島に取って返す!
「がっ! がっ!」と言いつつ、甲板を指さし、降りるとアピールをすると、理解したのか何やら慌てている団長さんが指示を出した。
わたしを見つけた段階で、帆は畳んだ様で、船は今、浮いているだけの状態だ。
どこに降りれば良いかな?
あ、船首にスペースがある!
あそこに降りるかな?
わたしが指で示せば、団長さんがその場所に走ると、床を叩き始めた。
そして、「ここで!」と叫びながら、わたしが思っていた場所より少し内側を指さした。
あの場所の方が丈夫なのかな?
そんな事を考えていると、侯爵家の皆がそこを取り囲むように立った。
え?
あ、わたしがバランスを崩したら、命がけで支えようとしてる!?
いや、王女様だもんね、そうなるか!
皆の顔には悲壮な覚悟が浮かんでいて、ひょっとしてクッション代わりにしようとしているのか、枕とか大きな袋を抱えていたり、布を両手で広げていたりする。
う、う~ん、あんなの役に立つのかなぁ?
無いよりマシって気分なのかもしれないけど……。
わたしは顔を引きつらせつつも、船にゆっくりと近づく。
わたしの場合、前世、戦闘機というよりもヘリコプターみたいに着陸することが出来る。
そっと近づけば、大丈夫なはず!
……思ったより、船、揺れるなぁ~
少し不安になってきた。
ゆっくりとゆっくりと近づいていく。
ゆっくり~ゆっくり~今だ!
ドンっと降りると、大きく揺れた!?
タイミングが悪い!
足に力を入れると、バキッ! っという音と共に、指が甲板にめり込み後ろ脚を曲げる。
ぐっ!
な、何とか倒れるのは回避できた!
侯爵家の皆が、わっと近づき、イザベル王女様の救出に走る。
イザベル王女様は、女騎士さんに支えられて鞍から降りるとわたしに懇願するような顔で言う。
「キュートリック様、皆をお願いします!」
「がっ!」
わたしは体を小さくさせると、鞍から抜ける。
そして、目を丸くさせる皆の前で、飛び上がり鞍を足で掴むと、翼を思いっきり羽ばたかせ船の上に持ち上げていく。
ぬぬぬ、やっぱり小さいサイズだと、飛ぶ力が落ちる。
そんな事を考えつつ、足に力を入れて鞍を上に投げる。
そして、その中に体を滑り込ませると、大きくなった。
後ろから「おお!」という感嘆の声が聞こえてくる。
ふふふ、そうでしょう! そうでしょう!
わたしは凄いのだ!
体が大きいままだと、飛び上がる時、船を揺らしてしまうけど、一旦小さくなれば揺れも小さい。
その上で、体を大きくしつつ鞍を装着すれば、完璧なのだ。
まあ、鞍は装備できなくても最悪良いぐらいには思ってたけど……。
成功したのなら、問題なし!
パパさん達の元にレッツゴーだ!
力強く翼をはためかせると、高速で進んでいく。
無論、例の大砲付き船がこちら側に追ってきていたら大変なので、ドラゴンアイズ(広範囲版)で注意しながら飛ぶ。
取りあえずは、こちらに向かってくる船影は無しかな?
ん?
先ほどまで居た島が見えてきた。
あ、埃とか煙が上がっている!
そりゃ、こっちに来ていないんだったら、島での戦闘になるよね!
わたしは思いっきり息を吸い込み、叫んだ。
「がぁぁぁぁぁぁ!」
動揺したのか、島に撃ち込んでいた大砲が一瞬止む。
昨晩、あれだけやられたんだ、そりゃびびるよね。
島を取り囲むように、例の小舟が浮いている。
昨日より多い!
増援が来ているんだ!
……そんなに直ぐに来れるものなのかな?
通信技術が発達した前世ならともかく……。
魔術にそういうのがあるのかな?
いや、そんな事を思っている場合じゃない!
大砲をどうにかしなくては!
わたしは降下する。
鉄の塊がガンガン撃ち込まれるけど、ドラゴンアイズで大砲の向きを把握できる。
その線上から離れれば問題ない。
すいすい、躱していく。
そして、鷹狩りの要領で島に一番近い船の大砲を掴むと――バチっ! っと何かが弾け、足に痛みが走った。
昨日の対策を取ってあるみたいだ――けど、この程度、どうという事もない!
無視して、大砲を引っぺがす。
船尾にいる魔術師っぽい人が魔術を唱え始める。
させない!
息を吸うと「がぁぁぁ!」と竜の咆哮で――ぐほっ!? 側にいた人が何かを口に投げてきた!?
唐辛子っぽいの!?
喉が痛い、痛い!
しかも、魔術師っぽい人、ドラゴンロアーを受けてもお構いなしに詠唱を完了させたっぽい!
不味い!
慌てて飛び上がると、その振動で船にいた人達は海に落っこちる。
魔術も中断されたっぽい。
くっそぉぉぉ!
喉痛いぃぃぃ!
「がぁ~がぁ~」と喉を鳴らすと、お下品だけどしかたがなく、ツバを海に吐き出した。
あ、わたしに唐辛子爆弾を投げ込んだ人の顔にかかった。
多少薄まっていただろうけど、痛かったのか、海水で必死に顔を洗い流している。
ふっ、ざまぁ~!
って、そんなことをやっている場合じゃない!
大砲を積んだ船団は、一度中断した砲撃を再開している。
仲間がわたしに襲われているのも無視して、ひたすら、島に撃ち続けている。
くっそ!
どうする!?
ドラゴンブレスをすれば一発で沈むだろうけど……。
でも、直撃させたら流石に死んじゃうよね……。
くっ!
わたしは島を庇うように船団の前に移動する。
喉の奥を熱くさせ、首を横に振った。
ごぉぉぉ! と炎が火炎放射器のように吹き出ると、海面を撫でる。
これで、昨日のように怯えてくれれば――。
――水蒸気を突き抜けて、大砲が撃ち込まれていく。
くそっ!
これも駄目か!
すると、島の方から声が聞こえてくる。
普通なら聞こえない叫び声だけど、優秀なドラゴンイヤーがそれを拾ってくる。
パパさんだ!
パパさんが「こっちに戻ってこい!」とか叫んでいる。
ドラゴンアイズにも砂浜でこちらに向かって叫ぶパパさんが見えた。
竜騎用の兜を被っているので、推定にはなるけど……。
いや、そんな所にいたら、凄く危ないから!
慌てて反転すると、そちらに向かって飛ぶ。
後ろから撃ち込まれるかと思ったけど、水蒸気のためかそれに気づいていないようだ。
急いで、砂浜に着陸すると、パパさんが騎士さん数名を伴い走ってくる。
パパさんはわたしの背中に乗ると「殿下達は!?」と訊ねてきた。
わたしが手(前脚)で侯爵家の船に乗せてきたと説明をすると、「分かった! 次はあの船団をどうにかするぞ!」とかいっている。
パパさんを乗せた所で――とか一瞬思ったけど、わたしが船の上を飛行し、パパさんが多彩な魔術で攻撃するのも良い気がしてきた。
……自分が攻撃できないからって、パパさんにさせる。
そのことを色々思わなくは無いけど……。
今は、そんな事を考えている場合じゃないと飲み込む。
って、直撃で砲弾が飛んできたし!
「危ない!」
騎士さん達がわたしの前に立とうとするのを左手(前脚)で止めると、右手(前脚)で砲弾を前方に叩き落とす。
ふ~危ない所だった!
胸をなで下ろしていると、後ろからパパさんの困った声が聞こえてきた。
「いや、キュートリック……。
もう少し、なんというか、やりようは無かったのか?」
ん?
なんのこと?
視線を向けると、騎士さん達が左側に吹っ飛んでいた。
……止めるつもりだったけど、力が入りすぎていたようだ。
しかも、身を挺して助けようとしたのに、突き飛ばされたのがショックだったのか、気まずかったのか……。
皆、そろそろと起き上がると、視線を泳がしつつ体の砂を払ったり、咳払いとかしている……。
ご、ごめん……。




