ママさんの事情
お嬢様と馬鹿王子の婚約が決まった時、わたしは激しく反対した。
もう、全身を使って断固反対と主張した!
エイサ坊ちゃまも泣きながら大いに反対していた。
パパさん、マーカスお坊ちゃまも消極的ながらにも「お前とジョセフ殿下とは合わない気がする」「止めた方が良いのでは?」と言っていたし、以前、賛成していたママさんも困った顔をしていた。
にもかかわらず、婚約が決まってしまったのは王家の希望と、なにより、お嬢様の意思があった。
多分、お嬢様の生真面目な部分が変な風に作用してしまったのだと思う。
お嬢様は「王家に嫁ぎます」と言うだけで、理由を一切話さないけど……。
多分、イザベル王女様の事が影響していると思う。
王女様がメーブリー王国の平和のために嫁いだのなら、自分もそうしようと考えてしまったのだ。
推測でしかないけど。
いや、それ以外に絶対合わなそうなジョセフ第一王子に嫁ぐ理由なんて考えられない。
しかし困った……。
わたしは自分の手(前脚)を眺めつつ思う。
お嬢様がアホ王子に嫁ぐのであれば、当然、わたしも付いて行く事になる。
これは決定事項だ。
だけど、わたし、耐えられるかな?
カッとなって大きくなり、気づいたら馬鹿王子がぺったんこになっていたり、炭になっていたりしないかな?
う~ん、まあ馬鹿王子だから、いいかな?
その時はその時に考えよう!
そんな事を考えていると、パパさんがお嬢様に言う。
「それよりも、カティ!
エイサがまた利かん気になってるんだ。
お前からも言ってやってくれ」
「エイサが?」
お嬢様が立ち上がりながら言うと、ママさんが困ったようにため息をつく。
「あなたが学院に行くのがヤダって部屋に閉じこもっちゃったのよ。
どうせ、あなたに構って欲しいだけでしょう。
少し、相手をして上げて」
お嬢様は少し困った顔で「分かりました」と頷いた。
全く、エイサ坊ちゃまには困ったものだ。
そんな事を考えつつ、お嬢様に両手(前脚)を広げて抱っこをお願いすると、何故かママさんが抱き上げてきた。
「キュートリックは、わたしとルーシーの相手をして頂戴!」
えぇ~!
ルーシーお嬢さまは一年ほど前にママさんが産んだ女の子で、まだ一歳の赤ちゃんだ。
ドラゴンファーをいたく気に入り、どれほど機嫌が悪くなっても、わたしを抱きつかせればすぐに寝てしまうのだ。
なので、ママさんは出来るだけわたしをルーシーお嬢さまの側に置きたがる。
いや、わたしはお嬢様の竜なんですけど!?
「がっ! がっ!」と主張しても、ママさんは気にせず、さっさと運んでいってしまう。
えぇ~!
ママさんはルーシーお嬢さまの部屋に入る。
床に敷かれたシートの上で、メイドさんと玩具で遊んでいるルーシーお嬢さまを見つけると、そちらに歩いて行く。
そして、わたしを側に置きながら「ルーシー、キュートリックが来たわよ」と言った。
「きゅ~、きゅ~」
とルーシーお嬢さまは嬉しそうに起き上がると、キャッキャとしている。
仕方がないなぁ。
わたしは自分の角でルーシーお嬢さまが怪我をしないように注意しながら、相手をして上げる。
そんな様子をメイドさんやママさんはにこやかに眺めている。
しばらくすると、疲れたのか、時間通りなのか、ルーシーお嬢さまがうつらうつらとし始めた。
ママさんがメイドさんに視線を送ると、そのメイドさんは丁寧に頭を下げる。
そして、寝入り始めたルーシーお嬢さまを持ち上げるとベッドまで連れて行く。
それを見送っていると、ママさんがわたしを持ち上げる。
胸に抱き上げたママさんはそっと囁くように言う。
「ねえ、キュートリック。
あなたはカティと殿下の婚約は反対かしら?」
「がっ!」
それは言うまでもない!
わたしの素晴らしいお嬢様にはもっとそれに相応しいパートナーがいるはずだ!
きっぱりと鳴くわたしに、ママさんは苦笑する。
「わたし、グライと結婚する前、別の家に嫁いでいたの」
え?
パパさんは再婚だとは思っていたけど、ママさんもそうだったんだ!
ママさんが続ける。
「その時、義母となった人と、とにかく合わなかったのよ。
もう、毎日のように〝あなたは当家に相応しくない! 相応しくない!〟と言われ続けたわ。
義母がその調子だったからってこともあって、元夫とも上手くいかなくなって、結局離縁をしたわ」
ママさんは悲しげに俯いた。
結構、やりたい放題なイメージのあるママさんも、実は結構苦労してるんだね。
知らなかった……。
「離縁する時なんて、酷いのよ。
義母に〝あなたのせいで耳がおかしくなった!〟とか言われて……。
わたしと耳となんの関係があるっていうのよ!
どうせ、老化で聞こえにくくなっただけでしょうに!」
……いや、ママさん!
それ、絶対、あなたが大声で言い返したからでしょう!?
多分、言い返されたその義母さんの耳がおかしくなっただけだから!
もう、激しい売り買いをするやり取りが目に映るようだけど!?
なんか、元夫さんにとって、ひょっとすると地獄の家庭だったんじゃない!?
分からないけど!
そんな事をおろおろ考えている間も、ママさんは続ける。
「それにわたし、ほら、身分が低かったのにグライとは幼なじみだったし……。
グライとの繋がりで、両陛下が王太子、次期王太子妃の時期に仲良くして頂いていたから……。
低い身分には相応しくないと、色々と言われたり、されたりで、嫌な思いをしてきたのよ」
ママさん、悲しげに言ってるけど、大丈夫!?
やり返したりとかしてないよね!?
前世のなんかの番組みたいに〝やられたらやり返す!〟とかやってないよね!
身分制度のある時代だと、洒落にならないと思うけど!?
終わった事だと思うんだけど、ドキドキするよ!
「……まあ、相応の報いは受けてもらったけど」
ちょ、何やったぁぁぁ!?
何、剣呑な目でぼそりと言ってるのぉぉぉ!?
恐れおののくわたしに気づいた様子を見せないママさんは、ため息をつく。
「わたしは、まあ、それでもある意味、邪険に扱われるのには慣れていたから、頑張って来れたわ。
だけど、カティは……。
優しい世界を生きてきたご令嬢じゃない。
凄く心配なのよ」
ま、まあ、わたしのお嬢様は素敵で可愛らしいんだけど……。
ママさんほどの強かさは無いと思う。
あと、結構頑固だから、上手く立ち回るような柔軟さも無いと思う。
ママさんは続ける。
「だから、王家に嫁げば大丈夫だと思ったの。
王妃陛下は幼い頃から仲良くして頂いていたし、懐が深い方なのでカティも大事にして下さるはずだし、両陛下のご子息なら間違いは無いと思ったの……」




