弾撃と雨にさらされながら1
ふむ、多分あれらと付き合っていると、夜が明けてしまう事だろう。
わたしは装備していた照明の魔道ランタンを点灯させると、パパさんに背中を向け、ゆっくりと走り出した。
脳筋パパさんは全身鎧を装備していようが、雨で地面が泥濘んでいようが、かなり速く走る事が出来る。
なので、しばらくすると、わたしの背中の鞍を掴むと、引き寄せるように乗ったようだった。
後ろから「閣下ぁぁぁ!」という悲鳴に近い怒声が聞こえてくる。
が、固定具を取り付けたのか、わたしの背中が叩かれる。
飛べって合図だ。
駆けたまま翼を広げ、地面を強く蹴る。
体がふわりと浮き上がり、更に翼を軽く羽ばたく。
「キュー!」
というお嬢様の声が聞こえてくる。
視線を向ければ、お屋敷のバルコニーにお嬢様が立っていた。
お嬢様が更に「何をやってるの、キュー! 止めなさい!」と叫んでいる。
ああ、お嬢様があんな風に雨に濡れてしまうと、風邪を引いてしまうのに!
軽く反転しながら〝大丈夫ですよ、お嬢様!〟という気持ちを込めて、「がぁ!」と鳴くと、パパさんも「カティ、すぐ戻る!」と叫んだ。
わたしが旋回した後、海に向かって飛ぶと、背後から「キュぅぅぅ! お父様ぁぁぁ!」というお嬢様の声が聞こえてくる。
だけど、申し訳ないけど、それどころじゃない!
パパさんも加速するように指示を出してきた。
わたしは強く、羽ばたいた。
海の上を結構な速度で飛んでいく。
雨粒が顔に当たって鬱陶しい。
時化というほどでもないから助かってはいるけど……。
とはいえ、暗いし、雨雲が月明かりどころか星の光すら隠しているから、きちんと飛んでいるのか、時々不安になる。
背中から少し左に飛べと合図が来る。
言う通りにしつつ、右手に付いている銅板でパパさんを映そうとする。
……なにやら、光っているのは分かるけど、濡れてるのでよく分からない。
多分、魔道ランタンで方位磁石的なものを見つつ、こちらに指示を出しているのだとは思う。
因みに、わたしが付けている鞍、乗り手の前方に魔道具が付いていて、風やら雨やらを防いでくれるらしい。
まあ、そうしないと高速で飛んだ時、向かい風で息が出来なくなっちゃうもんね。
いや、それはともかく、これ方位は分かっても海面が暗すぎて、下手をすると船を追い越しちゃうんじゃないかな?
明かりを付けながら飛んでいればいいけど、その辺り、よく分からないし。
見張りの人は外に出てるから、少しぐらいは付けているのかな?
それでも、この状況下だと、豆粒程度にしか見えないだろうけど。
……いや、わたしなら見える!
なんといっても、わたしはドラゴン――優秀なドラゴンアイズなら、夜目だって利くはずだ。
しっかり見ろ!
絶対に見えるはずなのだ!
なんて、自分に言い聞かせつつ、目を凝らしていると――ただの暗闇だった海面が、徐々にその形が見えてくる!?
うわっ!
本当に見える!
ただ見えるだけでなく、水面の揺れる波の一つ一つが把握できている感じだ。
しかも、正面だけでなく、わたしを中心に100メートル四方ぐらいの動きが、立体的に分かる、そんなイメージだ。
どんだけ優秀なの、このドラゴンボディ!
そんな風に感動していると、遠くから何かが砕けるような音が聞こえてきた。
視線を向けるも、流石にそこまでは見えない。
ただ、少し、明るい気がする。
パパさんにも聞こえたのか、更に加速するように促してきた。
良し行くぞ!
しっかり掴まってて!
そんな気持ちを込めて、「がっ!」と鳴くと、羽ばたく翼を、更に強めた。
雨を裂くように、一気に加速していく。
近づくにつれて全貌が見えてくる。
思ったより、明かりは広くて強い。
!?
巨大な木造船、白バラ姫号が見えてきた。
時折、大きく揺れ、しかも、煙を上げて傾いている。
周りに付き従っていた船も、半壊している。
嘘!?
一体何があったの!?
いや、何よりもだ!
注目をこちらに集めよう!
わたしは左手(前脚)でパパさんに合図をする。
しばらくすると、後ろから許可する合図が送られてきた。
大きく息を吸うと、思いっきり吠えた。
「がぁぁぁぁぁぁ!」
更に、パパさんがしたのだろう、わたしの周りが魔力の照明で明るくなる。
これで敵も味方もこちらに気づいたはず!
出来るだけ、味方にわたしの胸にある侯爵家の印が見えるように飛んでいると、何かがすぐ横を通り過ぎた。
え?
何?
視線をそちらに向けるも、何もいない。
何だろう?
と、飛んできた元らしき方向に視線を移す。
ん?
あれは、船?
前世、漁師さんが10人ぐらい乗ってそうな漁船――そのサイズの船が何隻も見えた。
その上には筒? っぽいものが船首に置いてあり、何故か全て、こちらを向いていた。
?
その筒を操っているだろう人達がこちらを向きながら、何かをした。
……あ、た、大砲だぁぁぁ!
「ががが!」と緊急回避を伝えつつ、体を右に傾けながら、高度を下げる。
先ほどまでわたし達が居た場所を、無数の砲弾が通り過ぎる。
ひぃぃぃ!
びっくりしたぁぁぁ!
くっそぉぉぉ!
わたしは降下をしつつ、船の背後に回る。
大砲は、そんなに簡単に向きを変える事が出来ないようで、船の上にいる人達はなにやらオロオロしている。
よく見ると、その船は帆が無くて、代わりに櫂の漕ぎ手が10人ほどいる。
大砲? が船首に取り付けられていて、それを操作する人が2人、砲弾を用意する人が2人ほどいるようだ。
ん~?
船の大砲って側面に付けるイメージがあったけど……。
いや、それはともかく!
そんな船が20――いや、30隻はあるかな?
なるほど、小さい船でちらばり魔術を避け、大砲で船を遠距離砲撃をしてた訳か。
だけど、わたしが来たからには、好きなようにはさせない!
わたしは目の前にある船、その船首に狙いを定める。
すると、後ろから「光!」という声が聞こえてきた。
慌てて左手(前脚)で目を隠し、目を閉じる。
まぶたや手(前脚)を越えて、強烈な光が見えた。
パパさんの閃光魔術だ!
スタングレネードみたいな効果がある。
船上の人達が体を丸めながら怯むのが見える。
よし!
わたしは船首にある大砲の上に降りると、掴みながら飛び上がる。
固定されていたのか、船が持ち上がったけど、無理矢理引きちぎった。
殺さないように無力化させるのなら、これしかないよね!
……何人かが海に落ちたっぽいけど、まあ、海に慣れた人(推定)なら、これぐらい平気……だよね。
そんな事を考えていると、後ろから脳筋パパさんが次の船に向かうように促してくる。
はいはい、分かりましたって!
掴んでいた大砲を海に落として、次に向かう。




