王女様と撤退?
そんな事を考えつつ、小さくなったわたしは、イザベル王女様の膝でうつらうつらとしている。
木の上に掛けた布で雨を防いだ上に、目の前にはたき火がある。
なので、防寒が完璧とまでは行かないけど、仄かに温かい。
「がぁ~」
と大きな欠伸をしてしまう。
ふむ、ドラゴンとはいえ、もう日付が変わってもおかしくない時間なので、それも仕方がないだろう。
下手をすると徹夜になってしまう。
う~ん、警戒のために起きていたけど、少し眠った方が良いかな?
いや、まだまだ油断すべきじゃないかな?
判断が難しい!
すると、わたしの頭に置かれていた手が外れ、そして、「寒い」という声が聞こえてきた。
視線を上げると、イザベル王女様が肩に掛けられた女騎士さんの上着の、その前をしっかりと閉め直しているのが見えた。
たき火の光に照らされたイザベル王女様の肌が、先ほどより青白く見えた。
え?
大丈夫?
わたしが〝大丈夫!?〟という気持ちを込めて「がっ!?」と声を掛けると、イザベル王女様はニッコリと微笑み「大丈夫ですよ」と答えた。
いやいや、大丈夫に見えないから!
「がっ! がっ!」と言っていると、それに気づいた女騎士さんが「どうかされましたか?」と近づいてきた。
イザベル王女様が「何でもないわよ」というのを制すように、身振り手振りをする。
すると、イザベル王女様のメイドさんが少し険しい顔で近寄ってくると「姫様、失礼します!」と王女様の額に手を置いた。
そして、目を見開く。
「大変!
姫様、熱がございますよ!」
王女様のメイドさんの言葉に、周りにいる人達がざわつき始める。
「大げさよ……」
というイザベル王女様だったけど、その瞳が揺れる。
メイドさんは表情を更に険しくさせる。
「大げさではございません!
恐らく、体を冷やしてしまわれたからでしょう!
さ、少し横になってください。
誰か、医療魔術師を!」
「呼んでくるわ!」
と、女騎士さんが駆けていくのにも一瞥もせず、メイドさんは座ると、その膝を枕代わりにするように、イザベル王女様を横にさせる。
イザベル王女様は「大丈夫なのに……」と言いつつも、弱々しく体を横たえる。
その体は寒いからか、微かに震えていた。
王女様のメイドさんはその肩や背をさすり、何とか温かくさせようとする。
って、見ている場合じゃないか。
モフモフなわたしを抱きしめてくれれば、多少は温かくなるだろう!
いや、それよりも……。
わたしは王女様の後ろに移動すると、ぐぐぐっ! っと大きくなった。
先ほど、パパさんを乗せた時と同じサイズだ。
王女様のメイドさんが振り返り「きゃ!」と声を上げる。
そんなメイドさんに身振り手振りで交代すると伝えた。
「温かいわ、キュートリック様……」
薪の前で横になると、イザベル王女様をもふもふなわたしの胸の上に乗せ、腕(前脚)でハグするように固定した。
やはり疲れていたのか、イザベル王女様は直ぐに寝息を立て始める。
ゆっくり休んで貰おうと、わたしは極力動かないように注意する。
王女様、極上のドラゴンファーに包まれておやすみなさい!
そんな事をやっていると、王女様のメイドさんがすすすっと近寄ってくる。
そして、ぼそりと言う。
「キュートリック様は……。
オス、とかではないですよね?」
前世、女の子ですが!?
すると、何人かが近づいてくる気配を感じる。
ドラゴンアイズで意識すれば、松明を持った王女様の女騎士さんと侯爵家の騎士さん、その後をパパさん、メガネ宰相さん、護衛騎士のジョシュさんら首脳陣が続いていた。
女騎士さんは困った顔、首脳陣は硬い表情をしている。
足音に気づいたメイドさんが振り向くと、メガネ宰相さんが招くように手を振った。
メイドさんは囁くように「キュートリック様、少し、姫様をお願いします」と言うと、パパさん達の元に早足で行く。
わたしの優秀なドラゴンイヤーが少し離れた宰相さんの、どことなく淡々とした声も拾ってくる。
「医療魔術師だが、怪我人の治療の為、魔力欠乏を起こしている。
無理をさせる事も出来なくはないが……。
殿下のご容態はどうだ?」
「熱はまだ、下がってはいませんが、今は眠っていらっしゃいます。
キュートリック様のお陰で、温かくされていますので、少し様子を見る事も可能かと」
宰相さんが表情を変えず頷く。
「取りあえず、朝まで様子を見よう。
それまでには、医療魔術師の魔力も、ある程度回復するだろうしな。
朝、明けてからどうするかだが……」
宰相さんにチラリと見られて、パパさんは頷く。
「わたしが夜の内に帰ってこなかったら、救助船を出すように伝えてある。
白バラ姫号ほどではないが、巨大軍船でくるとは思う……」
渋い顔で言うパパさんに、王家護衛騎士のジョシュさんが言う。
「正直、あの小型船団の鋼鉄の玉を放つ魔道具は、大型船であればあるほど厳しいです。
キュートリック殿に乗った閣下がいらっしゃらないと対抗できないので、その辺りの対策も必要になるかと」
宰相さんが口を挟む。
「あと、どれだけあの魔道具を乗せた船があるか次第になるが、この島も安全とはいえないな。
取り囲まれ、鋼鉄の玉を撃ち込みつつ兵を送られれば、かなり厳しい戦いになる。
何より、殿下のお命も危うくなる」
パパさんが少し考える様子を見せた後、こちらをチラリと見る。
そして、女騎士さんに視線を向けた。
「君は、殿下がキュートリックに乗っている時も、護衛として一緒に居たな」
突然、話を振られた女騎士さんは声をうわずらせつつも「は、はい!」と返事をする。
「例えば、キュートリックに殿下と乗ることは可能か?」
ジョシュさんが訝しげに「侯爵?」と言い、宰相様が「なるほど」と頷いた。
女騎士さんは動揺した様子で答える。
「せ、説明は聞いていましたので、例えば、わたし1人であればなんとか。
ただ、殿下とご一緒となると――」
女騎士さんの言葉を打ち消すように、パパさんが言う。
「キュートリックは賢い奴だ。
乗り手の様子を気に掛けてくれる。
問題は、乗り手がやってはいけない事をしてしまい、キュートリックを動揺させてしまうことだ。
そこさえ押さえてくれれば良い」
ジョシュさんが目を見開く。
「侯爵!
まさかキュートリック殿に殿下を乗せて、プールマスまで戻っていただくおつもりか!?」
パパさんは真剣な表情で頷く。
「宰相の言う通り、ここに殿下がいらっしゃるのは危険だ。
ここで手をこまねき、相手方に襲撃の機会を与えるよりは、キュートリックに乗って安全な場所に戻って頂く方が良い」
「しかし!」
ジョシュさんが何かを言おうとするのを、宰相さんが手を上げて制する。
「わたしも侯爵の意見に賛成だ。
相手方の手の内を全て把握し出来ていない現状、この場にいるよりは、キュートリック殿と戻られるのが安全だと思う。
それに、我らの現状を国に伝え、対処して貰う必要もある。
そう考えれば、キュートリック殿と殿下にはプールマスに戻って頂くのが良い」
宰相さんにも言われては反論できないのか、ジョシュさんは渋い顔で頷いた。




