お嬢様の誕生日会!
王家の騎士さんとは違うマントの――公爵家の騎士さんなのかな? お兄さん騎士さんがアントワーヌ君を抱え上げる。
お嬢様が「こちらに」と先導するように歩き出そうとする。
すると、「おい、いつまで待たせる!」とかいう馬鹿王子の苛立つような声が聞こえてきた。
「あっ」とお嬢様が逡巡すると、アントワーヌ君が「大丈夫……。殿下のお相手を」と苦しそうにだけど笑いかけた。
オントワンさんが近寄ってきて「お嬢様は殿下を」と囁き、そして、「こちらに」と公爵騎士さんたちを先導していく。
それを、お嬢様は心配そうに見送った。
――
侯爵邸パーティホールにて、お嬢様が悠然とお辞儀をされると、千人以上は居るだろう賓客さん達から拍手が送られた。
無論、アネットさんの持つクッションの上に乗せられたわたしも手(前脚)を叩いた。
あんまり音は鳴らないけど……。
しかし、お嬢様、ご立派だ!
前世で言えば中学生、いや、まだ小学生かな? それぐらいの女の子が、あんなに人が沢山居る前で、しっかりとご挨拶をされたのだ。
立派すぎると思う!
因みに、ママさんは最初だけでもと参加しようとしてたんだけど……。
明らかに顔が真っ青で、しかも、ふらふらしていたものだから、お嬢様を始めとする全員に止められた。
さらに、お嬢様の叔父様ってのは、パパさんを細くして、メガネを掛けた繊細系イケメンさんなんだけど……。
「ひ、人前で話をするなんて、無理!」
とか言って、部屋の端で蹲り、ぷるぷる震えて役に立たなかった。
叔父さんの奥さんはしっかりした人ではあったけど……。
喉を痛めていて大きい声が出せないとの事だった。
叔父さんの息子さんもしっかりしていて、しかも、美しいお嬢様のために頑張ろうという強い意志を宿した瞳で「僕がやります!」と胸を張っていたけど……。
6歳児にさせる訳には行かず、最終的に、裏方を叔父さんの奥さん、表をお嬢様をという役割分担になった。
そんな事を考えている間に、お嬢様は移動する。
このパーティはお嬢様のお誕生をお祝いするもの。
なので、ここに居る全ての人のお祝いの言葉を受けなくてはならない。
勿論、千人は下らない参加者、1人1人にではない。
その辺りは代表者がって形にはなる。
それでも、料理などの載ったテーブルの間を抜けつつこちらに集まる人数はかなり多い。
実に大変そうだ。
お嬢様があらかじめ指定された場所、そこに置かれた椅子に座る。
その前にずらりと整列する人々、なんか、前世テレビで見た、アイドルの握手会みたいな感じだ。
その列は身分順で並んでいる。
なので、一番偉い人が先頭にいるはずだ。
とはいっても、第一王子ら貴賓は居ない。
いるのはあくまで、侯爵領の陪臣貴族さんとか代官さんとか、そういう関係者だ。
側に控えていたオントワンさんが軽く頭を下げると、先頭にいたおじいさんが近寄ってくる。
70代ぐらいかな?
杖をつき、顔には年相応に皺が刻み込まれている。
だけど、長身な上に背筋がピンと伸びていて、右足は多少不自由そうだけど、足運びもしっかりとしている。
切れ長で眼光が鋭く、ひょっとすると、若い頃は騎士さんだったのかもしれない。
そんなおじいさんがお嬢様の前に立つと、表情を柔らかくさせた。
「大変、ご無沙汰しております、カトリーヌお嬢様」
お嬢様も頬を緩めながら、答える。
「ゴドン老、ご無沙汰しております。
お加減はいかがですか?」
ゴドン老さんは顔を顰めながら、右足を手のひらでさする。
「年だからか、魔獣に囓られたこれが、なかなかどうも上手くないですなぁ。
昔は身一つで、侯爵家をお守りできると自負しておりましたが、この有様では、侯爵閣下を放りだして、美しいお嬢様だけをお守りする事になりそうですわ」
「もう、ゴドン老ったらそんな事ばかり言って」とお嬢様が可笑しそうに笑うと、ゴドン老さんはニヤリと笑い「まあ、それも一興ですな」とか言っている。
並んでいる人達からも笑いが起こっている所を見ると、このおじいちゃん、見た目とは違い、普段からおちゃめな人なのかもしれない。
すると、ゴドン老さんが、こちらを向く。
そして、楽しそうに言う。
「ほうほう、彼の竜殿が侯爵閣下のご自慢の御仁ですかな?」
「ええ、そうです。
ただ、一応言っておきますが、キュートリックはわたくしの竜です」
「ははは!
これは大変失礼を――」
「おい!」
突然、第一王子が割り込んできて、辺りが一瞬、騒然とする。
ただ、ゴドン老さんが片膝を付き、お嬢様が立ち上がった事で、周りに居た人達も、慌てて膝をついた。
そんな様子や慌てて止めようとするピエール君達など頓着せず、第一王子は言う。
「お前もその調子だし、他にもつまらん奴らしかいないからな。
俺はもう下がる。
後はお前達で勝手にやれ」
は、はぁ?
勝手にやれって、いや、お嬢様のお誕生日会なのに、なに、その態度は!?
流石のお嬢様もポカンとした顔をしたけど、何とか気を取り直し口を開ける。
「畏まりました。
このたびは――」
「おい、さっさと行くぞ!」
お嬢様の言葉を遮るように叫ぶと、馬鹿王子はさっさとその場を離れていく。
イケメン騎士系ピエール君は、可哀想に「申し訳ない! 大変失礼しました!」とかペコペコ頭を下げながらその後を続いて行く。
それを、侯爵家関係の人達は呆然と見送っている。
「愚かな」
語気の強い言葉に、ギョッとした顔でその場に居る全員が、それを吐き捨てた主――ゴドン老さんを見た。
ゴドン老さんは立ち上がると、静かに、それでも明らかに憤然とした様子を見せながら続ける。
「今でこそ、メーブリー王国として一つの国と成してはいるが、元々は複数の国が止むを得ぬ理由から集まっただけの連合国――それがなし崩し的にくっ付いただけだ。
そのことを考えれば、あのようにお嬢様を、そして、クリスタリ侯爵家を侮る様な真似、出来るはずはないのだが……」
それに対して、ゴドン老さんの話に耳を傾けていた人達が賛同するように頷いている。
その表情には、明確な怒りが見て取れた。
「ゴドン老……」
お嬢様が心配そうな、不安そうな表情でゴドン老さんを見上げると、おじいさんは困ったような顔をしながら、再度、片膝を付き、お嬢様に視線を合わせる。
「お嬢様、そのような顔をなさってはなりません。
今日は我らの大切なお嬢様の誕生を祝う日、ほれ、美しい笑顔を皆に見せてやって下され」
ゴドン老さんの言葉にお嬢様は、多少引きつってはいるものの、笑みを浮かべた。
ゴドン老さんはそれを嬉しそうに見つめた。




