先王様に相談する!2
すると、王太后様が可笑しそうに言う。
「あら?
わたくしの記憶では、尖りすぎている陛下に皆が怯え、致し方がなく、わたくしやウィルフ殿がお相手をしていたように思うのですが?」
すると、先王様は少し慌てて「いや、それは王太后の記憶違いじゃぞ!」とか言っている。
え?
先王様って昔は尖っていたの!?
意外だ!
先王様は困った顔をしながら、わたしの頭を撫でつつ「違うぞ、キュートリック! 王太后が大げさに言ってるだけじゃ!」とか言ってるので、ますます、真実味が出てきてる。
おらおらとか、肩で風を切って歩いていたのかな?
先王様は咳払いをしつつ続ける。
「話を戻すぞ。
ジョセフは凡夫じゃ。
合理的な事、正しい事だからといって、それを押しつけ過ぎると必ず反発する。
そして、自分の都合の良い話を聞くとそれに飛びつく。
追従の輩の言葉など、耳当たりの良いことじゃろうな。
バーン伯爵令息辺りが苦言を呈していたらしいが……。
最近遠ざけているらしい」
バーン伯爵令息?
誰だろう?
疑問に思っていると、それに気づいた先王様が「バーン伯爵――宰相の息子じゃ」と教えてくれた。
ああ、メガネ宰相様の息子なのね。
それは凄く、気難しそうだ!
「ジョセフはな……。
あやつはあやつで苦しんでいるのじゃよ」
苦しんでいる?
あれが?
先王様が頷く。
「己の父親は何でも手早く簡単に終わらせてしまう。
そして、家臣からも慕われている。
あの扱いづらい宰相ですら、なんだかんだ言って、尊敬し、敬っている。
そんな王じゃ。
幼い頃、恐らくその息子の自分なら、同じように――むしろ、それ以上にうまく出来る。
そんな風に思ったじゃろうな。
だが、いざ、自分が第一王子として執務をやり始めた時、思うように行かないことに気づいたのじゃ。
官僚の言うことが理解できない。
書類の内容が理解できない。
苦労しているにもかかわらず、評価をしてくれない。
言葉にこそ出していないが、苦しんでいるのは明白じゃ。
初めから何でも出来るものなどいやしない。
王とて例外ではない。
あやつも、当時の宰相や官僚に教えを請い、必死に身につけてきたのじゃ。
だが、ジョセフはそれが分かっていない、故にしない。
今の父親を見て、自分はすぐにでもああなれるはずじゃと思っておる。
……何度か話をしたのじゃが、どうも、わしの言葉はあやつに届かないようじゃ。
聞く所によると、わしの事を情けない王だったと言っているようじゃ」
「何を馬鹿なことを!」
普段温厚な王太后様が目を剥いた。
「陛下がこの国のためにどれだけの思いで、どれだけの事を成してきたのか!
今のこの国の豊かさも、平和も、陛下が苦汁を舐めながら築き上げてきたものだというのに!」
怒りに震える王太后様の手に、自分の手を重ねて先王様は微笑む。
「良いのじゃ。
わしはいつでも最善を尽くして来たという自負はある。
じゃが、それも若い者からしたら、弱腰に見えることじゃろう」
「陛下……」
王太后様が苦しいとも悲しいとも取れる表情で先王様を見るが、おじいちゃん先王様は柔らかな表情で「良いのじゃ」と繰り返した。
そして、わたしに視線を向けながら言う。
「ジョセフはな、あれはあれで良い所を持っている。
しっかりした者が上手く舵を握れば――周りを見るよう促してくれれば、それなりの人物になるじゃろう。
そう、わしにとっての王太后のような者が、な」
先王様がお茶目な感じにニヤリと笑うと、王太后様は困ったような、嬉しそうな表情で「もう、陛下ったら」と微笑む。
先王様は王太后様に微笑んだ後、わたしに向かって困った顔をする。
「以前は、イザベルがそれをやっていたのじゃが、あの子はもう、嫁いでしまった。
……これからはクリスタリ侯爵令嬢が舵を取ってくれれば有り難いのじゃが」
えぇ~!
いや、なんでわたしの素敵なお嬢様が、そんなクソ面倒くさい王子の面倒を見ないとならないのよ!
お嬢様の部屋で独りごちる。
ごちるといっても、言葉に出そうとすると「がっ! がっ!」となっちゃうけどね。
とはいえ、冷静に考えるとそのクソ面倒くさい所って、いかにも乙女ゲームの攻略対象っぽくはある。
見目もまあ、一応、整っているし。
これで、見た目に惹かれて近寄ったプレーヤーが一生懸命世話をして、なんやかんやまともになり、ハッピーエンドになる――そういう事だろうけど……。
ゲームならともかく、実際会って関わるとなると、ぶっちゃけ、グーパンチで殴りたくなるのはわたしだけだろうか?
そんな輩と、わたしの愛らしいお嬢様が結婚する。
ほんと、あり得ないんだけどぉぉぉ!
でも、お嬢様が強く決意してしまっている現状、婚約破棄をするのは難しい。
頼りにしていた先王様も王太后様も、王族として肉親として、なんやかんや言って馬鹿王子を切れないし、それにとって一番最善な婚姻相手であるお嬢様が嫁ぐことには反対できないと見た。
その辺りが分かってしまったので、無理をいうことはしなかった。
ただ、学院で生活する上で、決定的に合わないと判断したら、絶対に嫁がせない! と宣言もしておいた。
先王様もそれには頷き「そのような有様なら、誰にとっても幸せにならないじゃろうからな。婚姻は止める」と言ってくれたし、王太后様も頷いてくれたので――どこまで当てになるかは不明だけど、今のところは良しとしておいた。
うん、別のお願いは快く引き受けてくれたから、今のところ、これ以上は望むまい!
明日は、いよいよお嬢様が学院の寮に入寮される。
そして、明後日には高等部への進学――つまり、ゲームスタートと同じ日になるのだ!
多くの悪役令嬢物のWeb小説であれば、ここから本番という事になる。
主人公たる――名前は覚えていないけど、ヒロインも入学してくるはずだ。
そして、攻略対象も――馬鹿王子以外は誰がそうなのかはよく分からないけど、そろい踏みをして、なんやかんやあるはずだ。
当て馬令嬢も……。
えぇ~っと、カトリーヌ・ラドゥ・クリスタリ、つまりお嬢様以外は知らないけど……。
う、うん、そう、攻略対象との出会いの場面だったり、重要なキャラとの遭遇だったり、 色んなフラグがあったりと――重要なシーンが目白押しのはずなのだ!
あぁ~良く知らないけど。
……わたし、全然、覚えていない。
覚えていないというか、聞いていないと言った方が正しいのか……。
え、ええっと……。
ゲームの内容なんて、全然分からないんだけどぉぉぉ!?
助けて、めがねちゃぁぁぁん!




