先王様に相談する!1
ママさんは凄く困った顔をしている。
いや、分かるよ!
王様も王妃様も、更に言えば先王様も王太后様も立派な人だもん!
あそこから、あんな馬鹿が産まれるとは想像が付かないよね!
ママさんは続ける。
「グライの元に嫁ぎ、一緒に居る今ならよく分かるわ。
共に歩みたいと思える相手と一緒になる事、それが何より大切なんだって。
もし仮に、前の夫がグライだったら、きっと、あの姑がいたとしても離縁なんてしなかったんだろうって。
……カティが殿下とそう思えるようになるのかしら?」
いや、絶対無理だから!
どう考えても、無理だから!
ルーシーお嬢さまを起こさないように気をつけつつも「がっ! がっ!」というと、ママさんは額に手を置いて顔を顰める。
「そうよね、無理でしょうね。
ただ、両陛下はこの婚姻に乗り気なのよ」
え!?
何で!?
わたしの疑問に答えるように、ママさんは続ける。
「アールイス王国よ。
あの国で仮に内乱が起きた時、国として1つに纏まっていなければ、下手をすると巻き込まれかねないと危惧をしているの。
だから、王家と、昔は国の1つだったクリスタリ侯爵家の〝姫〟との婚姻が必要なのよ」
……ゴドン老さんが以前、〝止まぬ理由から集まっただけの連合国〟と言っていた。
今、この時にその結びつきを強固にしようとしているってことか。
ママさんが辛そうに眉を寄せる。
「王妃陛下にも頭を下げられたわ。
カティの事は絶対に守るって……。
そのようにされると、わたし……」
そのまま、ママさんは俯いてしまった。
わたしもかける言葉が無かった。
――
「――とはいえ、キュートリックにとってはクリスタリ侯爵令嬢が一番大事、座して、クリスタリ侯爵令嬢が不幸になるのを見過ごす訳にはいかん!
……まあ、キュートリックの立場ならそうじゃろうな」
ストールっていうんだっけ? マフラーっぽい物を肩に掛けた先王様は、うんうん頷いている。
今日は先王様、王太后様の宮殿に訪問している。
「ただ、王妃も辛い立場なんだ。
そのことも――ごほっ! ごほっ!」
先王様が咳き込み、王太后様が心配そうに「大丈夫ですか?」と声を掛けた。
メイドさん達も慌てて近寄っているが、それを先王様は手を上げて止める。
そして、少し困ったように「すまんすまん、少し風邪気味でな」と言った。
先ほども、先王様の顔色が少し悪いので帰ろうと思ったんだけど、引き留められた。
「これぐらい、大したことが無い!」とのことだったけど……。
心配だ!
そんな様子が顔に出ていたからか、先王様はニッコリしながら「大丈夫だ!」とわたしの頭を撫でてくれる。
その掌も、いつもより冷たく感じた。
先王様は椅子の背に体を預けながら、天井を見上げた。
そして、メイドさん達に視線を向けると「ここは良い。全員、外してくれ」と声を掛けた。
メイドさん達は心配そうにしたが、先王様はニッコリしながら「大丈夫じゃ」と言う。
メイドさんは王太后様に一度、視線を向けた後「何かございましたら、すぐにお声がけください」と言うと下がっていく。
先王様は静かに目を閉じると、椅子の背に再度もたれかかった。
そして、話し始める。
「ウィンストン……現王の事だが、あれは非常に優れた王じゃ。
知能が高いのもそうだが、人を引きつける事にも長けている。
強い責任感や遂行力、そして……。
合理的でありながらも、情もある。
正しいと思った事を正しく選ぶ事が出来る。
父親のわしが言うのもなんだが、王としての素質は十二分以上にある。
また、王妃もその横に立つに相応しい女性じゃ」
そこまで言うと、先王様は大きくため息をついた。
「故にと言うべきか、ジョセフの気持ちを正しく理解していない部分が有る」
アホ王子の気持ち?
不思議そうに見ると、おじいちゃん先王様は苦笑しながらこちらを見返してきた。
「この国は現在、アールイス王国という不安要素があるので、1つに纏まらなくてはならない。
じゃから、クリスタリ侯爵令嬢を王太子妃として迎えるべきじゃ。
合理的に、正しくじゃな。
そして、そんな事情を汲んで婚約を受け入れてくれたクリスタリ侯爵令嬢に申し訳ないという気持ちを持つ――それは、情を持っていれば当たり前に考える事じゃ。
故に、己を殺してでも、ジョセフはクリスタリ侯爵令嬢を大事にするに違いない。
王らはそんな事を考えているじゃろう。
……じゃがな、人は誰しも合理的に動ける訳でもないし、情けを持って人と接する事が出来る訳ではない。
残念ながら……。
ジョセフは凡夫なんじゃよ。
わしと同じで、な」
先王様と同じ!?
似ても似つかないんだけど!?
王太后様が「陛下、凡夫などと、そのようにご自分を卑下なさっては――」と気遣わしげに先王様の右手に左手を重ねた。
先王様は首を横に振る。
「王太后、良い。
わしの才覚はわしが一番よく知っておる。
そしてな、それをいち早く熟知することは、王となる者に必要な素質だと、わしは思っておる」
先王様は自分に言い聞かせるように続ける。
「己を派手に着飾っても良い。
己を過剰なまでに強く見せるのも良い。
己を聖人のごとく見せるのも良い。
人の上に立つのじゃ、時には必要な事じゃろう。
ただ、それは周りにそう感じさせるだけにしなくてはならない。
己まで惑わされてはならない。
例えば、わしが王だった時代は、メーブリーの建国以来、もっとも平和で栄えた時代と言われている。
じゃがな、それは王太后を始めとする優秀な者達が築いたものじゃ。
己の身の丈を知っているわしは余計な事をせず、その邪魔にならぬように動き、時に支え、後押しをしたのみじゃ」
……いや、それはそれで優秀な王様じゃないかな?
「ちょうど、優秀な奴らが周りにいて、本当についておったわ」とか感慨深げに言ってるけど、先王様だから周りに集まってきたんじゃないのかな?
実際の所は分からないけど!
王太后様に視線を向けると、困った顔で見返された。
王太后様も同じ事を考えていそうだ。
そんな事をわたし達が考えているとも知らず、先王様は続ける。
「だが、ジョセフの様子を見る限り、その辺りを理解できていないようじゃ。
阿諛追従しかせん馬鹿者ばかりを周りに侍らせ、いい気になっておる!
わしがあれぐらいの年の頃は、王太后やウィルフなど才気溢れる者しか側に置かなかったものじゃぞ!」




