王女様はわたし(ドラゴン)が守る!
あと、騎竜用の鞍についても、いつでも装備できるように用意されている。
こちらについては、パパさん達と相談して、瞬時で装備できるように工夫したのだ。
まあ、使わないに越した事は無いんだけど、前世のゲームでは王女様が襲われることになっているので、使わざるを得ないんだろうな~とは思っている。
いや、前世小説? 漫画? 風に言えば、〝それを使う前に倒してしまっても良いだろう?〟って奴かな?
うむ、何が来ようが、絶対にイザベル王女様を守ってみせる!
絶対にだ!
わたしが気合いを入れているとイザベル王女様のメイドさんがクスクス笑う。
「キュートリック様はイザベル王女様を守ろうとされているご様子ですね」
わたしが〝その通り!〟と言うように「がっ!」と鳴けば、メイドさんは「まあ、頼もしいですね」と楽しそうにしている。
イザベル王女様も「キュートリック様は頼もしくて、素敵な竜様なのよ」と言ってくれる。
そう、その通り!
わたしは頼もしい、お嬢様なの竜なのだ!
夕闇が迫る頃、ディングの町に到着する。
王都を出てからここまでの数日、特に何事も無い。
ただ、先王様のおじいちゃんが言ってた警戒すべき場所は、ディング、マンチルト間、そして、マンチルト、ボーン間だった。
つまり、ここからが本番という事だ。
気をつけなければ!
お屋敷前に止まった馬車からイザベル王女様に抱き上げられ降りる。
移動中も辺りをキョロキョロ見つつ警戒する。
側には、パパさんも厳つい顔の護衛騎士さんであるジョシュさんもいるから、まあ、大丈夫だと思うけど。
因みに、護衛騎士さんだけでなく、何故か、生真面目で気難しそうなメガネの宰相さんも付いてきている。
護衛とかでは無く、貴賓側の様だ。
政治的な話をするために付いて行くのかな?
その辺りまでは聞いてないや。
すると、貴族服を着たおじさんがにこやかに歩いてきた。
その後ろから、ご婦人、ご子息、ご令嬢も付き従っている。
おじさんはイザベル王女様の前まで来ると、片膝を付き、頭を下げた。
このおじさんは知っている。
この地を治めている、ウィルキン伯爵様だ。
後ろにはマーカスお坊ちゃまの婚約者さん、ケーティさんもいる。
イザベル王女様は、ウィルキン伯爵様の前に立つと、笑顔で挨拶をする。
「ご無沙汰をしています伯爵。
お世話になります」
ウィルキン伯爵様は頭を下げたまま挨拶をする。
「ご無沙汰しております、王女殿下。
殿下の晴れの日にお迎えできる事、光栄に存じます」
一通り挨拶を終えると、立ち上がったウィルキン伯爵様自ら、王女様を案内する。
因みに、伯爵は仲良しであるパパさんとも、顔見知りであるわたしとも、挨拶をしない。
まあ、賓客が賓客だし、パパさんも護衛として来ているから仕方がないよね。
ケーティさんだけは、わたしと目が合うと少し微笑んでくれた。
ほんと、あのマーカスお坊ちゃまですら勿体なくないレベルの美人さんだ!
いや、そんな事を考えている場合じゃなかった。
お屋敷に入るのなら、ここは大丈夫だろう。
暗くなる前に、この辺りを一回り飛んでおこうかな?
わたしが「がっ!」と鳴くと、パパさんが側に近づき、イザベル王女様に言う。
「殿下、キュートリックが辺りを見回ると言っております」
「ええ」とイザベル王女様は頷き、宰相さんに視線を向けた。
宰相さんは頷き、ウィルキン伯爵様に訊ねる。
「伯爵、キュートリック殿に飛んで貰っても良いだろうか?」
ウィルキン伯爵様は丁寧に頭を下げながら言う。
「勿論でございます。
各方面にも話は通してございます」
「ありがとうございます」
イザベル王女様はそう言いながら、パパさんにわたしを差し出す。
恭しく受け取ったパパさんは、わたしに「行くぞ」と囁き、屋敷とは逆方面に下手投げの要領で上に投げた。
わたしはその勢いのまま、翼をはためかせ、空に向かう。
上からお屋敷周りを見渡すと、要所、要所に兵士さんや騎士さんが配置されていた。
隙は、無さそう――な気がする。
いや、素人のわたしにはよく分からないけど……。
騎士さん達は時折、こちらを見る。
手を振ってくれているのは、顔見知りの騎士さんか。
お嬢様と一緒だったり、パパさん達の頼まれごととかで、何度か来ているから、そこそこ、知り合いが出来ているんだよね。
前脚を振り返しつつ、夕焼けに染まったお屋敷周りに怪しい輩がいないか見渡していく。
薄暗くなり、この時間になればだんだん、人間の目では見にくくなっているだろうけど、優秀なドラゴンアイには関係ない。
夜間訓練もしたけど、月明かりが無い夜でも、結構しっかり見えていて、パパさんを驚かせたりもした。
我ながら、凄い!
う~ん、取りあえずは問題なさそうかな?
玄関に戻ると、脇に止まり木が用意されていた。
その側にいた騎士さんの誘導に従い、そこに止まる。
すると、ニコニコしたメイドさんが近寄ってきて「キュートリック様、わたしがご案内します」と言ってきた。
そして、豪華なクッションをこちらに向けてくる。
まあ、わたしも王城で、各貴族邸で、貴賓として扱われてきた竜だ。
これぐらいの扱いは当然かな?
わたしはクッションの上にちょこんと乗ると、横になる。
そして、〝案内を頼む!〟という様に「がっ! がっ!」と鳴いた。
すると、どこからやってきたのか、若いメイドさんがキャッキャと集まってきて「可愛い可愛い!」と撫でてくる。
えぇ~
わたしの乗ったクッションを持つメイドさんも一緒になって「可愛いよねぇ~」と言うだけで、進まない。
いや、早く進んで欲しいんだけど?
側にいる騎士さんも、若い女の子達に気後れしているのか「あ、あの、早くお連れしたほうが……」とかオロオロするだけだ。
えぇ~
すると、比較的年配のメイドさんが、ずんずんやってくると「あなた達! 何をやってるの!?」と叱りつけた。
そして、「ひぃ!」と震え上がっている若いメイドさん達を睨め付けながら「貴賓であるキュートリック様に対してなんて態度ですか! 恥を知りなさい!」と若いメイドさん達を追い払ってくれた。
わたしを乗せたクッションを持つメイドさんも硬直している。
おお!
助かった!
これで、戻れる。
すると、比較的年配のメイドさんは申し訳なさそうに眉を寄せながらわたしに言う。
「申し訳ありません、キュートリック様。
あの子達にはきちんと言って聞かせますので、ご容赦を」
いや、ご容赦するのは構わないんだけど……。
貴賓を撫でるのはそろそろ止めにして、案内をして欲しいんだけど……。




