する。
そう、わたしは今、鳥かごの中にいる。
気分は前世の有名小説の登場人物、魔法使いの学校に行くメガネ君の、その忠実なる白い梟だ!
白い所や忠実な所、雌な所と、彼女とは共通点が多い。
おっと、梟なんだから〝がっ〟じゃ駄目だな。
「ごぉ~ごぉ~!」
ん?
ほぉ~っと言いたいんだけど、上手く声が出ない。
まあ、多少寄せたから大丈夫かな?
そんなことを考えていると、お嬢様は大きくため息をついた。
そして、困った顔をしつつ鳥かごの入り口を開ける。
因みに、通常サイズのわたしが出入りできるぐらいだから少し大きめの扉だ。
「キュー、梟の真似をしても駄目よ。
竜は学院に入れないの。
それより、わたくしと一緒に居て頂戴。
またしばらく、会えなくなるのだから。
ほら」
のぞき込み、手で招くお嬢様に対して、わたしはスススっと近づくと、入り口を掴み閉じる。
そして、サッと戻ると「ごぉ~ごぉ~!」と鳴いた。
「キュ、キュー……。
あなたって子は……」
お嬢様は両手で顔を覆い、俯いた。
アネットさんも首を横に振っている。
う~む、まさかお嬢様、わたしが本気で梟とごまかす事で学院に入れると思っている――そんな風に誤解してる?
わたしはお嬢様が考えるより、ちゃんとしたドラゴンさんなのだ!
わたしは、鳥かごの隅に置いてあった封筒を手に取る。
そして、「がっ! がっ!」と言いつつ、それを鳥かごの隙間から差し出した。
「なんなのこれ?」
と言いつつ、アネットさんが受け取る。
それに気づいたお嬢様がアネットさんから受け取ると、封のしていない封筒を開け、中にある便せんを読む。
お嬢様は目を見開き、叫んだ。
「ちょ、ちょっと、キュー!
なんなのこれ!?」
お嬢様が読んでいるのは、先王様が書いてくれた許可書だ。
内容は『この竜っぽい生き物は梟相当なので、従魔として許可する』というものだ。
勿論、学院からも許可を貰っている。
普通なら絶対出ないけど、学院長と知己という先王様が頼んでくれたお陰で、許可を得たのだ。
これで、大手を振ってお嬢様と一緒に学院に行ける!
どやっ! と胸を張るわたしに、お嬢様は体をガクガク震わせる。
あ、あれ?
お嬢様はわたしをキッと睨むと「なんて事をするのよぉぉぉ! キュー!」と怒鳴るのだった。
お嬢様にこってり怒られた翌朝、鳥かごに入ったわたしは、執事のオントワンさんに運ばれている。
勿論、向かうはお嬢様が乗る馬車だ!
「連れて行かない!」と叫んでいたお嬢様だったけど、あれから、アネットさんからの報告を聞いたパパさんがやってきて「連れて行かなかったら、先王様の面目を傷つけることになる」と説得され、渋々了承したのであった。
更にお小言を頂戴したけど、大丈夫!
ようやく、お嬢様と学院に行けるのだ、凄く嬉しい!
そんなわたしを、お嬢様の見送りに出てきたパパさん、ママさんは呆れた顔で見ている。
エイサ坊ちゃまはプリプリ怒りながら「なんでキュートリックだけが!」と文句を言っている。
しょうがないでしょう?
エイサ坊ちゃまは竜じゃないんだもん!
「がっ! がっ!」とドヤッとしつつ声を掛けると、エイサ坊ちゃまは「キュートリックはズルい! 僕だってお姉さまと一緒に居たいのに!」とか怒っている。
ケケケ!
そんなわたしに苦笑したパパさんは、オントワンさんを呼び止め手招きをした。
そして、鳥かごをのぞき込みながら言う。
「キュートリック!
くれぐれも、騒ぎを起こすな!
その姿のまま、大人しくしてろ!」
〝その姿のまま〟というのは、体を大きくするなってことだろう。
分かっているってば!
ママさんは鳥かごを指で叩きながら「あと、ちゃんと定期的に帰ってくるのよ!」とか不満そうに言っている。
こちらはルーシーお嬢さまの件があるからだろう。
はいはい、分かりましたって!
因みに、お嬢様が授業に出ている間、侯爵邸に戻ることも許可されている。
本当は授業の時間も含む、24時間一緒に居たいんだけど、従魔を使う授業以外は駄目だそうだ。
不満ではあるけど、お嬢様を見守る上では、実はそこまで問題にはならない。
無論、侯爵邸に戻っている時は無理だけど、寮を含む学院敷地内ならきちんとお嬢様を見守る事が出来るのだ!
そんなことを考えていると、お嬢様がお屋敷から出てきた。
中等部の制服を着ていたお嬢様は可愛らしくて愛らしい女の子って感じだったけど、高等部の白い制服に身を包むと素敵なお姉様って感じだ!
そんなお嬢様はアネットさんと護衛のアランさんを連れて歩いてくると、パパさん、ママさんに丁寧に頭を下げる。
「お父様、お義母様、行ってまいります。
エイサ、良い子にしてるのよ」
パパさん、ママさんが「ああ、気をつけてな」とか「楽しんでいらっしゃい」とか声を掛けている。
エイサ坊ちゃまは不満そうにお嬢様を見上げていたけど、お嬢様が微笑みながら「またすぐに帰ってくるから」と声を掛けると「うん……」と渋々といった感じに頷いた。
聞き分けが良いエイサ坊ちゃま、立派だよ!
まず、オントワンさんがわたしが入った鳥かごを馬車の席に置くと、アランさんに手を取られ、お嬢様がその隣に座った。
わたし達の前の席にアネットさんとアランさんが座る。
馬車を囲む乗馬した騎士さん達が位置に着く気配を感じ、しばらくすると、窓の外のパパさん達に見送られながら、馬車がゆっくりと動き出した。
パパさん達に手を振っていたお嬢様だったけど、しばらくすると手を下ろし、こちらを見る。
そして、ひとつため息をつくと、わたしが入っている鳥かごの入り口を開けた。
「キュー!
ずっとそんな中に入っている必要は無いから、出てらっしゃい!」
まあ、そりゃそうだよね。
「がっ!」と鳴きつつ、扉をくぐると、お嬢様の膝の上に乗る。
そして、丸くなった。
「もう、キューにも困ったものね」
お嬢様はそんなことを言いつつも、わたしの背中を柔らかな手で撫でてくれる。
ふふふ、幸せだぁ~




