巨大な船!?
「ああ、キュートリック様、お帰りなさい!」
イザベル王女様が立ち上がると、わたしの側まで来てくれる。
そして、メイドさんが持つクッションから抱き上げてくれた。
ふむ、お嬢様ほどでは無いにしても、イザベル王女様の元は落ち着く。
先ほど、パパさん達にも報告を済ませたし、今日の仕事は取りあえずお終いかな?
そんな事を考えていると、ケーティさんも側に来て「お疲れ様です、キュートリックさん」と労ってくれた。
……まあ、疲れた半分はお宅のメイドさんのせいってのもあるんだけどね。
そんな事を考えつつ間に、イザベル王女様とケーティさんは椅子に座り直す。
わたしはイザベル王女様の膝の上でリラックスする。
勿論、何かあったらすぐにイザベル王女様を守る気概は持ちつつだ。
そんな事を考えていると、ケーティさんが話し始める。
「ここまでの道中、いかがでしたか?
何か、ご不便などはございましたか?」
イザベル王女様がわたしの背中を撫でつつ、答える。
「いいえ、特に何も。
天気も良いですし、問題は無いわ」
「それは良かったです。
ただ、この時期、海は荒れやすいと聞きます。
ご注意ください」
「ええ、そうするわ。
ありがとう。
でも、海の上はクリスタリ侯爵家の艦船に乗せて頂く予定だから、大丈夫よ」
「ああ、あの大きな船ですね。
プールマスで乗せて頂いた事があります」
王女様達がそんな風に話していると、扉がノックされる。
ケーティさんのメイドさんが応対すると、王女様のメイドさん達だった。
「殿下、そろそろ晩餐のためのお着替えを」
うわぁ~
旅で疲れているだろうに、すぐに晩餐かぁ~
大体、こういう時のものは夕食を食べるだけでは無く、色んな人からの挨拶を受けなくてはならない。
わたしだったら、顔を顰めてしまうだろうけど、流石は王女様、軽く微笑みながら「分かったわ」と答えた。
立派すぎる!
ケーティさんやウィルキン伯爵と別れてマンチルト、更にボーンへと向かった。
……道中、驚くほどすんなりと進む事が出来た。
無論、パパさん達の念入りにねられた計画と、侯爵騎士や兵士さん達の頑張りがあってこそだろうとは思うけど……。
不気味なほど、順調だった。
わたしも時折、空から警戒をしたけど、怪しい人影もなければ、実際、襲撃に遭う事もなかった。
結局、ゴールである港町プールマスまで来てしまった。
これは……。
どう考えた方が良いのかな?
もう既に、ゲーム時のシナリオから逸脱していて、王女様が襲われるという未来は回避されたと考えた方が良いのかなぁ。
う~ん。
悩みつつ、イザベル王女様に抱っこされながら馬車から降りる。
すると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ようこそ、プールマスへ。
王女殿下にご訪問頂き、光栄に存じます」
わたしが顔を向けると、マーカスお坊ちゃまとお嬢様が膝をつき、頭を下げていた。
侯爵家の使用人の皆も、それに倣っている。
イザベル王女様が柔らかく微笑む。
「頭を上げてください。
侯爵家の皆様には色々とお骨折り頂き、感謝しております」
マーカスお坊ちゃまやお嬢様が立ち上がると、使用人一同もそれに倣う。
イザベル王女様は「キュートリック様、ここまでありがとう」と囁き、わたしをお嬢様に差し出す。
お嬢様は恭しくわたしを受け取ると、ぎゅっとわたしを抱きしめてくれた。
久しぶりのお嬢様のハグ、柔らか温かいそれに、心が安らぐぅ~
「王女殿下、こちらに」
とマーカスお坊ちゃまがエスコートをしつつ、お屋敷に誘った。
ひゃぁ~!
大きい!
わたしがお嬢様に抱かれながら、それを見上げていると、メイドのアネットさんが「キュートリック、口を閉じなさい。恥ずかしい」と囁いてきた。
慌てて口を閉じる。
お嬢様の竜として、少々恥ずかしい事をした。
でも、仕方がないの!
だって、この船、凄く大きいんだもん!
全長60……いや、70メートルぐらいはあるんじゃないかな?
お嬢様とアネットさん達とで港に見に来たそれは、巨大な帆を持つ巨大な船で、回りに停泊している、いかにも中世ヨーロッパの船が玩具じゃないかと思えるほどであった。
縦だけでなく横にも大きくて、帆柱がなければ空母っぽく見えたかもしれない。
勿論、前世、タンカーとかには全く勝てないと思うけど、この世界で言えば相当大きいと思う。
「どうだ、凄いだろう!」
と言う声と共に、パパさんが近づいてくる。
何やら、自慢げだ。
「我が侯爵家保有で最大級の船、白バラ姫号だ。
風だけでなく、魔術師の魔力爆発を使用して進む事が出来る自慢の1隻だ。
船の側面に特殊な仕掛けがあり、揺れを少なくしてあるから、乗るのも快適だし、戦闘時に魔術師の詠唱の妨害も少なく済む。
この不沈の船なら王女殿下もご安心して頂けるだろう」
まあ、パパさんが自慢げにするのも分かる気がする。
木造だけど、凄く大きいし頑丈そうだもん。
ただ、小さい船に取り付かれたら、対処できない気がする。
パパさんに身振り手振りでそのことを伝えると、何やら意外そうな顔で「お前、意外に賢いな」とか言ってくる。
お嬢様の竜だから、これぐらい当たり前でしょう!
「がっ! がっ!」と遺憾の意を伝えるわたしに、パパさんは笑いかけてくる。
「だが安心しろ。
魔術師が所定の場所に配置できれば、問題ない。
最悪、弩砲もあるしな」
弩砲、確か、お城で見た事がある。
前世で言えばバリスタみたいなものだ。
魔術とバリスタで対処すれば大丈夫なのかな?
お嬢様が心配そうに訊ねる。
「お父様もアールイス王国に付いて行かれるのですか?」
「いや、そういう話もあったが行かない。
宰相も行く訳だし、わたしは何かあった時のために、ここに待機だ。
代わりに――」
パパさんが視線をお嬢様の後ろに向ける。
わたしも、お嬢様もそちらを向くと、厚手の軍服を着たゴドン老さんが、同じ服を着た人達を連れて歩いてきた。
相変わらず、杖をついているけど、表情は少し楽しげだった。
「ゴドンが王女殿下と共に行く。
頼んだぞ、ゴドン」
「でも、ゴドン老は……」
お嬢様が心配げに眉を寄せると、ゴドン老さんは「ハハハ!」と笑う。
「ご安心ください、お嬢様。
確かに、右足は少々役立たずにはなってますが、船の上はわしが50年は過ごした場所、どこの何者が相手でも、後れは取りませんぞ!」
パパさんも頷く。
「大丈夫だ、カティ。
ゴドンは名うての魔術師でもある。
そうそう、後れは取らんさ」
パパさんの言葉に、ゴドン老さんは嬉しそうにする。




